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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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槍を投げ終わったウィルは、再度騎兵が突撃してこないものかとしばらく待ってみたがダポン軍に動きはない。



「そっちがかかってこないならこちらが向かうまでだ!」



そう言いながらウィルはダポン軍に向かい走り始めた。幸い抜け道に繋がる場所には、騎兵の死体や馬が散らばっていて勢いよく騎馬が通り抜けることはできそうにない。これならばあまり後方を気にせず戦うことができるだろう。こっそり通り抜けた少数の兵ならば、抜け道で待機しているハートランド兵に任せても大丈夫なはずだ。



そう予想し、後顧之憂を断ったウィルは本来最も得意とする、1対多の乱戦に持ち込むことにした。



突然の突撃に困惑しているダポン軍の前線に走り込んだウィルは、手当たり次第に両手の剣で敵兵を斬り裂いていく。


前回マフーン軍を相手にしたときは、すぐに壊れる武器に難渋したが、今回はラミィ特製の漆黒の剣だ。とにかく丈夫にできており、あまり切れ味のよくないこの剣でもウィルの剣技と合わされば、いとも容易く敵兵を鎧や兜ごと斬り裂いていく。



やっと態勢を立て直したダポン軍も次々にウィルに殺到する。数で言えば圧倒的にダポン軍の方が多いのだ。まさに怒涛の勢いで攻めかかってくる。



ウィルは後ろから槍で突かれると、まるで背中に目があるかのように華麗にその槍を躱し、脇に挟むようにして槍を奪い取ると、片手でブンブンと振り回す。


4、5人の兵を吹き飛ばした所で槍は中ほどから折れその役目を終えた。その槍を前方の兵めがけて投げつけ、3個入りの串団子兵を製造したかと思えば、再び剣を手に取り目の前の兵を斬り裂く。



そんな風にまさに無双の強さをみせつつ戦い続けるウィルの周りには、いつのまにか敵兵の姿が少なくなってきていた。


まだまだダポン軍の総数から言うと、半分も倒していないはずだが、ウィルのあまりの強さに残りの兵達が戦うことに恐れをなしているのだ。



「何をしている!かかれ!かからんか!」



その場の部隊長等が大声で叱咤激励しても、自らの命が惜しい兵の反応は鈍かった。


しかし、敵がかかってこなくなった後も、ウィルは自ら敵が密集する場に飛び込んで行ってはその場を地獄に変えていく。そんな風に全身血みどろになりながらウィルは順調にダポン軍の兵数を削っていった。










「くそっ!どうなっている!?何故報告がこないのだ!?」



ダポン軍の中ほどで指揮官とともに待つゲールの元には、前方、後方どちらからも戦況の報告は上がってきていなかった。


実際は全ての伝令兵がやられ、その他の兵もウィルとラミィ相手に一方的に惨殺されている状況であり、報告どころではないのが現実だった。



「げ、ゲール様。本当に勝てる戦なんですよね?」



子飼いの指揮官も不安になったのかそうゲールに確認する。



「当たり前だ!私が今まで間違ったことを言ったことがあるのか?」


「は、はい!申し訳ありません!」



不機嫌の極みと言った表情で返事するゲールに、すぐに頭を下げながら謝る指揮官。もはや条件反射ともいえる行動だ。悲しい事だが今のダポン共和国ではゲールに逆らえる者はいない。議長とはその位権力の集中する役職なのだ。



……先ほどから後方で聞こえる爆発音が近づいてきている気もする。本当に大丈夫なのか?


指揮官はゲールに対して深く頭を下げた姿勢のまま、この戦に対する不安を強く感じていた。











その頃、ダポン軍の後方で孤軍奮闘するラミィはと言うと、もう何本目か分からない魔力回復薬の空き瓶をマジックバッグに放り込むと、巨大竜巻を維持するために放出し続けていた魔力を止めた。



「……ふぅ。さすがに疲れたわね。でもだいぶ数は減らしたわ」



そう言うラミィの目の下にははっきりと隈ができている。自分で作っておいてなんだが、あまり魔力回復薬を連続で使用するのは体に良いとは言えない。無理矢理魔力を補充しているため、体にかかる負担も大きい。



開戦してからもう半日以上が過ぎ、その間絶え間なく魔法を打ち続けていたラミィはくたくただった。

しかし、ジャッジを傷つけたゲールやダポン軍に対する怒りは冷めることを知らない。今やその怒りがラミィを突き動かす原動力となっていた。



そして、魔法を撃ちながら少しずつ前進していった結果、今ではウィルがいるであろう抜け道のある場所が、当初より大分近くなっていた。



「ウィルはどこかしら?ウィルのことだから大暴れしているはずだから目立ちそうだけど…」



そう呟きながらまたしても地面を隆起させ、視野を確保すると前方に目を凝らす。


すると、そう遠くもない場所で多数のダポン兵を巻き込みながら戦っているウィルが目に入った。その後ろ、つまりダポン軍でいう前方はもう壊滅的状況のようだ。所々に集まるようにダポン兵の死体が散乱しており、ラミィが見る限り立っているものはほとんどいない。


たった一人でこの数の敵兵を倒してきたとは、さすがウィルと言わざるを得ないだろう。今もウィルは目にも止まらぬ速さで動き回りながら、ほとんど討ち漏らすことなくダポン軍を倒している。


逃げようとしているのか、それとも抜け道に向かっているのか分からないが、ウィルの後ろを回ろうとするダポン兵がいると、見逃すことなくウィルは近くにある武器を拾っては投げつけている。



「大分派手にやってるわね。これは私も負けられないわ!」



ウィルの鬼神のような戦いぶりを見て触発されたラミィは、またしても魔法を放とうと魔力を集中させ始めた。



そんなラミィが戦いながら進んできた跡には、ウィルと同様に多数のダポン兵の死体が積み重なっている。ウィルと違うのは、その死体が焼け焦げていたり氷付けだったりすることだろう。


更にその大地も、初めに開けた大きな亀裂の他に、至るところが穴だらけになり酷い有り様だ。ある場所には大きな氷の柱が突き刺さるように立っており、太陽の光を浴びてキラキラと輝く様はまるで何かの彫刻のようだ。







その後も後方からラミィ、前方からはウィルに攻め立てられたダポン軍はほとんど抵抗らしい抵抗もできず、ただその数を減らしていった。



大軍の中ほどにいたはずのゲールと指揮官も、いつのまにか前後で戦闘が行われているのが見える位置に来てしまった。



「お、おい!どうなっている!?」


「………」



前後を交互に見ながら、慌てたように問いかけるゲール。問われた指揮官はもう呆然自失といった様子で、返事をすることもままならない。というより、既に敗戦を覚悟して諦めているのかもしれない。



「くっ、くそっ!」



指揮官からの返事がないことに対してか、敗戦が濃厚になっている今の現状に対してかは分からないが、ゲールはそう悪態をつくと再び周りを見回す。


どう見ても先程より前線が近くなっている。おそらく前方にいた男というのは、例の剣の腕が立つという従者だったのだろう。


つまりあの黒衣装の男は暗殺に失敗したわけだ。あれだけ大見得を切っておきながら結局何の役にも立たなかった。この分だとジャッジ王の暗殺も行えたのか怪しいものだ。



焦る頭でなんとかそこまで考えると、ゲールは馬上で左右に視線を巡らす。



「……なんとかこの場を逃げ出さなければ。こんな場所で死ぬわけにはいかない」



ゲールはこの状況になっても生きて国に帰るつもりだった。帰ればきっと自らが発案した遠征での惨敗の責任を追求されるだろう。しかし、それも議長という立場を利用してなんとか回避できるはずだ。いざとなれば子飼いの指揮官に責任をなすりつけて切り捨てれば良い。



「……こっちか?」



兵達の叫び声や、魔法による爆発音の聞こえる方向から攻撃が集中している方向を予測したゲールは、慣れない馬を操作しながらその場を駆け出した。


隣の指揮官はそれを見ても微動だにしない。それどころか、突然走り出したゲールを見て慌てて付いていこうとした側近の兵に対して、手でその動きを制止するような仕草で止めた。



このままここに残ればゲールに責任をなすりつけられることを理解しているのかは不明だが、指揮官の表情には諦めとともに覚悟も伺える。


彼も軍人であったということだろう。

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