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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「あら?逃げないなんて勇気あるわね。ちょっと熱すぎたみたいだから冷やしてあげないとね。………アイスランス!」



なにやら楽しそうなラミィは今度は氷の槍を放った。しかも、その数は数百以上だ。



炎で焼け死ぬのを幸運にも避けた兵達は、次々に頭上から降ってくる氷の槍に串刺しにされ、更にその数を減らしていく。


しかし、まだまだ後方からは噴出口から涌き出る山の清水のように、次々に新しい兵が殺到してきている。



ラミィはマジックバックから、魔力回復薬を1つ取り出して一息に飲むと、更に魔力を両手に集中させ始めた。



「まだまだジャッジの受けた苦しみには遠く及ばないわ!アンタら全員に生まれて来たこと後悔させるまでやめないわよ!」



そう言い放つと、今度は水で出来た巨大な龍に雷を纏わせ放った。














「ほ、報告します!後方では魔女の放つ魔法により甚大な被害が出ています!現在把握しているだけでも、その被害既に五千!」


「なに!!五千だと!?」


「はっ!報告に上がっているだけですので、実際の数はまだ多いと思われます!」



伝令兵の報告に目を剥いて聞き返すゲール。



「魔法というものを侮ったか…。仕方ない、先にハートランド王国に侵入する。街の中では魔女も派手に魔法を使うことなどできないだろう。前方の兵達に突入させろ!」


「はっ!」



先ほどとは違い、隣にいる指揮官を無視するようにゲールの指示を受け走り去る伝令兵。

やや複雑な表情でその光景を眺めていた指揮官だったが、ゲールが不機嫌なのをみてとるとなにも言わずにじっと黙っている。これが彼がここまで出世してこれた世渡りの術だった。



「……ふん。まぁいい。魔女にはせいぜい街から離れた場所で暴れてもらうことにしよう。今頃街には別動隊が侵入している頃だ、あとになって後悔するがいい」



そう呟くゲール。隣の指揮官もそれに追従するように小さく頷いていた。















ラミィからの合図を確認した後も、イーサンはエマとともにラミィの部屋で眠るジャッジに付き添っていた。



「……今ごろラミィ様とウィル殿は派手に暴れているのだろうか。お二人ならまさかということはないとは思うが数が数だ、念のために逃げる準備だけは怠らないようになエマ」


「わかってるわ、パパ。もしそうなっても私がジャッジ様のお子を産めばハートランド王国は安泰よ」


「それもそうだな。ハッハッハ」



国としての戦争中だというのにどこか呑気なこの親子は、穏やかな表情で眠るジャッジの横でそんな会話を繰り広げていた。


たまたまフラーが食事の用意の為にその場を離れていたからいいようなものの、もし聞いていたら間違いなく怒られていただろう。





「……さて。わしは一度ウィル殿とラミィ様の様子を伺ってこようと思う。ジャッジ様のことはエマに任せるが大丈夫か?もちろんその間は兵を増員する予定だが…」


「大丈夫よ。見たところ大分お加減も落ち着いてきたみたいだし、パパは安心して行ってらっしゃい」



イーサンがエマに問いかけると、エマは自分の豊かな胸を叩くような仕草をしながらそう答えた。


その様子を見たイーサンは、心配そうにジャッジの方を向き、未だ意識の戻らない主君に律儀に一礼して部屋を出ていった。



部屋にジャッジと二人きりになったエマは、これ幸いにとジャッジのベッドに腰かけて、ラミィがしていたようにジャッジの顔に優しく触れる。



「……ふふふ。可愛い」



エマは初めてケイレブ伯爵の家でジャッジを見たその時から、ジャッジに惹かれていた。まさに一目惚れというやつだろう。


本来ジャッド族の女性は、男性の魅力はその強さを持って感じる事が多い。その事を知っていたエマも当初は何故自分がジャッジに惹かれているのか不思議に思っていたのだが、その後ジャッジの持つ魔法の絶大な威力を見たときに納得した。


それ以来エマの人生の最大の目標は、ジャッジの子供を産むことになった。ラミィというライバルはいるが、別にジャッジを独り占めしたいというわけでもなく、側室でも構わないとエマは考えていた。


それにジャッジはきっとラミィと分け隔てなく私も愛してくれるに違いない。それくらい大きな器を持っていることは、普段の言動から十分に感じられる。



「早くお目覚めになってくださいね。………ちゅっ」



エマが、こっそりジャッジのおでこにその柔らかな唇を軽く触れさせた時、



「オォーー!!」



というジャッド族の男性が相撲の前に上げる、鬨の声のようなものが外から聞こえたかと思うと、



バタバタバタッ!



という荒い足音とともに、さっき出ていったはずのイーサンが慌てて戻ってきた。



「え、エマ!ジャッジ様はご無事か!?」



イーサンは相当慌てているようで、そうエマに問いかけながらジャッジのすぐ近くまで駆け寄ってきて、自らも顔を覗き込んだ。そして無事なのを確認すると、ほっとしているようだ。



「どうしたの?パパ。ジャッジ様にお変わりはないわ。それに、さっきの声はなに?」



イーサンがこの部屋を出てから、まださほど時間も経っていない。そんなすぐに体調に変化があるとも思えないが……。さきほどの鬨の声と何か関係でもあるのか?


怪訝な表情で尋ねるエマに対して、イーサンは真剣な顔だ。いや、切羽詰まったといった方がいい位の表情でもある。


イーサンは窓から外を一度覗くと、窓とカーテンをしっかり閉め、鍵まで掛けた上でエマに向かって口を開いた。



「ラミィ様とウィル殿が向かった抜け道とは反対側から敵が侵入してきた。この館や街の警備に重点を置いたことが裏目にでたようだ。敵はわしたちで食い止める。お前はジャッジ様をお守りしろ」


「……えっ?パパ達だけで大丈夫なの?」


「心配いらん。今こそ我らジャッド族の力を見せる時だ!」



そう言い放つなり、イーサンは再び部屋を出て行ってしまった。



「パパ……」



残されたエマは、ジャッジの手を握りしめながらイーサンの出ていったドアを見つめることしかできない。









館を出たイーサンは、他の抜け道に配置していた兵も呼び寄せ、街の外でダポン軍の別動隊と思われる敵を待ち受けていた。



「敵の数はどのくらいだ?」


「私が見た限りでは500程度だと思います!」


「500か…。わしたちが約200だから2倍だな。なぁに、それくらいの数の差など、誤差のようなものだな!ハッハッハ」


「それもそうですね。ハハハ」



周りに集まっているジャッド族の兵達と、そう言いながら笑い合うイーサン。


きっと他の民族から見たら異常に見えるだろうが、ジャッド族にとって戦いとは、己の強さをアピールできる格好の機会なのだ。普段行っている相撲も、こういう時の為の予行演習のようなものだと考えている。



「よし!皆集まれ!」



イーサンが大声で召集をかけると、揃いの木製の鎧を着た兵がわらわらと周りに集まってきた。


まだ軍としての訓練は始まったばかりであり、整然とした行動などは苦手としているようで、とても綺麗とは言えない並び方だ。


そんなことあまり気にしていない様子のイーサンは、集まった兵達に向かって大声で話す。



「お前達!どうやら天は我らに活躍の場を与えてくれたようだ!敵は500!大した数ではない!ジャッジ様は館にて休まれている!敵は一兵たりとも後ろには通すな!今こそ我らジャッド族の勇猛果敢さを見せるとき!行くぞ!」



イーサンが士気を鼓舞するようにそう話すと、



「オォーー!!」



と、兵達も鬨の声を上げてそれに答える。


さっきエマが聞いた声も、イーサン以外の誰かの言葉に兵が答えたものだったのだろう。



そんな兵達を満足そうに眺めていたイーサンは、更に口を開くと、



「まだ嫁をもらっていない者はチャンスだな!ここで活躍すれば女は黙っていないぞ?」



と付け足した。



それに目の色を変えたのは独身の男共である。我先に最前線に立とうと仲間内で揉め始めた。



「……仕方ねぇなぁ。場所を譲ってやるよ。うちの妹もまだ独身だ、お前が活躍したらもしかしたら妹の目にとまるかもな」


「ありがとうごさいます!お義兄さん!」


「お義兄さんって言うな!バカ!」



などと、所々で似たような光景が見られていた。



敵はもう目の前まで迫っている。

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