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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ハートランド王国内に本隊とは反対の抜け道から侵入したダポン軍は、予想とは違い街をを守るように現れたイーサン達ハートランド軍を前にして、戸惑ったように街を目の前にしてその足を止めていた。



「イーサン様!やつら俺達にびびってるみたいですよ」



最前列で敵を待ち受ける兵が、前方で突然その足を止めたダポン軍を見て、イーサンにそう話しかける。


自らもその様子を見ていたイーサンは、話しかけてきた若い兵に向かい、



「おそらく反抗する者などいないと思っていたのだろう。女子供だけだと高を括っていたに違いない。馬鹿者どもが!…………あぁ。それとわしのことは将軍と呼べ」



と、敵から目を離さないまま返事をした。



「わかりました!イーサン様!」


「……将軍と呼べといっただろうが。…まぁいい。敵が止まってくれたなら、我等もここで待っている理由などなくなった。突っ込むぞ!ついてこい!」



そう言うなり、イーサンは将軍であるにも関わらず、先頭にたって約2倍の数のダポン軍に向け走り始めた。




出来たばかりのハートランド軍に戦術などという物は無い。だが、大昔より戦うことを得意としてきたジャッド族には、その体に戦士としての血が流れている。


自然と突撃しながら隊形のようなものを形作り、イーサンを先頭とした鋒矢の陣形に近い形でダポン軍に突っ込んでいった。


イーサン達ジャッド族は知る由もないが、寡兵が多数の敵と相対する場合にはこの陣形は適していると言えた。あくまでも正面突破に特化した陣形だが、嫁探しの為に功をはやるジャッド族の若者が多くいる、今のハートランド軍では最も適した戦術だった。



「ハッハッハー!我こそは誇り高きハートランド王国軍将軍、そしてジャッド族族長でもあるイーサン!我等ジャッド族の守るこの街を狙うなど、お前達も運が悪かったと思うんだな!」



そう大声で楽しそうに名乗りを上げたイーサンは、高く跳び上がると落下の勢いそのままに目の前の敵兵に斬りつけた。


ウィルとは違い敵を真っ二つ、という訳にはいかなかったが、イーサンの振るった漆黒の剣によって敵兵は肩から脇腹にかけて切り裂かれ、真っ赤な血飛沫を飛び散らせながら後ろに吹き飛ばされるように倒れた。



そのすぐ横でもイーサンの後から走り込んできたジャッド族の若者によって、血飛沫をあげているダポン兵がいる。更に続々とハートランド兵は戦場に到着しており、皆一様に足を止めることなく敵兵を一撃のもとに葬り去っていた。


そのままイーサン達ハートランド軍は、敵軍を切り裂くようにダポン軍の最後尾まで数多くの敵兵を葬り去りながら駆け抜けると、大回りをして方向転換する。



「誰かやられた者はいるか?」



イーサンが大声でそう確認すると、



「10名ほど手傷を負いました!しかし、まだ戦えます!」



と、ジャッド族の中でも若者のまとめ役として、今ではイーサンの片腕として働くことも多いオーウェンが負けないような大声で返事をする。



「よし!今の一撃で敵は我等の強さに恐れを抱いたはずだ。こうなれば、数の差などあってないようなもの。行くぞ!誇り高きジャッド族の男どもよ!我等に安住の地を与えてくれたジャッジ様に勝利を捧げるのだ!」



「オォーー!!」



地響きのような雄叫びを上げながら、再びイーサン達は突撃を開始した。




ダポン軍はたった一度の突撃で100名以上が戦闘不能にさせられ、今やすっかりその気勢は削がれている。


それもそうだろう、敵の振るう剣は切れ味こそ普通の剣と変わり無いが、剣同士で打ち合うと必ずこちらの剣が折れるのだ。しかも、それを振るうハートランド兵は皆が皆、馬鹿力と言っていいほどの怪力揃いだ。


体で受けると鎧ごと切り裂かれるか、肋骨を折られ内蔵までダメージが行きそうな打撃を食らうことになる。


そんな屈強すぎるハートランド兵の2度目の突撃を受けて、ダポン軍では逃げ惑う兵が続出していた。




2度目の突撃を終えたハートランド軍は、街を背にして陣形を解き、各々が各個撃破の為に単独で戦い始めた。


500はいたダポン軍も、今ではまともに動ける兵は自分達と同数程度しかいない。つまり半分以上の兵をたった2度の突撃を受けただけで失ったことになる。



思い思いの場所で戦い始めた兵達を見渡し、イーサンは自分の相手になりそうな敵兵を探していた。



「わしの相手になりそうな、手応えのある敵はいないものか…。このままではオリビアとエミリーに自慢できないではないか」



最近エマを筆頭にして、オリビアやエミリーもジャッジ様のことばかり家でも話している気がして、イーサンは少し家長としての威厳を失いかけているように感じていた。


この戦いは失いかけたイーサンの威厳を取り戻す絶好の機会だ。そして、その為には強敵との戦いでの勝利が必要だ。とイーサンは敵陣の中を見渡していた。



すると、一際立派な鎧をつけた一人の兵がハートランド兵3人を相手に互角に戦っているのが目についた。



「……ほう。まだ若者とはいえ、我等ジャッド族を3人同時に相手にするとはなかなかの強さだ。装いも違うしあれは士官だろう。あいつの首をわしの手柄とすることにするか」



そう呟くと、その巨体に不釣り合いな程の速さで駆け出した。もちろん目標は士官と思われる敵兵だ。



イーサンがあと少しで目的の兵まで到達するという時、そのすぐ側で戦っていたオーウェンは、また一人敵兵を斬り倒した所だった。



「ふぅ。手応えの無い敵ばかりだ。…しかし、この剣と鎧はすごいな。何度斬りあっても歯こぼれひとつしないし、後ろから槍で不意打ちされても衝撃も少ししか感じない。ラミィ様の魔法で作るとここまで性能に差がでるものなのか…。……ん?苦戦しているようだな。よし!俺も加勢に行こう!」



と、もう何人目かわからない敵を斬り倒したオーウェンは、3人の兵が苦戦している場所を見つけると剣を手に走り出した。



イーサンは目標としている敵に向かい走りながら、更に一人のハートランド兵がその戦いに加わるのを見ていた。



「あれは……オーウェンか!まずい!あいつは強いぞ!頼むからわしがいくまで倒されないでくれ!」



そんな風に独り言を話しながら更にスピードを上げるイーサンだったが、その願いも虚しくオーウェンが加わったことにより、その戦いはかなりハートランド軍に優勢に傾いている。



「俺が来たからにはもう安心だ!覚悟しろ!」


「くっ…!もはやこれまでか……ぐはっ!」



あと少しでイーサンが到着するというその時、オーウェンの突き出した剣が士官と思われる敵兵の腹部を貫いた。


口から吐血しながら力無くその場に倒れる敵兵。


その腹部から、漆黒の刀身に敵の血で赤の装飾を纏った剣を引き抜くと、オーウェンは勝ち名乗りを上げる。



「敵将討ち取った!残りは雑魚ばかりだ!気を抜くなよ!」


「おうっ!」



それに呼応する周りのハートランド兵達。


それをほんの目と鼻の先で見せられたイーサンは、がっくりと肩を落としている。



「……わしの、わしの手柄だったはずなのに…。ええいっ!もうこうなれば出来るだけ多くの首を挙げてやる!」



そう叫ぶと再び敵を目指して駆け出したイーサン。


いつの間にか立っているダポン兵の数はほんのわずかとなり、その残っている兵達もハートランド兵の猛烈な攻めに防戦一方だ。



もちろんハートランド軍にも被害がないわけではない。怪我を負い血を流している者もいるし、明らかに重症を負い地面に倒れ臥している者もいる。


しかし、そのほとんどを失い、指揮する将官までも討ち取られたダポン軍に比べれば、軽微な被害と捉えてもいいだろう。




こうして、ハートランド王国に裏をついて侵入、制圧する予定だったゲールの思惑は、イーサン達ハートランド軍の活躍により失敗に終わる事となった。

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