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昨日の更新を忘れていました。すみません。
「………おはよう」
「おはようじゃないわよ!このバカ!どんだけ心配したと思ってるのよ!……………ふ、ふぇぇ~ん」
目覚めたばかりの俺に悪態をついたと思ったら、ラミィは俺に抱きついて泣き始めた。
まだ体に力が入らないので、助けを求めるように周りを見渡すと、ラミィの物と思われる部屋の中にはウィル、イーサン、タゴサック、エマ、フラーと皆勢揃いだ。
ウィルとエマ、フラーも笑顔で涙ぐんでいるし、イーサンとタゴサックは抱き合って喜んでいる。
どうやら俺は結構長いこと寝込んでいたのかもしれない。皆が無事ということはダポン共和国軍は撃退できたのだろう。ウィルとラミィがいれば大丈夫だとは思うが、国民に被害は出なかったかな?
そんな風に上手く動かない体で色々考えていたが、ラミィは相変わらず抱きついて泣いている。
……仕方ないな。コイツも心配してくれたんだろう。どうせ他の皆相手には強がって気を張っていたんだろうからな。損な性格だ。
俺はゆっくりと腕に力を入れると、抱きついているラミィの体を優しく抱き締める。
相変わらずちっちゃくて力を入れたらすぐに壊れてしまいそうだ。この体のどこからあんな強力な魔法が出てくるのか不思議な位だ。
でも今は強い魔女のラミィじゃなくて、ただの泣き虫で強がりな女の子だ。そういや俺を夢から連れ戻してくれたきっかけもラミィだったな。
「……ありがとう、ラミィ」
そうぼそっと言いながら、泣いているラミィのおでこにそっと口づけをする。
「……!!??」
その瞬間ラミィの体が硬直し、俺を抱き締める力が急に強くなった。
「あいたた!痛い!痛いって!ラミィ」
さすがに寝たきりだった俺には強すぎる力だったので、そう声を上げ力を振り絞ってラミィを引き剥がす。途中から心配したウィルも手伝ってくれてなんとか引き剥がせたが、ラミィは引き剥がされた後も硬直してボーッと椅子に座らされている。
あれはしばらく使い物にならないな。なんて思いながら皆の方を見ると、俺を食い殺すような鋭い視線で睨んでいるエマに気付いた。その表情は正に般若そのものだ。
……しまった。エマに見られたか。これはまた無茶な要求をされかねないぞ。歩けるようになったらすぐに機嫌をとって誤魔化しておかないと。
その後は代わる代わる皆がベッド脇に来ては、目覚めたことへのお祝いの言葉を掛けてくれた。どうやら俺は一週間も眠っていたらしい。
夢の中では一瞬だった気がしたが、まさか一週間も経っているとは…。
その間の事はウィルが詳しく教えてくれた。心配だったダポン軍はウィルとラミィで撃退してくれたらしい。ゲールを見つけることができなかったとウィルは謝っていたが、皆が無事ならそれでいい。ゲールの事はトルスに任せることにしよう。あとで手紙を書いておくのもいいかもしれないな。
そして俺が倒れた原因だが、毒矢によるものとだけしか分かっていない。犯人は既に息絶えているし、持ち物から身元も特定できなかったそうだ。
皆はダポン共和国のゲールによるものだ。と決めつけているけど、もしかしたら別の誰かかもしれない。俺もファイスの街を出てからあちこち行ったし、色んな人達と出会ったからどこかで恨みを買っていてもおかしくはないだろう。今後は身の回りにも気を付けないといけないな。倒れる度にみんなにこんな心配をかけるようじゃ、国王失格だろう。父上と母上にお叱りを受けそうだ。
「………と、言う訳です。怪我人は多いですがハートランド軍に死者はいませんでした。特に目立った戦果を挙げた数名にはジャッジ様からお言葉を掛けて頂けると、今後の士気も高まるでしょう」
「わかった。言葉だけじゃ物足りないだろうから、何か喜ぶような物を探しておくよ。その方がいいだろ?」
「そうして頂けると助かります。兵達にとってこの上ない名誉でしょう」
俺はイーサンから今回の防衛戦争の最終報告を受けていた。
俺たちの裏をかいて国内にまで侵入してきた敵を、半分の数しかいないイーサン達ハートランド軍は圧倒したらしい。さすが勇猛果敢と名高いジャッド族の戦士達だ。これは褒美として何か用意しないといけないな。後でウィルとラミィに相談してみよう。
「……ところで。なんでエミリーがここにいるんだ?いや、別に悪いと咎めているわけじゃないんだ。…ただどうしてついてきたのかなぁ?って思っただけで」
俺に報告があると、皆がそれぞれ自分の家に帰った後わざわざ再び館まで出向いてきてくれたイーサンだが、何故かエミリーまで連れてきていた。この報告を聞いている間も、俺のベッドに上ってきて上半身だけ起こした俺の膝の上にちょこんと腰かけていた。
そのエミリーだが、部屋に入った当初は泣きそうな顔だったが、今ではご機嫌でニコニコと俺に抱かれている。
「……いや。それがですね…」
そう言って、申し訳なさそうに頭をポリポリかきながらイーサンが話してくれた事によると。
俺が倒れたと聞いてから、ずっとエミリーは俺の見舞いに行くと言って聞かなかったらしい。いくらイーサンやオリビアが言い聞かせても頑として譲らず、ずっと不機嫌だったらしい。
そして、俺が目覚めたと聞いたエミリーは、俺のもとに行くイーサンに連れていってくれと泣いて頼んだらしい。
娘に泣きつかれると弱いのは、世界中どこの父親も同じだろう。とうとうイーサンも根負けしてエミリー同伴で来たというわけだ。
「……そうか。エミリーにも心配かけちゃったな。ごめんなエミリー」
俺はエミリーの頭を優しく撫でながら謝った。
エミリーも、俺の方を振り向きながら少し怒ったような顔をしてその小さな口を開く。
「王様は偉いんだから皆に心配かけちゃダメでしょ。エマお姉ちゃんもご飯食べれないくらい心配してたよ」
「……そうだな。エミリーにもエマにもいっぱい心配かけちゃったみたいだな。俺ももっと強い王様になれるようにがんばるよ」
「約束ね」
そう言ってエミリーは右手の小指を立てながら俺に向かって差し出してきた。
俺はその小さい小指に自分の小指をからませて、
「あぁ。約束だ」
と笑顔で言った。
「………そうか。失敗したか」
「はい。ジャッジ王もどのような手を使ったのかは不明ですが、毒を克服したようです」
とある国のとある場所で、ゲールにジャッジの暗殺を持ちかけた黒衣装の男は部下から報告を受けていた。
その内容は期待したものではなかったが、黒衣装の男はさほど落胆も怒りも見せず、淡々と報告を聞いていた。
「わかった。となるとゲールが生きているのはあまり都合が良いとは言えなくなった。消せ」
「はい。既に居場所は掴んでおります。すぐにでも」
黒衣装の男が短く命令を下すと、部下のこれも黒衣装の男はすぐに姿を消した。
ゲールとは暗殺が成功し、ハートランド王国を滅亡させた後に組織に協力させる約束だったが、失敗したとなればそれも難しいだろう。
生きて帰ってもダポン共和国内での信用失墜は避けられまい。議長の座を追われるだけならまだましで、今回の敗戦の責任をとって罪人扱いされる可能性もある。
そうなれば暗殺を持ちかけられたと、自分達の事を話すかもしれない。そんなことをされると今後の活動に支障が出る可能性がある。ゲールにはその前に何も言えぬ屍になってもらう他ない。
部下が去り、暗い部屋にひとりになった黒衣装の男は、椅子に腰かけるとじっと目の前の闇を見つめる。
「………ジャッジ王か。今は放っておいても構うまい。しかし、組織の邪魔をすればその時は……」