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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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しばらくの間館の庭上空を飛び回った後、ラミィは飛び上がった時と同じく音もなく俺たちの目の前に着陸した。



「どうだった?すこいでしょ?今はゆっくり飛んだけど、出そうと思えばもっとスピードも出せるわよ」



そう言いながら円型の飛行物体から降りてくるラミィ。

俺は素直に感心してラミィに言葉を掛ける。



「あぁ。すごいな!いったいどんな仕組みで飛んでるんだ?特に風も出てないみたいに見えたけど」



浮き上がるように離陸するときにも、すぐ近くにいる俺には少しも風が吹いているようには見えなかった。飛ぶんだったら、下向きに強い風でも出す位しか考えられない俺には不思議だった。


そんな不思議そうな顔をしている俺に向かって、ラミィはどう説明するか少し考えた後口を開く。



「えーと…。何て言えばいいのかしら…。この空飛ぶ乗り物の下に特殊な魔石が取り付けてあるのよ。それが地面と反発して浮くの。………これで分かる?」


「……うーん。よくわからんがとにかく飛ぶってことだな!」


「えぇ。飛ぶわ!」


「そうか!飛ぶなら十分だ!」



そう言いあって俺とラミィは、ハハハと声を出して笑い合う。


それを横から見ているウィルは、まるで手のかかる子供を見ているような表情だ。いや、呆れているのかもしれない。



だって難しいことを言われても俺にはよく分からないのだ。きっとラミィの発明の凄さを本当の意味で理解するのは、もっと俺が魔法について勉強して詳しくなった時だろう。その時がくるまでは、俺は専門家であるラミィの言うことを盲目的に信用するしかない。



「……まぁとにかく、これがあればゴーン族探しも楽になるな」


「えぇ。真っ直ぐ飛んでいけばいいから、魔車で行くよりずっと速いとおもうわよ」



正直それは助かる。俺が遠出するとなれば必ずウィルとラミィは一緒に行くことになる。そうなると、この国を守る戦力が一気に落ちるのだ。また侵攻なんか受けた日には多くの犠牲者が出るだろう。それだけは避けたい。



俺はこれからお世話になるだろう、円型の飛行物体の表面を撫でるように触りながらラミィに向かって声をかけた。



「これはなんて名前なんだ?」



その言葉を聞いたラミィは、待ってましたとばかりに自慢げに口を開く。



「よくぞ聞いてくれたわね。……と、その前に。アンタ達これ何かに似てると思わない?」



そう聞かれた俺とウィルは、少し考えた後別々の答えを口にする。



「……うーん。露天風呂?」


「……盾ですね」



俺たちの答えを聞いたラミィは、大袈裟に肩を竦めるポーズをした後、正解を発表した。



「まったく…。アンタ達は相変わらず見る目がないわね。これはどう見たってクッキーでしょうが!」


「クッキー?」


「………?」



そう言われて見ると、そこそこ厚みのあるクッキーに見えなくもないが…。少し無理があるだろう。



「これはクッキーをモチーフにして作ったのよ。だから名前もクッキーをもじってつけたわ。……その名も、飛行するクッキー!略して()()()()()よ!」



ラミィは名前を発表すると、ラミィポーズのまま俺たちの真ん前で反応を待っている様だ。きっとラミィネーミングに対する褒め言葉を待っているのだろう。



ヒコウキーか…。なんかどこかで聞いたことがあるような気もするが、なかなかいい名前じゃないだろうか?

覚えやすいし呼びやすい。ラミィにしてはなかなかだな。


そう思った俺は、やれやれと思いながらもラミィを誉めようと言葉を掛けた。



「なかなかいい名前じゃないか?ラミィの好きなクッキーが入ってるしな」


「でしょー!!後はこの上に簡単な屋根をつけようと思うから、もう少し完成までは待ちなさい。……あぁ、それとアンタにはまだやってもらうことがあるから。コレの調整が終わったらまた声を掛けるわ」



そう言うと、ラミィは早速ヒコウキーに乗ってなにやら調整を始めた。


やってもらうこととは多分ヒコウキー関連だろう。俺ができることなどたかが知れてるとは思うが、まぁその時まで待つことにしよう。




ヒコウキーの調整に夢中になっているラミィは放っておく事にして、俺はウィルに声をかけて街に下りる事にした。


昨日話題にしたばかりだが、どうやらサニーがまた行商に来てくれたようなのだ。朝早くに、抜け道で見張りをする兵から報告があったとオーウェンが伝えに来てくれた。


最近はイーサンの代わりにオーウェンが館に来ることも多くなってきた。イーサンとしても若い世代を育てようとしているのだろう。なかなか頼りになりそうな若者で、俺も信頼している。


ちなみに前回のダポン軍との戦いで、一番戦果を挙げたのもこのオーウェンだ。俺はラミィに頼んで造ってもらった大剣を褒美として下賜した。オーウェンの立派な体格には、普通の剣よりも大剣の方が似合うと思ったからだ。


イーサンはオーウェンをエマの婿にと考えていたようだが、俺という邪魔物が現れてその話は消えてしまったようだ。本当にオーウェンには申し訳ないことをした。しかし、オーウェン程の強さを持つ男ならば、ジャッド族の若い女性からはモテモテだろうしな。まぁいいか。





「ジャッジ様。広場に人が集まっています。おそらくサニーがもう店を開いているのでしょう」


「うん。そうみたいだな。俺たちも行こう」



色々と考えながら歩いていたら、いつのまにか広場のすぐ近くまで来ていたらしい。俺はウィルの言葉に同意し、連れだって広場に歩いていった。



ウィルのいう通り、広場には沢山の人が詰めかけていた。大分暮らしは楽になったと言っても、商店はひとつもないのだ。やはり不便を感じさせているのかもしれない。俺ももっと国民の生活のことを考えなければいけないな。




「おぉーい!サニーさん!」



俺が近づきながら声をかけると、サニーが大型の馬車の荷台から出てきた。その両手には沢山の商品が抱えられている。商売の準備をしていたのだろう。



「ジャッジ様!先日は大変な目に遭われたそうで…。もうお体は大丈夫なのですか?」


「ハハハ。いやぁ、お恥ずかしい。俺が油断したせいでウィルやまわりの皆に迷惑をかけてしまいました。体は、ほら!もうすっかり元気です」



先日のダポン軍との戦いや、俺が毒にやられたことをどこかで聞いたのだろう。心配そうに話すサニーに向かい、俺は両腕で力瘤をつくるようなポーズをしながらそう答えた。


サニーは俺のその様子を見てほっとしているようだ。



「……ところで。今回は息子さんも連れてきたんですか?」



俺は話題を変えようと、もう1台の馬車から商品を降ろしているサンの姿を見ながら尋ねた。前回はサニー一人だったが、今日はサンも連れてきたようだ。



「はい。そろそろあの馬鹿息子にも店番以外を任せてもいいかなと思いまして。それにソバの仕入れが上手くいくようになれば、かなり大きな取引になりますから。…あっ!そうだ!ジャッジ様!これをご覧ください!」



俺に話している途中で何かを思い出したのか、サニーは急いで馬車の中に戻ると何かを手に帰ってきた。



「先日セカーニュの街を商売で訪れる用事があったのですが、そこで初披露したソバを領主様が大変気に入ってくださりまして、これを町中に配られたんです」



サニーの差し出した紙には、一面にソバ料理を絶賛するケイレブ伯爵の言葉や、ソバ料理の調理法などが記されていた。更に裏返して見ると、裏面にはソバの名産地として我がハートランド王国を宣伝するような文章まで載せてある。俺が一番驚いたのは、下の方にはハートランド王国への移住を勧めるような文言まで載せていたことだ。



ケイレブ伯爵……。さすがにこれはやりすぎじゃないか?自分が領主を務める街の住人に、他の国への移住を勧めるなんて聞いたことないぞ。

確かにソバ料理を広めてくれるのはありがたいし、街の住人からも慕われているケイレブ伯爵の言葉があれば、セカーニュの街でソバが流行るのは時間の問題だろう。

……しかし、これはなぁ。まぁ、あとでお礼の手紙を書いておくか。


苦笑しながらサニーの差し出した紙を見ていた俺に、サニーは不思議そうな顔で更に話しかけてくる。



「ジャッジ様はケイレブ伯爵様ともお知り合いなのですか?お手紙を預かってきております。更に、ソバを伯爵様に献上したときにも、ジャッジ様の事を盛んに聞かせてくれと頼まれました」


「え?あ、あぁ。ジャッド族やンダ族の移住の件でとてもお世話になったんです。…しかも、今回もここまでしてくれるなんて。本当ケイレブ伯爵には頭が上がりませんよ。ハハハ」



俺はサニーに向かって頭をポリポリかきながらそう答える。


本当に色々な人に支えられて俺とこの国は成長している。周りの皆には感謝、感謝だ。皆の期待を裏切らないように俺もがんばろう。

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