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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「俺の事を信じられないのは分かる。でも、本当は一番にラミィに指輪を渡したかったんだ。朝から館中を探したけどラミィはいなかった。それでエマから渡すことにしたんだ」



……やはりこれも言い訳にしか聞こえないな。全く俺はダメだな。いくら言葉を並べても本当の気持ちは全然ラミィに届いていない気がする。世の男性達は一体どうやって喧嘩の後仲直りしてるんだ?



そこまで話してもう俺には紡ぐ言葉がなかった。半ば諦めのような気持ちでウキを見つめる。さっきまであんなに動いていたウキも、今はじっと水面を漂うだけだ。おそらくエサは取られて水面下には針しかないだろう。そんな仕掛けでは魚は釣れるわけはない。



それからどれだけ経っただろう。二人とも身じろぎひとつせず、ただ岩の上で午後の太陽の暖かさを感じていた。



「…………本当?信じていいの?」



ようやくラミィが口を開いた。もはや魚釣りとは言えない状態になっていたウキから目を離し、俺の方を向くとそう問いかけてきた。



俺もラミィを正面から見返し、その美しい瞳を見つめながら返事する。



「本当だ。俺のせいで3日も辛い思いをさせてごめんな」


「………うん」



ラミィはまだ信用しきっている風ではないが、なんとか俺の言葉を聞き入れてくれたようではある。


ひとまずはよかった。……だが、本当の勝負はここからだ。



「………ラミィ。もう分かってるとは思うけど、俺はラミィが好きだ」



「………!?」



「いつからかは分からないけど、初めて会ってそう時間も経たない頃から好きだった」



俺は驚いているラミィに構わず話し出す。もうだらだら答えを引き延ばすのはやめた。俺は俺の気持ちに嘘はつけない。



「いつも一緒にいてくれて、ずっと側でラミィを見てきた。ラミィのかわいい所も怒りっぽい所も、子供っぽい所も全部見てきた。もちろん、俺に隠している所だってあるだろう。……でも、そんな所を含めて全部のラミィが好きだ」



俺はそこまで話すと、一度立ち上がりポケットから指輪を取り出すと、エマの前でしていたときとは違うしっかりとした跪く姿勢をとった。


そして、跪いたまま指輪を差し出しながらラミィを下から見上げる。



「ラミィ。俺と結婚してくれ」



「……!?」



俺がはち切れそうな程の心臓の高鳴りを抑えながら、ラミィに人生の一大決心を伝えると、ラミィは言葉も出ない様子だ。


もしかすると断られるかもしれない。というか、喧嘩したばかりでこんなこと言っても信用してもらえないよな、普通…。


なんて俺はどこか冷静に考えながらも、同じ姿勢のままラミィの返事をじっと待ち続ける。



ラミィはその間俺と指輪を交互に見つめていたが、何か決心したようにようやく口を開いた。




「………私でいいの?」



そうか細い声で答えるラミィ。いつもの高飛車な態度など想像できないような声だ。



「もちろんだ。ラミィじゃなきゃダメなんだ」



俺は急いでそう答える。これは本心だ。俺がこれからもずっと共に過ごしたいと思えるのはラミィしかいない。きっとラミィとなら幸せな家庭、そして幸せな国を作っていけるはずだ。



それでもラミィは何か逡巡しているようで、なかなか次の言葉が口から出てこない。仕方ないと思った俺は、追い討ちをかけるように更に言葉を紡ぐ。



「ラミィ。俺はラミィがイエスと言ってくれるまでこの場を動かないからな。もうハートランド王国のことも、国民のことも無責任に放り投げる。俺にはラミィがいればそれでいいんだ」



俺が半分冗談半分本気でそう言い放つと、ようやくラミィにも笑顔が戻り、笑いながらこう言った。



「……フフフ。いやいや!さすがにそれはダメでしょ!アンタが作った国なんだからアンタが最後まで面倒みなさいよ!」



そして、いつもの感じで更にラミィは話す。



「仕方ないわね!アンタがそこまで言うなら私がお嫁さんになってあげるわ。……でもみんなにはまだ内緒よ。きっと魔女が無事に子供を産める方法があるはずよ。必ずそれを探し出すからそれまで待ちなさい」



やはりラミィは自分が子供を産めないことを気にしていたようだ。そう言うとニッコリと笑いかけてきた。



「あぁ。そうしよう。ラミィ、愛してるよ」


「………!?」



俺はそう言いながらラミィを抱き締めると、俺たちは初めて口づけをした。



釣竿も指輪も放り出して抱き合い、出会ってから初めて自分の気持ちに正直になれた俺達は、まだ付き合いたての少年と少女のようなキスをした後、なんか恥ずかしくなってしばらく無言になってしまった。






ちなみに指輪は手も指も小さいラミィにはサイズが大きすぎたが、無属性魔法で小さくするという反則的な方法で無理矢理左手の薬指サイズに調整した。



予想通りエサを取られていた釣竿や魔法のテントを回収した俺達は、山を抜けるまでの人目につかない場所ではずっと手を繋いで歩いた。


ラミィはずっと上機嫌で、



「これで天才美人人妻魔女になるのね。いや、天才美人魔女王妃の方がいいかしら…」



などと、いつものように訳の分からない事を話していた。




ラミィを連れて館に戻ると、ウィルやフラー、イーサンが歓迎してくれた。更にラミィの機嫌がいい様子をみてとると不思議そうな表情をしていたが、特に何も言うことなくいつも通りの日常に戻っていった。


もちろんその時には繋いでいた手は離していた。だが、俺達はもうお互いの気持ちをしっかり分かり合っているから大丈夫だ。



「じゃあ、私はヒコウキーの最後の確認をしてくるわね。……あぁ、そうだ。ジャッジにも手伝ってもらわないといけないからついてきて」


「そうだったな。わかった」



俺の事を名前で呼ぶことにまだあまり慣れていないのか、少し恥ずかしそうにジャッジと呼ぶラミィに連れられて、俺は館の庭に出た。



そこでラミィはマジックバッグからヒコウキーを取り出すと、ラミィがハンドルと呼ぶ操縦桿を取り出した箇所とは違う場所の蓋を開け、中からかなり大きな石を取り出した。これが例の魔石だろうか?



「大きいでしょ?これが私の開発した反重力魔石よ。アンタにはこれに魔力を注いでほしいの。それもありったけ」



手にした魔石を俺に向かって差し出しながらラミィはそう言う。俺の呼び方がまた「アンタ」に戻っている。まぁどっちでも好きな方を呼んでもらえればいい。



「魔力を?」


「そうよ。これは魔力を溜めておけるのよ。そしてその溜めた魔力を消費しながら空を飛ぶの。だから遠くに行こうと思ったらその分大量の魔力が必要って訳。……その点アンタはバカみたいな量の魔力を持ってるから、ヒコウキーの動力源としては優秀ね」


「動力源って…」



まるで少ない飼い葉でよく走る馬車馬にでもなった気分だ。確か俺はこの国の王様だったはずなんだが、ラミィにとってはそんなの関係ないらしい。きっと結婚したらもっと雑に扱われるのだろう。



「はぁ。わかった。貸してくれ」



惚れた弱みで何も言い返せず、俺はラミィから魔石を受け取ると掌に載せた魔石に魔力を注ぐことにする。


少し集中して魔力を注ぎ始めると、俺の体内に眠っているらしい大量の魔力をどんどん吸い込む魔石。


これまでも魔車などに魔力を直接注いだことはあったが、それとは比べ物にならない速さと勢いで魔力を溜め込んでいく。



「………おっと。もういいかな?」



ある時点で魔石が魔力を受け入れなくなったことを感じた俺は、放出していた魔力を止めた。



「あれ?もう一杯になった?……さすがね。私なら満タンにするのに休み休みで3日はかかるはずよ」



ラミィは驚いたような感心したような顔をしてそう言うと、俺から魔石を受け取りうんうんと頷いている。



「……よし!これでバッチリね!もういつでもサクラ山に出発できるわよ」



……そうだった。ラミィの家出事件のせいですっかり忘れていたが、鍛冶の得意なゴーン族探しの為にサクラ山という火山まで行く予定だった。


ラミィの機嫌がいいうちに出発することにするか。とりあえずウィルとエマにも話してみることにしよう。



俺は魔力満タンの魔石をヒコウキーに取り付けている、わがままだけどかわいい婚約者の後ろ姿を見ながらこれからの予定を考えていた。

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