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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィが家出した。




……なんでそんな事態になったか説明しなければならないだろう。


そう、あれは俺がサニーから装飾品を購入した翌日だった…。








「ジャッジ様!どうされたのですか?こんなところまでお越しになって」


「ハハハ。ちょっとな。……エマ、今少しいいか?忙しくないか?」


「はい?私なら時間はありますが…。ちょうど洗濯が終わったところですし」


「そうか。じゃあ少し話でもしないか?」



俺は早速昨日サニーから買った指輪を渡そうと、ラミィとエマを探して朝から館中をうろうろしていた。

本当はラミィに初めに渡そうと思っていたのだが、どうやらラミィは自宅に帰っているようで不在だった。そんな時、館の庭で洗濯物を干しているエマを見つけたのだ。



エマを誘って、俺は街を見下ろせるベンチに座った。このベンチは俺のお気に入りの場所で、露天風呂に入った後などに一人で街の夜景を楽しんでいる。ここから見下ろすと少しずつ街の明かりが増えて、元気なハートランド王国が再生していくようで好きなのだ。



「エマ。どうだ?館での仕事には慣れたか?」



俺は指輪を渡すタイミングを計りながら、エマに近況を聞く。いつも同じ館にいるのにあまり話す機会はない。エマは仕事があるから当たり前だが、俺もこうみえて意外に忙しいのだ。



「はい。フラーさんから教わりながらですが、やっと慣れてきたところです」


「そうかそうか。フラーは厳しいからな。俺もよく叱られたし、今でも叱られるな。ハハハ」


「……そんなことを聞くために誘われたのですか?」



俺の言動が不自然だったのだろう。エマは何やら怪しんでいるようだ。



「い、いや…。たまにはエマと2人で話をするのもいいかなぁ、なんて思ってな」


「……そうですか?…………はっ!すみません!気付かずに!これは夜のお誘いですね?もちろんいつでも構いません!今夜お伺いすればよろしいですか?それとも私の部屋で?……まさか露天風呂で!?」



何を勘違いしたのかエマは一人で暴走し始めた。こうなるとエマはかなり厄介だ。俺の意見など聞かずに勝手にどんどん話が違う方向に進んでいく。


……くっ、仕方ない。もっとムードがあった方がいいのは分かっているが、こうなると早く指輪を渡した方がよさそうだ。


予定とは違うが、そう考えた俺はポケットから指輪を取り出すとエマの目の前に差し出した。



「エマ。実はこれを渡したくてこの場所に誘ったんだ。俺の(普段の感謝の)気持ちだ。……受け取ってくれるか?」



俺がそう言うと、エマは俺の掌の上の指輪をしばらく見つめていたが、なんといきなり涙を流し始めた。



「!!??……ど、どうした?エマ!?」



俺はあまりにも予想外のエマの反応に、あたふたするしかない。俯いて涙を流すエマの表情を確認しようと、片膝を地面につく格好になる。


………そう。それは端から見るとまるで女性にプロポーズする様な格好だった。



「……………すみません。急に泣いてしまって。……はい。ジャッジ様の(結婚して欲しい)気持ちはよく分かりました。答えはもちろんイエスです。私の方こそよろしくお願いします」


「……ん?よろしく?何がだ?」



泣いていたかと思ったら、今度は満面の笑みで俺にそう話すエマ。目元に光る涙のせいで儚げでもあり、俺にはいつもよりエマが綺麗に見えた。


あぁ。やっぱりエマは美人だなぁ。こんな娘が俺の事を好きだと言ってくれるなんて俺は幸せ者だ。


……しかし、こんなに指輪一つで喜んでくれるとは思わなかったな。ジャッド族の男性はあまり女性に贈り物をしないのか?……いや、オリビアはイーサンに髪飾りを貰ったと言ってたな。エマはまだそういう経験が少ないからかな?


俺は跪いたポーズのまま、笑顔のエマの顔を見つめながらそんなことを考えていた。



「それじゃあ早速嵌めてみるか?サイズは選べなかったから、どれかの指に上手く入るといいんだが…」



まぁ喜んでくれてるからいいか!と、考えることを放棄した俺が、早速エマに指輪を嵌めてみようとエマの手を取ったその時だった。



ガシャン!!



と、何かが割れる音が俺の後ろから聞こえた。


その音にびっくりして勢いよく後ろを振り返ると、そこには驚愕の表情でこちらを見つめるラミィがいた。

足元には割れた大皿の破片や、その上に載せていたであろう大量のクッキーが散乱している。



「おぉ!びっくりした!……大丈夫か?ラミィ。怪我はないか?」



俺はさっと立ち上がると、指輪を握りしめたままラミィの側へ急いで向かった。


きっと手を滑らせたのだろう。小さい体であんな大皿一杯のクッキーを食べようとするからだ。俺に声をかけてくれればそれくらい運んだのに。…それにしてもいつ帰ってきたんだ?



俺が怪我がないか確認しようと、ラミィの手に触れようとすると、



「……触らないで!バカッ!アンタなんか嫌いよ!!」



と俺の手を振り払いながら大声で叫ぶと、散乱したクッキーをそのままに走り去ってしまった。

チラッと見ただけなので確証はないが、ラミィの目には涙が光っていた気もする。



「……………な、何だ?」



俺は何が起こったのかよく分からず、その場に呆然と立ち尽くすことしかできない。


……一体どういうことだ?俺はラミィが大皿の破片で怪我してないか確認しようとしただけなんだが…。あんなに強烈に拒絶しなくてもいいのに。



俺は地面に散らばるクッキーと大皿の破片を呆然とみつめながら、今のラミィの反応について考えていたが、ふとあることに思い当たった。



「………もしかして、俺とエマのやりとりを見てたのか?」



そうだとしたら、今のラミィの反応にも納得がいく。さっきの俺の格好は、今考えるとプロポーズする時の男性の格好と同じだ。それをたまたま目にしたラミィは、俺がエマにプロポーズしていると勘違いしたのかもしれない。


……いや、それで間違いないだろう。そしてショックを受けたラミィは大皿ごとクッキーを庭にぶちまけた後、怒り心頭でこの場を去ったというわけだ。


謎は全て解けた!………なんてふざけてる場合じゃないな。これはまずいことになったぞ。怒ったラミィは何をするか全く予想できない。館を火の海にするかもしれないし、俺とエマをまとめて氷の彫刻にすることだってラミィには簡単だろう。



「まずいな…。エマ!指輪はまた今度ゆっくり嵌めてみてくれ。取り合えず渡しとくから。俺はラミィに話をしてくるよ。すまん」


「……そうですね。その方がよろしいかと私も思います。ラミィ様もきっと自分が先にジャッジ様に求婚されると考えていたはずです。そのショックは計り知れないでしょうし…」



急いでラミィを追おうとする俺がエマに声をかけると、エマもやはり勘違いしているようだ。俺から受け取った指輪をうっとりとした表情で眺めながらそう答える。


……くそっ!俺が勘違いさせるような事を言うからいけないんだ。俺はラミィの言う通りのバカ野郎だ。



「……あぁ、そうだった。エマ!さっきのはプロポーズじゃないからな。普段の感謝の気持ちとしてのプレゼントだ。いいな!決してプロポーズじゃないからな!………プロポーズは将来もっとちゃんとした場で言うよ」


「……………はい。その日をお待ちしております」



きっとがっかりしているはずだが、そんな素振りは見せずにエマはそう答えてくれた。


本当にエマは俺にはもったいないような素晴らしい女性だ。俺ももっとエマやラミィとのことを真剣に考えないといけないな。このままずるずる引き延ばすのは良くないだろう。

ラミィはどうか分からないが、エマには結婚適齢期というものがあるはずだ。俺の都合でいつまでも待たすわけにはいかない。



エマに軽く頭を下げた後、俺は急いでラミィの後を追った。おそらく自分の部屋に向かったのだろう、と考えた俺は館に入り階段を駆け上がる。


そして、扉を開けっぱなしのラミィの部屋に飛び込むが、…………中は無人だった。

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