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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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サニーがハートランド王国に行商に訪れて3日が経ち、持ってきた商品もあらかた捌き終わったサニーは、俺の住む館を訪れていた。



「今回は本当にありがとうございます。国民も皆喜んでいたようです」


「いえいえ。私も沢山の商品を買っていただき大儲けです。これも全てジャッジ様からお声がけ頂いた結果です。今後も是非定期的に立ち寄りたいと思っておりますので、どうかよろしくお願い致します」



俺の感謝の言葉に、やや大袈裟なくらいサニーは返事を返す。


あの程度の商品が捌けた位では大した儲けにはなっていないはずだ。予定より早く訪れてくれたこともあるし、俺は良い商人に巡りあったのだろう。紹介してくれたロック兵長にも感謝だ。



「えーと、それで今日はもう帰る挨拶に来られたんですか?」



俺がそう尋ねると、サニーは少し驚いたように目を見開き返事を返した。



「いえ。まだ2、3日は滞在する予定です。そこでこの機会にハートランド王国の特産品となりそうな物を探そうと思っているのですが……。ジャッジ様、もうお忘れになりましたか?」



………そ、そうだった!今回のサニー訪問の大事な目的のひとつを忘れていた。目利きのできるサニーに、ハートランド王国から輸出できそうな物探しを手伝ってもらうんだった!



「わ、忘れてなんかないですよ!なぁ、ウィル?」



俺は焦りながらも傍らに控えるウィルに同意を求めると、ウィルは俺の方を見た後、俺にともサニーにともつかずに返事をした。



「そう仰ると思いまして、既にイーサン殿とタゴサック殿には声をかけております。まためぼしいものに心当たりがあれば準備しておくようにも話しておきました」


「おぉ。そこまで準備してくだされば、きっとすぐにでも良いものがみつかるでしょう。ありがとうございます。ジャッジ様、ウィル様」



出来る従者を持って俺は幸せ者だ。ありがとうウィル。



そう心のなかで感謝の言葉を告げた俺は、早速サニーに声をかけ、ウィルを伴ってイーサン宅に向かうことにした。







俺達がイーサン宅に到着したとき、イーサンはオリビアとエミリーとともになにやら白い粉をこねくり回していた。



「イーサン。それは何をしているんだ?パンでも作ってるのか?」



俺がそう尋ねると、同じようにその光景を眺めていた傍らのサニーが口を挟んできた。



「……これはパンではないのではないでしょうか?小麦にしては色が黒すぎる気がします。いや、不純物が多いのか…?」


「ハハハ。ようこそおいでくださいました、ジャッジ様。これの正体は後で明かすとして、まずはタゴサックの元に向かいましょう」



イーサンは俺の質問をそういってかわすと、手を洗って出掛ける準備をしている。どうやら後の作業はイザベラとエミリーに任せるようだ。


真っ白になりながらも、一生懸命白い粉をこねているエミリーは愛らしい。そのちっちゃい手ではなかなか作業は進まないだろうが、楽しそうだからいいか。



「もし、人手が必要ならエマを呼んでこようか?今日は学校も休みだからフラーもいるぞ?」



俺がエミリーのこねる粉に少しずつ水を加えていたオリビアに話しかけると、



「そうして頂けると助かります。これもこうみえて結構力仕事なんです。まだまだ工程は残っているので、後で私が自分で呼んできます」


「そうか?じゃあ存分にエマとフラーを働かせてやってくれ。あぁ。今夜はここに泊まってもいいってエマに言っといてくれ」


「ありがとうございます。実は素敵な髪飾りを主人が買ってくれたんです。エマにも自慢しないといけないわ」



と、うれしそうに話した。


オリビアとイーサンは相変わらず仲が良いな。このぶんだとエミリーに弟か妹が出来るかもしれないな。イーサン一家を路頭に迷わせない為にも、俺がしっかりこの国を舵取りしないといけないな。



「……髪飾りか。そういえばラミィにもエマにも何もあげてないな。しまったな」


「ジャッジ様。そういうことなら、次回は私が厳選していくつか王妃様やエマ様にお似合いの装飾品をお持ち致しましょう」


「すみません。気を使わせてしまって」



俺の漏らした独り言に、サニーが気を利かせてそう答えてくれた。


ラミィに以前プレゼントした髪飾りは大事にしまってあるらしく、着けている所は滅多に見かけない。俺はもらったブレスレットは常に左手首に着けている。


エマだけじゃなく、そのときはフラーにもなにかプレゼントしようかな。



準備の出来たイーサンとともに、俺達一行はタゴサックがいるという街から少し離れた畑にやってきた。

このあたりはタゴサックが厳選した土地で、水捌けが良く比較的乾燥している所だ。作物には水気があった方が良いと単純に思っていた俺には意外な場所だったが、農業に詳しいタゴサックが選んだ場所だ。きっと良い土地なのだろう。



「おぉーい!タゴサック!」



先頭のイーサンが大声でそう呼ぶと、畑の中で作業をしていたンダ族の中を離れ、タゴサックがこちらに歩いてきた。



「ジャッジ様。ようこそおいでくださいました。これがおらが考える特産品です」



そう、言葉少なく説明するタゴサック。その手が指し示すのは先ほどまでタゴサックが作業していた畑だ。


その畑には、白く小さな花が咲いた作物が一面に植えられている。ちょうど今が満開なのだろうか?俺の視界一面を真っ白な小さい花が風に揺れ動く光景は、なかなか壮観だ。



「綺麗な景色だな。……それで?これはなんという植物なんだ?食べる物か?」


「これは、ソバという作物です」


「ソバ?聞いたことがないな…」



タゴサックが話してくれたソバというものは俺は知らない。おそらく食べ物だとは思うが、まさか白い花を食べるのか?それとも緑の葉っぱかな?


俺が疑問を頭に浮かべながらも、サニーならなんか知っているかなと思い後ろを振り向くと、



「……ソバですか?恥ずかしながら私も初めて聞きました。どのような食べ物なのでしょうか?」



と、サニーも不思議な顔をしている。


サニーも知らないとなると、かなり珍しい作物なんじゃないだろうか。これはこの国の特産品の有力候補だな。

……まぁ、あくまでも味次第だが。



そんな俺達に向かい、口下手なタゴサックに変わってイーサンが続きを話し始めた。



「このソバという作物は、私たちがはるか昔に東の大陸で暮らしていたときに育てて主食としていた作物です。そのときに持ち出して、細々と栽培して種を繋いでいたのですが、タゴサックがこの土地に合うというので任せてみたのです。それをここまで立派に栽培させるとは、さすがンダ族といった所ですね」


「……なるほど。違う大陸の物だからサニーも知らないということか。それで?どこを食べるんだ?」



イーサンの説明には納得したが、未だにどんな食べ物なのかは分かってない。


そんな俺に、タゴサックが土で真っ黒になった手の平の上に載せた、小さな種のような物を見せてきた。



「これがソバの実です。これを磨り潰して粉状にした後、捏ねて食べます」


「こんな小さな実を?小麦みたいなものか?」



タゴサックの話だとこの小さな実を食べるらしい。小麦と同じならあまり効率が良いとは言えなそうだ。これは特産品とするにはちょっと弱いかもしれない。


少しがっかりした様子の俺を見て、傍らのイーサンが話しかけてきた。



「ジャッジ様。まずはお食べになってみてはいかがでしょうか?そろそろ準備もできた頃です。お手数ですが、再度私の家までご足労ください」



そう自信ありげに話すイーサンに導かれ、今きたばかりの道のりを再び引き返すことになった。


……もしかして、さっきエミリーが捏ねていたあの白い粉がソバだったのか?小麦より少し黒いとサニーも言っていたが、味はどうなのかな?

イーサンもなんか自信ありげだったし、うん。少し楽しみになってきたな。

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