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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ダポン軍をハートランド軍が撃退してから早くも1ヶ月が過ぎた。


怪我をした兵の傷も徐々に癒え、ハートランド王国には平和な日常が戻ってきていた。



「これは…。がんばったなぁ。タゴサック達…」


「はい。毎日朝早くから暗くなるまで作業していたようです。大きな岩や木を動かす時には兵の力も借りていましたね」




その日、俺はウィルに連れられてタゴサック達ンダ族が働く畑を見にきていた。


ハートランド王国の重要な特産品になる予定のソバを作る畑は、当初の5倍もの面積に広げられていた。俺もまさかこの短期間にここまでの広さになるとは思っておらず、見渡す限りのソバ畑を見ながら呆気にとられていた。



「せっかくだし、タゴサックにも声をかけておこうかな?……えーっと。どこだ?」



あまりに広すぎる畑の為、パッと見渡してもどこにタゴサックがいるのか分からない。俺は目を凝らしながら畑の畦道を歩く。



「あぁ。あそこで作業してますね。大分遠いので私が呼んできましょうか?ジャッジ様」


「いや。俺も歩くよ。まだ体の調子が元には戻ってないからな。少しは動いた方がいいだろう」



俺はそう言うと、先導してくれるウィルに付いてタゴサックが作業している場所へと向かった。


俺が毒に倒れてからもう一ヶ月が経つというのに、まだ倦怠感は続いている。ラミィ曰く、普通の人なら間違いなく命を落とすレベルの毒だったらしく、ここまで回復したのも魔力を持つ俺だったかららしい。


俺の体に流れる魔力は母上から受け継いだものだ。やはり母上は亡くなってからも俺を守ってくれたみたいだ。感謝しなくちゃな。




「おぉーい!タゴサック!畑を見にきたぞ!」



俺は作業するタゴサックの姿がはっきり目で捉えられる場所まで近づくと、大声で声を掛けた。


その声に気付いたタゴサックは、振るっていた鍬を手にこちらの方まで歩いてきた。



「ジャッジ様!もうお加減はよろしいのですか?」



少し驚いたように俺の顔をみながらそう話すタゴサック。そんなに俺って病弱のイメージあるのかな?



「あぁ。もう大丈夫だ。今日はウィルと一緒にソバ畑を見にきたんだ。………まさかここまで広くなっているとは思わなかった。さすが農業に秀でたンダ族だな」


「ありがとうございます。幸いソバに適した土地が広がっていたので、ここまで広げることができました。イーサン達にも手伝ってもらいましたが」



タゴサックは謙遜しながらそう言うが、誰でも出来ることじゃないのは俺だって分かる。日当たりや水捌けなど細かく調べていたからすぐに対応出来たのだろう。さすがタゴサック。さすがンダ族だ。


俺は心底感心しながら、改めてソバ畑を見渡す。

新しい畑での収穫はまだ先だろうが、順調に育っているようで緑の葉をつけた茎が生き生きと伸びている。



「うん。この分だと次にサニーが来た時にはいい取引ができそうだな。……そうだ。タゴサックなんか足りないものはないか?農業に関するものでも、他のものでもなんでもいいぞ。ここまで国の為に働いてくれるタゴサック達ンダ族に何かしてあげたいんだ」



俺が思い付きでそう問いかけると、タゴサックはしばらく何もいらないと遠慮していたが、ふと何か思い出したように希望を述べた。



「……それなら、鍬などの農具を頂きたいです。おら達が今使っているのは自治区から持ってきた物がほとんどなんですが、さすがにそろそろ壊れる物が多くなってきました。畑も広がって同時に作業する人数も増えたので、皆に行き渡る量があれば助かるのですが…」


「農具か…。もっと贅沢な物でもいいんだけどな。分かった!出来るだけ早く用意するよ。壊れにくい丈夫な物がいいよな?」


「はい。おら達は畑で作業している時が一番幸せなんです。作物が育っていく過程を肌で感じたり、収穫した物を皆で分けあって食べたりする時が特に幸せです」



農具という、贅沢品ではなく実用品を希望したタゴサックだったが、いつもは寡黙なこの男が笑顔で農業について語る姿をみると、やはり幸せの形は人それぞれだなと感じさせる。


タゴサック達が幸せならそれでいい。俺たちは社会的には少数派である()()()()()()の集まりなんだ。好きなことを好きなだけしながら生きたっていいじゃないか。俺はそんな国を作ろうと決めてこの場所に帰ってきたんだから。




また畑仕事に戻ったタゴサックと別れ、俺とウィルは館まで歩いて帰っていた。



「……農具かぁ。やっぱりファイスの街で買うのが一番いいかな?どう思う?」



俺が歩きながら考えていたことをウィルにも確認する。


すると、ウィルも同じことを考えていたのか、俺の予想とは違う事を答えてきた。



「…そうですね。私もそれが良いかと考えていたのですが、ひとつ思い出した事がありまして」


「ん?なんだ?なんか農具にあてがあるのか?」


「いえ。農具というわけではないのですが…。先日のダポン軍を撃退した際に、大量の剣や鎧が手に入りましたよね。それを活用できないものかと…」



それを聞いて俺も思い出したが、確かに今のハートランド王国には大量の武具がある。それも主に鉄でできている為、溶かせばかなりの量の鉄が取れるだろう。



「確かに!あれを使えれば大量の農具が作れるな!どうせ武器だけあっても、それを使う兵の数は限られてるから倉庫に眠っているだけだしな」



前回の戦の後、俺がベッドで寝ている間にハートランド軍総出で戦場に散らばる鎧や剣を回収したらしい。国内に侵入してきたダポン兵の死体はきちんと埋葬までしたらしいが、ウィルとラミィが倒した分の死体は大体はラミィが焼き払い、残りは放置してきたらしい。おそらく今ごろは野生の獣の餌にでもなっているだろう。


その時に回収した鎧や剣が今も大量に倉庫に眠っている。3万の大軍が残した物だ。その量は倉庫にパンパンで新しく2つ倉庫を新設した位だ。



「となると、またラミィにお願いすることになるな。…うーん。でも毎回これじゃラミィの負担だけが増えていくなぁ。鍛冶のできる人でも引っ越してこないかなぁ」


「確かに鍛冶が出来る人材が欲しいですね。これからも定期的に修理も必要になるでしょうし」


「だよなぁ…」



俺とウィルはそんな風に無い物ねだりとは分かっていても、この国に足りない物を再確認しながら館への帰路をのんびり歩いていた。











「鍛冶?そんなの知らないわよ。……あ、いや、待って。心当たりが無い事もないわ」


「ほんとか!?その人はどこにいるんだ?この国に引っ越してくれそうか?」


「ま、まぁ待ちなさいよ。まだ何も話してないじゃない」



館に帰り、夕食の席で俺はラミィに例の農具の件を話して、誰か鍛冶ができる人に知り合いはいないかダメ元で尋ねたのだが、意外にもラミィには心当たりがあるという。


もしその鍛冶師がこの国に引っ越してきてくれたら、ラミィの負担を大きく減らす事ができるだろう。そう、これはラミィの為でもあるのだ。決して俺がラミィに何か仕事を頼む度に、見返りとして甘いものだったりデートだったりを要求されるのが嫌なわけじゃない。



前のめりになって詳細を聞こうとする俺に対し、ラミィは一生懸命何かを思い出そうとしている様だ。



「……うーん。私もかなり前にラーナから聞いただけだからよく覚えてないのよ。ちょっと日記を見てきてもいい?」


「もちろんだ!がんばってしっかり思い出してくれ」



ラミィはそう言うと自分の部屋に帰っていった。



ていうか、ラミィ日記なんかつけてたのか…。俺と出会ってからの事も日記に書いてあるのかな?すごく気になるな…。かといって日記なんて他人に見せるような物じゃないから、いくら気になろうと見ることはできないんだが。……うーん、気になる。

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