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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「出来上がりましたよ!皆さんお待たせしました!」



そう言いながら、オリビアが出来上がったばかりのソバを一人前ずつ皿に載せて運んできた。後ろからはエマも同じように皿を両手に載せついてきている。


オリビアによって俺の目の前に運ばれた皿の上には、先ほどの細く切られたソバが、茹でられたことですっかり麺になって盛られていた。



「ささ。まずはジャッジ様、召し上がってみてください。そのままでも風味を楽しむことはできますが、そのツユに少しつけてから食べると更においしく頂くことができます」



イーサンに勧められた俺は、教えられた通りにソバをあまり使い慣れない箸で掴み、ツユに半分ほど浸してから口に運ぶ。


口の中に入れた食感は少し固めの麺類といったところだったが、驚いたのはその風味だ。噛まずとも口から鼻に抜けるように、香ばしいソバ独特の匂いが楽しめる。

更に、噛むと他の麺類とは違う適度な食感があり、更に風味を増した。

ツユが甘めに作られているせいか、食欲を刺激していくらでも食べられそうな錯覚に陥る。



「……うまい!」



と、思わず馬鹿みたいに単純な感想を漏らしてしまったが、この美味しさを現す他の言葉が見つからなかったので仕方ない。



「これは美味しいな!この風味が最高だ。ウィルとサニーも食べてみてくれ」



俺に促され、ウィルとサニーもソバに手を付ける。

二人とも箸の使い方も巧みで、上手にソバを口に運んでいる。



「……むぅ。こ、これは………美味しい」


「おぉ!この香ばしさがソバの香りなのですね。これはきっと万人受けしますよ!」



と、二人とも気に入ったようだ。


俺もソバの味はとても気に入った。というかこれは大好物になりそうだ。いやー、いいものをイーサンには教えて貰ったな。


などと思いながらも、箸を止めることなく目の前に盛られたソバはあっという間に俺の胃袋に収まった。

ウィルとサニーも同じ位の速さで完食したようだ。



「気に入って頂けたようで幸いです。この他にもオリビアが準備しているようなので、もしお腹に余裕があれば召し上がってみてはいかがですか?」



俺達が一心不乱にソバを食べている様子を笑顔で見守っていたイーサンは、俺達が食べ終わったのを見届けるとそう声をかけてきた。



「是非食べてみたいな。なんかこのソバという食べ物はいくらでも食べられそうな気がするな」


「確かにそうですね。不思議と腹にたまらないというか」



俺の言葉にウィルが賛同の意見を述べた。



「それはおそらくあまり噛まなくても飲み込みやすいからだと思います。それにさっぱりしていて、風味も豊かですから」



オリビアはそう言いながら、次のソバ料理の準備をしに台所に向かっていった。



この独特の風味は好きな人にはたまらないだろう。少なくとも俺は大好きになった。これはこの国の特産品としては上出来じゃないか?


そう感じた俺は、次の料理を待つ間にサニーに声をかけた。



「サニーさん。いかがでしたか?このソバは売り物になりそうですか?」



サニーは真剣な顔で何か考えていたようだったが、俺の声に反応してにっこりと笑顔になり口を開いた。



「ジャッジ様。これは素晴らしい特産品になりますよ。この味と風味を未だほとんどの人が知らないとは、むしろ不幸とも言えます。このソバは必ず売れます!……あとは、どの状態で売るのが一番良いか、ということですね」


「そうですか!それはよかった!これで我が国からの初の輸出品ができそうです」



サニーの太鼓判をもらった俺は、うれしさや安心感がごちゃ混ぜになったような気持ちだった。やはり、もしダメだったらどうしようと言う考えが頭の隅にあったのだろう。


……あとは輸出する状態を決めることか。作る行程も男性であればさほど難しくはなさそうだし、原料で輸出してもいいかもしれないな。



「……ソバ粉にしてからの方が嵩張らなくていいのではないでしょうか?」



そう俺が自分の考えを述べると、サニーより先にイーサンが口を開いた。



「粉に挽くのは食べる直前が良いと思います。どうやらこのソバは空気に触れると、ドンドン風味が失われていくようなのです」


「……なるほど。となると、畑で見た実の状態で売るのがよさそうですね」



サニーはそう言うと、何やらポケットから手帳を取り出してメモをとっている。

そういえばさっきイーサンがソバの作り方を実演しているときも、こまめにメモをとっていた。



「わかりました。後でタゴサックにどの位の量が栽培できるのか確認してみましょう。もし売れるとなれば畑を増やすこともお願いしないといけないな」



俺はこれからの予定を口に出して確認する。


なんだか楽しみになってきた。もし、ソバが他の国の人達に受け入れてもらえれば、ハートランド王国の重要な収入源になるだろう。これでやっと国として形になってきたな。



その後、オリビアが運んできた数種類のソバ料理を俺達はこころゆくまで楽しんだ。エミリーが好きだという、ソバ粉を水で溶いて薄く焼いた物もなかなかおいしかった。


これは主食というよりも、むしろおやつに近いかもしれない。甘いシロップやはちみつを付けて食べるとラミィも好きなんじゃないかな?今度ラミィにも勧めてみよう。







それから3日後、サニーは馬車の中身を衣類や食品からソバの実に換えてハートランド王国を去っていった。


結局現在収穫できる大部分のソバの実を仕入れることにしたサニーは、街での売り上げをほとんど俺に支払っていった。

なんだかただで品物を貰ったようで気が引けたが、このソバの実を色々な国で売って、更にサニーは儲けが出ると踏んだようだ。


次回は息子のサンも連れて、更に馬車をもうひとつ借りて来ると意気込んでいるサニーを、俺達ハートランド王国の人達で見送った。


次にサニーが来るまでに、タゴサックを手伝ってソバの畑を拡張しないといけないし、他にも輸出できそうなものを探さないといけない。結構忙しくなってきそうだ。俺も一応国王なんだから頑張らないとな。


俺はそう決意しながら、その晩はエマが持ってきてくれたイーサンのうったソバをみんなで楽しんだ。


やはり何度食べても美味しい。ラミィもフラーも気に入ったようで何度もおかわりしていた。










「おい!今何か音がしなかったか?」


「ん?そうか?また猪じゃないか?最近落ちた実を食べにこのへんまでよく降りてきてるからな」


「そうかな…?」



抜け道の1つに配置された見張り所には、夜間も二人一組でジャッド族の若者が見張りについている。


今夜も変わることなく見張りをしている二人がいるのだが、基本的に何も起こることはないため、やはり気の抜ける時間帯がある。



「……なぁ。そんなことより、エマ様はやっぱりジャッジ様の側室になるのかなぁ?」


「そりゃそうだろう。お前も見ただろ?あのジャッジ様の魔法を。あんな強さを見せられたらエマ様だけじゃなくて、ジャッド族のほとんどの女は惚れちまうよ。正室はラミィ様がいらっしゃるから、側室で間違いないだろう」


「だよなぁ…」


「…なんだ?お前もしかしてエマ様に惚れてたのか?無理無理。ジャッジ様の魔法にびびってしょんべん漏らすやつが、エマ様を嫁に貰えるはずないだろう」


「う、うるせぇ!それを言うなよ!」


「ハハハハ」



などと、軽口を叩きながら見張りを続ける二人の若者のすぐ側を、黒衣装に身を包んだ影が素早く通りすぎる。


さきほど音を立ててしまった1人目に続き、この影は2人目だ。足音も立てずにハートランド王国内に侵入する影は、見知った道であるかのように迷いなく街へ向けてその足を向ける。

 

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