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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「……是非、今度遊びにいらしてください。っと、こんな感じかな?」



俺は自室で一人ケイレブ伯爵への手紙を書いていた。


サニーが預かってきた手紙には、ダポン軍撃退のお祝いや俺の体調を心配する言葉とともに、ソバを今後サニーを通じて定期的に購入したいとの希望もあった。俺への気遣いもあるだろうが、どうやらケイレブ伯爵自身も初めて食べたソバの味が気に入ったようだ。


その気持ちは俺もすごくよく分かる。あんなに喉ごしがよくていくらでも食べられそうな位さっぱりしているのに、意外と腹持ちも良いのだ。しかも香りまで最高ときている。今までの麺料理とは趣が違う。


きっとイーサン達、ジャッド族の男性のうったソバを食べたら更にびっくりするに違いない。年の功と言うべきか、年齢を重ねたジャッド族の男性のうつソバは絶品だ。俺もイーサンには無理を言ってよくうってもらっている。



手紙を書き終えた俺は、応接室で待っていてもらったサニーに手紙を託すために応接室に向かう。

エマにお茶の用意や、話し相手を頼んでおいたからまだいると思うけど、ケイレブ伯爵の手紙がなかなかに長くて時間がかかってしまった。申し訳ないことをした。



そんな事を思いながら少し早足で応接室に入ると、サニーと息子のサンは、エマと談笑しているところだった。



「遅くなってすみません。やっと書き終えたので次回セカーニュに行く用事がある際に、ケイレブ伯爵にお渡ししてもらってもいいですか?エマ。俺の代わりにありがとな」



俺がそうサニーとエマに声をかけながら向かいのソファーに座ると、すぐに控えていたフラーがお茶を用意してくれた。



「いえいえ。エマ様のような美しい方とお話させて頂ける時間がいかに貴重か、ジャッジ様にはお分かりになりますまい。しかも聞けばジャッジ様の側室にお成りの予定があるとか。いやぁ、うらやましい限りです」


「……エマ。そんな約束俺はしてないけどな?」


「フフフ。ジャッジ様ったら。お照れになったお姿もかわいいですよ」


「…………。」



俺が釘を刺してもどうやらエマには刺さらないみたいだ。こんな調子でどんどん外堀から埋められていくのかもしれない。……はっ!もしやこれもオリビアの女の武器の教えなのか?恐るべしオリビア…。



「……ま、まぁそのことは置いといて。サニーさん。今後のソバの取引についてケイレブ伯爵から何か聞いていますか?」



俺は気を取り直してサニーに尋ねる。ケイレブ伯爵からの手紙は俺に宛てたものだが、サニーにも話を通してあるのか確認するためだ。


サニーは何のことか分かっているのだろう。にっこりと笑顔になり俺に返事をする。



「はい。ケイレブ伯爵様からは定期的にソバを購入したいとのお言葉を頂きました。それも大量に。もしこの話が実現すればとても私達二人だけでは捌ききれないでしょう。それにソバが有名になればなる程、そこにお金の匂いを嗅ぎ付けた商人がどうにか入り込もうとしてくるはずです。私が言えた義理じゃないんですが、商人とはそういうものですから」


「……はぁ。そんなもんですか?」



サニーは俺の反応を見ていたようだが、更に口を開くと意外な提案をしてきた。



「そこでジャッジ様にご提案があります」


「……提案?なんでしょう」


「私達のサニーの店を、ハートランド王国公認のソバ取り扱い店として認めて頂けないでしょうか?いや、ソバだけじゃなくても構いません。是非ハートランド王国の特産品を取り扱う店になりたいんです」



そう話すサニーの目はキラキラと輝いている。とても俺を騙そうとしているようには見えないが、こういう話はよく考えた方がいいだろう。



「……公認ですか?それをもらうとやっぱり商売がしやすくなるんですか?」


「もちろんです!もしジャッジ様に認めて頂けるなら、ファイスの街を引き払ってこの国に引っ越そうと考えています。正直今までも儲けは二の次で、私の趣味のような店でしたから何の問題もありませんしね」



……なるほど。サニーがこの国に引っ越してくるとなると話が違ってくるな。街の住民も行商を待つ必要がなくなるのか。息子のサンはついてくるのか分からないが、店舗があれば誰か店番を雇えば常に営業はできるだろう。

これはかなり良い話なんじゃないか?



「わかりました。すぐにはお返事はできないので、一晩考えさせてください。皆と相談してみます」


「はい!是非ご検討ください!必ずジャッジ様とハートランド王国の為になると信じております。…それとジャッジ様。もう私なんかに敬語を使うのはおやめください。ジャッジ様が私共と対等な立場でいてくださろうとするお気持ちは大変うれしいのですが、さすがに一国の国王に敬語で話されると私の身が持ちません。それに今後はこの国の国民になるかもしれないのです。どうか他の方のようにサニーと呼び捨てにしてください」


「……わかった。じゃあ返事は明日ということで。今夜は部屋を用意したから是非泊まっていってくれ」


「はい。お心遣いありがとうございます」



話が終わるとサニーとサンはエマに部屋まで案内してもらった。


……サニーの言う通りなのかなぁ。でもやたら偉そうにしてる王様って嫌いなんだよな。うーん…。難しいところだな。今後は偉そうにせず、かつ相手に負担を感じさせない感じを目指すしかないか。



俺は一人残された応接室ソファーで、冷めたお茶を啜りながら今後の自分の立ち振舞いについて考えていた。















「………というわけなんだ。どう思う?」



俺は緊急で招集した国民代表者会議のメンバーにサニーからの提案を話していた。



「よろしいのではないでしょうか?サニーがこの国に拠点を構えてくれるとなると、街の住民も助かることでしょう」


「やっぱそうだよなぁ。俺にはメリットしか思い付かないけど、デメリットってあるかな?どう思うフラー?」



真っ先に反応してくれたウィルの言葉を受け、この中では一番社会経験の豊富そうなフラーに尋ねる。


ちなみにイーサン、タゴサックの2人は、俺の話を聞いてる途中からポカーンとした顔をしたままだから、多分何の役にも立たないだろう。ラミィにいたっては、興味がないのか眠いのか分からないが、もう半分以上瞼が落ちてうつらうつらしている。その姿が可愛い。



「……サニーさんの思惑ももちろんあるでしょうが、やはりメリットの方が大きいと思います。今までの行商で各地にツテもあるでしょうし、ここは申し出を受けるべきではないでしょうか」


「フラーもそう思うか…。よし!じゃあサニーにはよろしくと答えることにしよう。早速今回この国に滞在してるうちに店舗の希望も聞いておこうか。これからもがんばって商売してもらうんだから、店と住居はこっちからプレゼントしよう」


「それは良い考えですね。税の話も忘れずにお聞きになってくださいね」


「………税?」



フラーに言われるまで考えもしなかったが、国には税がつきものだ。今までこの国では税など誰からももらったことはない。


……いや、タゴサック達ンダ族からはソバを毎回献上してもらってるから、それが税の代わりなのか?それなら兵として働いてもらっているジャッド族は労働力がその代わりってことか?


税と聞いた途端に動きを止めて何事か考えている俺に向かい、フラーは厳しい言葉で追い討ちをかけてきた。



「……ジャッジ様?まさか税をお考えになっていないわけじゃないですよね?……ふぅ。仕方ありませんね。ちょっと私の部屋までよろしいですか?またお勉強のし直しですね」



そう言うと、俺の腕を取り自室に連れていこうとするフラー。まずい!このままでは一晩中税について勉強させられることになる。



「お、おい!ウィル!助けてくれ!」



俺が勉強を教えるときのフラーの恐ろしさ知っているウィルに助けを求めるも、ウィルは憐れみの表情を浮かべながら俺に向かって首を横に振るだけだった。



「……そ、そんな。ウィル!ウィルーー!」



必死に手を伸ばし助けを求める俺は、無情にもフラーの部屋まで連行され税について学び直すことになった。


その夜遅くまでフラーの部屋からは明かりが漏れていたという。

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