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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「…えっ?いいんですか?てっきり断られるとばかり…」



俺はそう言いながら改めてサニーを見つめた。



「もちろんです!断るはずなんてありません!このお話は商売人としての大きなチャンスなのですから」



興奮しながらそう話すサニー。

自分でも興奮しすぎだと思ったのだろう。コホンと、ひとつ咳払いをして、レモネードを一口含むと少し落ち着いたのか、再び口を開いた。



「…失礼しました。確かにジャッジ様の仰る通り、今すぐに利益の出るお話ではないでしょう。…しかし、今や大国を敵に回しても一歩も引かないと話題の、ハートランド王国での最初の商人になれるチャンスなのです。こんなお話を頂けた幸運を神に感謝したいくらいです」


「……そ、そんな風に思われているんですか?我が国は」



大国を相手に一歩も引かないとは…。ま、まぁ間違ってはいないが、なんかすごい喧嘩腰じゃないか?

とうやら、ダポン共和国での一件も知られているみたいだし…。



そんな風にサニーの発言に頭を痛めている俺とは違い、どこか上機嫌なラミィは、



「それで?サニーの店をハートランドにも開いてくれるわけ?お菓子とかある?」



などと、サニーに質問している。


サニーもサニーで、



「すぐに店舗というのは難しいでしょうが、まずは行商として定期的に通おうと考えています。もちろん、ご希望のお菓子等も取り揃えて伺いますよ。是非お楽しみに!と皆さんにもお伝えください」



なんて調子の良い事を話している。


さすが商売人。このあたりの口の上手さは本物だ。ラミィをもうすっかりその気にさせている。



「それは助かります。……ただ、まだ今のところはハートランド王国で仕入れる物はなにも無いと思うんですが、大丈夫ですか?」



サニーも商売で行商をしている以上、ただ品物を売りに来るだけではたいした儲けにはならないだろう。帰りには仕入れをしていきたいに違いない。


そこを心配した俺が申し訳なさそうにそう言うと、サニーは手を顔の前で振りながら、



「ご心配なさらなくて大丈夫です。こう見えて私も長いこと商売人をやってきました。それに少しばかり目利きには自信があります。きっとジャッジ様の国でも何か特産品になりそうな資源や素材があるはずです。お時間を頂ければ、私がきっと見つけてご覧にいれましょう」



と、自信ありげに語った。



「こう見えてもサニーの目利きには定評があるんです。行商から帰ってくる度に珍しい物を買ってくると、こんな店に通う常連もいる位なんですよ」


「こんなとはなんだ!こんなとは!」



と、横から口を出したロック兵長も太鼓判を押してくれた。


長く商売を生業としてきたサニーから見れば、ハートランド王国にも何か売れそうな物があるかもしれないな。いや、あってもらわないと困る。

よし!サニーが行商でハートランド王国を訪れたときには、色んな所を見て貰おう。



「その時はよろしくお願いします」



俺はそう決意して、サニーに行商としてハートランド王国への訪問を依頼した。



サニーとはその後も細かい日程などを話し合い、早ければ来月中には初の訪問となることになった。


いやー、よかったよかった。これでエマを含めジャッド族やンダ族の人たちも喜んでくれるだろう。もし、ハートランド王国での商売が軌道に乗ったら、ラミィに頼んで店舗をプレゼントするくらいはした方がいいかもしれないな。うん、そうしよう。



俺達は今回のファイス訪問の結果に大満足で、その日のうちにハートランド王国への帰途に着いた。









ダポン共和国議会議長ゲールは、いつもの執務室で夜遅くまで書類を相手に格闘していた。



「……ふぅ。ここまでしておけばしばらく議会を離れても大丈夫だろう。しかし、なぜ議長である私がわざわざ現地まで行かなければならないのだ。それもこれも役立たずを司令官などにした軍のせいだ!」



ゲールは明日、ダポン共和国軍を率いてハートランド王国へ向かうことになっていた。

前回トルスを総司令官として、ジャッド族、ンダ族を奴隷として国有化するために自治区まで軍を派遣したのだか、あろうことか司令官であるトルス自身が敵の口車に乗せられおめおめと帰ってきたのだ。


この法案はゲールの長年の悲願だったこともあり、とても諦めきれるものではなかった。また、議長として自らが推して成立させた法律が施行できなかったとなると、今後の政治家としてのキャリアに傷が付くことになる。


そこで、またも議長としての権限をフルに活用して、今回の軍の派遣を無理矢理決めたというわけだ。

しかも、今回は万が一にも敵の口車に乗せられないため、自らも同行するという念の入れ方だ。



「あのトルスも目をかけてやったのに、まさか私を裏切るとはな…。しかも反対派閥に取り入って選挙の準備をしているらしいな。そんなことさせるものか!」



ゲールは独り言をぶつぶつ言いながら、さっきまで作成していた書類を鞄に詰め始めた。

明日からこの国を離れるため、あまり時間に猶予の無い事柄を部下に任せるための伝達事項などが細かく描いてあるものだ。


ここ最近ストレスの為かゲールは独り言が多くなり、イライラしている事が多くなった。本人は気付いていないが、まわりからは距離をおかれることが増えている。




ゲールが机の上を最後に確認し、執務室を出ようと椅子から立ち上がると、出口である扉のすぐ横に人影があることに気付いた。その人影は音も立てずひっそりとその場に佇んでいる。

いつからその場にいたのかもわからないが、少なくともゲールの許可を得て入室したのではないのは確かだ。



「だれだ!?誰の許可を得てこの部屋に入っている!」



ゲールが強い口調でそう言い放つと、人影はフフフと少し笑ったような声を出し、ゆっくりとゲールに向かいその歩を進めてきた。



「………ゲール議長。勝手に部屋に入ったことは謝ります。しかし、私があなたを訪ねたことは、あなたにとって幸運をもたらすでしょう」


「…幸運?なんのことだ?」



人影は喋りながらもその足を止めない。執務室に置いてあるランプの光が届く距離まで来ると、その人影は全身真っ黒な衣装に身を包んでいることがわかった。



「あなたの悲願であった少数民族奴隷化を阻んだのは誰です?反対派の議員ですか?それとも無能な司令官ですか?違うでしょう。それは……ハートランド国王です」



今ではゲールの目の前まで迫った全身真っ黒な人物は、顔まで覆われた黒のマスクの下から、くぐもった声音でそう話す。その声は不思議と人を惹き付けるものがあり、ゲールも思わず聞き入ってしまった。



「……ハートランド国王?ジャッジとかいう小僧のことか?確かにやつらさえ自治区を訪れなければ、全て上手くいっていただろう。…しかし!今回軍を派遣し、やつらを叩くことになっている。素性の知れない者に言われるまでもないことだ!」



そう言うとゲールは人を呼ぼうと、椅子を立ち上がり出口である扉に向かう。

しかし、扉まであと一歩といったところでゲールは黒衣装の一言に足を止めた。



「……このままでは負けますよ」



その言葉には不思議と真実味があり、実感がこもっているような気がした。

ゲールは扉のノブにのばそうとしていた右手を引っ込め、ゆっくりと黒衣装を振り向き、その言葉の持つ意味を問いただそうと口を開く。

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