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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺達がイーサンの家を再び訪れると、先ほどの二人にエマを加えたイーサン一家女性組が、変わらず白い粉と格闘していた。

こうやって改めて見るとやはり3人とも美形だ。エミリーはまだ幼いが、将来きっと美人になるんだろうという顔立ちをしている。



「まだ途中だったのか。やはり女だけでは難しかったか…」



イーサンはもうソバが食べられる状態になっていると思っていたらしく、少し焦りながらそう言うと、自らも腕まくりをして手伝おうとしている。



「イーサン。そんなに急がなくてもいいぞ。むしろ、どうやってさっきの小さい実が食べれるようになるのかじっくり見せてくれ。その方がサニーも助かるはずだ」



俺がそう言ってサニーの方を振り向くと、サニーも俺の意見に同意するように頷きながら口を開く。



「ジャッジ様の仰る通りです。是非私にもソバとやらの食べ方を教えてください。そうすればどの状態で仕入れるのが良いかが分かるかもしれません」



……なるほど。作るのが簡単ならさっき見た実の状態で運んで売ればいいのか。難しかったら出来上がりを売るしかないだろうしな。さすが商売人だな。



「……そ、そうですか?わかりました。では僭越ながら私が説明しながら作らせて頂きます」



俺とサニーの言葉にやや戸惑いながらもイーサンはそう返事をすると、俺達が近くで見ることができるように、エマとエミリーに場所を譲るように命じた。


エマは素直にその場を譲ってくれたが、エミリーは白い粉を捏ねるのが遊びのようで楽しかったのだろう。駄々をこねている。



「エミリー。俺の膝の上で一緒に見ようか。俺は初めてソバを作るところを見るんだ。エミリーが色々と教えてくれると助かるな」



俺が胡座をかいて座りながらそう話しかけると、



「うーん……。わかった。私が教えてあげる」



と言いながら、ドンッと勢い良く俺の膝の上に座ってきた。


イーサンとオリビアは、



「こ、こら!エミリー!」



と慌てているが、俺が「大丈夫」というふうに二人に笑顔で頷いてみせると、



「も、申し訳ありません、ジャッジ様。どうもエミリーは末の子で甘やかして育ててしまったようで…。ご迷惑ならすぐに仰ってください」



と、恐縮しきりといった感じで、二人して頭を下げてきた。



「ハハハ。子供には王も家来もないさ。それにエミリーも大事なこの国の国民だ。これからも俺と仲良くしてくれよ。なぁ、エミリー?」


「うん!王様とラミィお姉ちゃんはお菓子くれるから好きだよ!」



と、エミリーは俺の膝の上でもうご機嫌の様子だ。


この子は天真爛漫というか、人に好かれる女性になっていくのかもしれないな。顔まで母親や姉に似たら将来はモテモテだろう。


俺がエミリーの頭を撫でながら、そんな風にエミリーと会話を楽しんでいると、手を洗ったエマが再び俺達のいる部屋に入ってきた。



「あら?エミリーはジャッジ様と仲良しなのね。……ジャッジ様。私とも今夜辺り仲良くして頂けませんか?」



と俺の隣に座るなり、耳元で色っぽく囁いてきた。


全身がぞわっとするような感覚になった俺は、顔をやや赤くしつつも、皆に悟られないように焦りながら小声で、



「わ、わかった、わかった。今度な」



と、エマに返事をした。


エマは、



「約束ですよ」



と、うれしそうに俺に向かって話すと、何事もなかったように前を向いて座り直した。



……まったく。エマのこういう態度には俺は弱い。なんだかんだ言っても、結局はエマの思惑通りに事が運んでいる気がする。これが魔性の女というやつなのか?きっとイーサンもオリビアにこうやって迫られたんだろうな。やはり、この世は男ではなく女が強いのかもしれない…。



なんてことを考えていると、



「それでは始めます」



と、イーサンとオリビアは皆の準備が整ったと見て、声をかけてきた。


俺も気持ちを切り替えて返事をする。



「わかった。じゃあよろしく頼む」



その言葉を聞いたイーサンは、目の前の大きなお盆に載せられたソバの粉を固めたものを指差して説明を始めた。



「これは先ほどジャッジ様もご覧になった、ソバの実を磨り潰して粉状にした後、水を少しずつ加えながら丸めたものです。粉のことは私たちはソバ粉と呼んでいます。ここまでは、水の分量と少しずつ加えることを間違えなければ大して難しくはありません。問題はここからです」



そう言うと、イーサンは丸めて人の頭ほどになったソバ粉を、体重を掛けて押し潰すように捏ね始めた。見た感じもう十分に捏ねられているような気もするが、イーサンはそれでも執拗にその作業を繰り返す。



「この捏ねるという行程が一番力がいるのです。ここで手を抜くと、後々の出来上がりに天と地ほどの差が出てきます。だからこそ、この行程はジャッド族でも男が担当してきました」



…なるほど。ここで力を込めて捏ねないといけないのか。だからオリビアとエマはなかなかここから進めなかったわけか。どう見てもオリビアとエマにイーサン程の力は無いだろうしな。


俺が一人納得している間も、イーサンのソバ作りは順調に進んでいく。



「……よし。このくらいの固さになったら次はこれを薄く伸ばします」



と言うと、ソバ粉の塊をオリビアが持ってきた大きな板の上に載せ、さらに丸い木の棒をくるくると回しながら器用に薄く伸ばし始めた。


その筋骨隆々の体からは想像できない器用さで、イーサンは何度もソバ粉をひっくり返しながら薄く伸ばしていく。



「この行程も案外力が必要です。それに破けるか破けないかギリギリの所まで伸ばすのは、やはり経験が物を言うと思います」



……うーん。パンに似てるようだがどこか違うな。それにイーサンが作業を始めてから、部屋中に香ばしいようないい匂いが漂っている。これがソバの匂いなのか?だとしたらパンとは全くの別物だと考えた方がいいのかもしれない。



イーサンのソバ作りは佳境を迎えたようで、薄く伸ばしたソバ粉を幾重にも折り畳むようにまとめると、ずっと前屈みだった背筋を伸ばし、ひとつ深呼吸をしている。



「さて。あとはこのソバ粉を細く切るだけです。この行程は私よりオリビアの方がずっと上手なので、彼女に任せます。エマ!お湯を沸かしてきてくれ」


「はい。ジャッジ様、楽しみにしていてください。パパとママのうったソバは絶品ですよ。きっと気に入ってくださると思います」



イーサンの言葉を受けたエマは、俺にそう言い残すと台所に消えていった。


どうやらソバは細く切って食べるものらしい。しかもお湯を沸かすってことは茹でるのかな?それならば細く伸ばしたのも分かる。パスタみたいなものだろうか?



俺の目の前ではイーサンと選手交代したオリビアが、トントントンと、小気味良い音を鳴らしながらソバ粉を均等に細く切っていく。

その断面は細かい小さな黒い粒がちりばめられており、全体的な色でいうと灰色といったところか。



「さて。後は茹で上がるのを待つだけなので、残りはオリビアとエマに任せて我々は居間で待ちましょう。ジャッジ様。エミリーの相手をしてくださり、ありがとうございました」


「いや。貴重なものを見せて貰った。後は実際食べてみるのが楽しみだな。エミリーもソバは好きか?」


「うん!でもエマお姉ちゃんが薄く焼いてくれるソバも好き!」



などと会話しながら、俺はイーサンに案内され居間に移動した。


どうやらエミリーの言うように、ソバには色々な食べ方があるようだ。応用が可能ということは、色々なアレンジができるということだ。これは食べるのがいよいよ楽しみになってきたな。



ソバが出来上がるのを待つ間、俺はウィルやイーサン、サニーとソバの今後の可能性について話しながら、期待に胸を膨らませていた。

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