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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ダポン共和国からハートランド王国へ向かう際に通るであろう街道と、念のために更に2つの方向へと出した偵察が戻ってきたのは、俺達が作戦会議を行った日から2日後だった。



「報告します。ゲール率いるダポン共和国軍と見られる軍勢は、ここまであと2日程の距離を進んでいました」


「わかった、ご苦労だった。決戦の日は近い。それまでゆっくり休んでくれ」



俺は偵察に行ってくれた、ジャッド族の中でも足の速いという若者に労をねぎらう言葉をかけた。


そして、傍らのウィルとイーサンに話しかける。



「偵察が見たのが2日ということは、帰ってくる時間を考えると、明日か明後日には到着すると思った方がいいな」


「仰る通りです。早速兵達を集めておきましょう。これで方向も分かったことですし、迎え撃つ場所も決まりました」



そう言うとイーサンは謁見の間を急ぎ足で出て行った。



今回、初めての新生ハートランド王国としての戦であり、この機会に正式にジャッド族の戦士達をハートランド軍の兵士として雇うことになった。


給料は今のところは蓄えてあるラミィのお金や、ンダ族から収穫の度に大量に献上される、野菜や穀物の現物支給とすることにした。

いずれ商店などが増え、経済が回り始めたらお金での支給に切り替えようと思っている。



そして、その兵達をまとめる立場には将軍としてイーサンを任命した。

イーサンはウィルの方が相応しいと言ったのだが、肝心のウィルが、


「私はジャッジ様の側に控えてお守りする方が向いています。兵を率いて戦うのは不得手ですから」


と断ったため、イーサンで決まりとなった。



確かにウィルは集団での戦闘より、単独で戦う方がその真価を発揮する。それに、俺の守りとしてウィル以上に頼もしい者は世界中探してもそうはいないだろう。俺はそのくらいウィルを信頼しているし、ウィルが守りきれないほどの敵なら、その時は諦めもつくだろう。

……ただし、俺もタダでやられてやる気はない。最期には魔法の一発や二発お見舞いしてやるつもりだ。



イーサンが兵の準備をしてくれているので、俺には正直もうやることがない。一応明日決戦のつもりで朝早くには街を発つつもりではいるが、それまでの準備は全て将軍であるイーサンに任せるつもりだ。


あと出来ることと言えば、自分の装備の確認であったり、心構えくらいであろうか。



「今夜は早く休むようにしようか。早めの夕食をエマとフラーにお願いしておこうかな」


「それは私が。ジャッジ様はラミィ殿にお伝えしてきてください」


「そうか?じゃあお願いしようかな」



そうウィルと会話した後俺はラミィの部屋に向かい、明日の早朝出発の予定を伝えた。


それを聞いたラミィは、



「えー。思ったより早かったわね。私は昨日も徹夜したのよ。今夜はさっさと寝るわ。………あ、でもアンタがどうしてもって言うなら、い、一緒に寝てあげてもいいわよ!」



と、腫れぼったい瞼で文句と寝言を言っていた。



「はいはい。ラミィには沢山働いてもらったからな。今度な、今度」



と俺は軽く返事をしたが、確かにここ2日でラミィにはかなりの作業を押し付ける事になってしまっていた。

ハートランド軍の兵士の使う鎧と盾、そして数は少ないが剣までラミィは作ってくれたのだ。



総数200を少し超えるハートランド軍の兵士全てに行き渡るように、寝る間も惜しんで作業してくれたラミィには感謝しかない。


その結果素晴らしい出来となった鎧と盾は、木製であるがひとつひとつラミィが、魔法で耐火や衝撃吸収などの効果を追加してくれており、軽くて驚くほど頑丈な物になった。


試しにイーサンが全力で斬りつけたり、叩きつけたりしても細かいキズが付く程度だった。これがあればハートランド軍の被害も最小限で済むだろう。

……まぁ、その後ウィルが試すとあっさりと真っ二つに斬られていたが、これは仕方ないだろう。比べる方が野暮というものだ。


そして剣だが、これはタゴサック達ンダ族が、農作業中にたまたま発見した洞窟から採れた金属を使っている。鉄でも銅でも、もちろん金でもないが、どんなに高い温度の火でも溶けること無く、ウィルが本気で斬ろうとしてもキズひとつつかなかった鉱石だ。


これは俺達では扱いようがないと放っておいたのだが、剣も欲しいという話になったときに、ラミィがあっさりと無属性魔法で加工してくれた。


やはり魔法はすごいな。と俺は感動していたのだが、当のラミィは、



「これはなかなか魔力を使うわね。私も見たことないけど、かなり珍しい金属だと思うわ。これにばっかり時間をかけていられないから、数はちょっとだけしかできないわよ」



と、額に汗を浮かべながら言っていた。


それでも30振り程は作ってくれたのだが、この剣の丈夫さは折り紙つきだ。いくら剣同士で斬り合っても、歯こぼれひとつしない。切れ味こそさほど目立たないが、多数との戦闘では大きな武器となるだろう。



と、まぁラミィは正に寝る間も惜しんで働いてくれたわけだ。この戦いが終わったら俺はラミィを甘いものを出す店に誘おうと決めている。



そんな風にラミィに伝え終わった頃、廊下からエマの夕食の準備ができたとの声が聞こえ、俺とラミィも食堂に向かうことにした。



その日の夕食は俺の好物のソバや、普段はあまり出ない肉もふんだんに使われた食事であり、ラミィ用にデザートまで出てきてとても美味しかった。


きっと明日戦場に向かう俺達の為に、エマとフラーが腕によりをかけて用意したくれたのだろう。イーサンや他の兵達の家庭でも、同じようなご馳走が食卓を彩っているに違いない。

なんとしても皆の幸せな食卓を守り抜かなくてはならないな。


俺は、食後すぐに眠そうに目をこすりながら自室に戻っていったラミィを除く面々と、和やかに会話しながらそう決意した。






「あぁー。やっぱり露天風呂は最高だな。これは本当に作ってよかったな」



俺はしばらく食堂で過ごした後、たまに利用する露天風呂に入っていた。


ウィルも誘ったのだが、明日の確認をしておきたいとイーサンの元に向かったようだ。一応これでも俺は王様だから、こうやって一人で寛いでいてもバチは当たらないだろう。


ゆったりと肩まで湯に浸かり、眼下に広がる景色に目を向ける。


館のすぐ横に設置されたこの露天風呂からは、遠目にはなるが街の住民の住む家がよく見える。向こうからは露天風呂は見えないようにラミィが魔法を掛けてあるので、安心して女性陣も入れるというわけだ。



「だいぶ国らしくなってきたなぁ。最初は家の明かりなんてひとつもなかったのにな」


「そうだったのですか?」


「……!!??」



独り言にまさか返事が返ってくるとは思わず、油断していた俺はビクッとして声のした方を振り返る。



そこにはタオル一枚姿のエマがいた。



「え、エマ!?どうしたんだ!?」


「……?どうしたもなにも、ジャッジ様と露天風呂を楽しみに参上しただけです」


「参上って…」



狼狽える俺と違い、エマは堂々としたものだ。



……しかし、服を脱ぐと更にエマのスタイルが抜群なのがよく分かるな。タオルで隠されているとはいえ、健全な若者である俺には刺激が強すぎる。

どことは言わないが俺の体の一部分が言うことを聞かなくなっており、今風呂を出ろと言われても無理だ。



「……あら?私の体に何か付いていますか?ちょっと確認して頂いても………」


「ちょ、ちょ、ちょっと待った!俺は上がる!もう上がるぞ!あー、のぼせちゃったみたいだなあ。フラフラして真っ直ぐ立てないなぁ。危ないから少し前屈みで歩かないと危険だなぁ」



俺の視線に気づいたのだろう。エマが妖艶な笑みを浮かべ、自身の体に巻いたタオルに手を掛けようとした瞬間、俺は露天風呂を飛び出した。


そのまま脱衣所まで前屈みのまま駆け込むと、急いで体を拭いて服を身に付ける。


すると露天風呂の方から楽しそうに笑うエマの声が聞こえた。



「フフフフ…。ジャッジ様。今夜約束通りお部屋に伺いますね。戦場に赴く前夜には、男性は子孫を残す本能がその真価を最も発揮すると聞いたことがあります。……私も初めてなので、優しくしてくださいね」



その言葉を聞かなかったことにして、俺は急いで着替えをすませ露天風呂を後にした。


その後、俺は風呂のせいなのか、エマの言葉のせいなのか分からないが、ぼーっとする頭のままなんとか自室まで帰り付いたようだ。

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