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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「なんかこうやって3人で歩くのも久しぶりな気がするな」


「そうですね」


「そうね。アンタはいつもあの女狐といるものね」


「うっ………」



俺達は行商人について調べる為に、ファイスの街を訪れていた。3人とはもちろん俺とウィル、ラミィのことだ。


市場を歩きながら、俺が何気なく漏らした一言にラミィが嫌みをぶつけてきた。どうやら、ちょくちょくエマと2人で散歩していることに気づいていたらしい。


……くっ、気付かれていたか。しかし、俺から誘ったわけじゃなく、何故かいつもエマが先回りして現れるのだから仕方ない。俺は悪くない……はずだ。


話題を逸らそうと、市場の様子を熱心に眺めるふりをしながら俺は口を開く。



「市場に来ればなんか分かるかと思ったけど、一体誰に話を聞けばいいんだ?」



行商人を探すと言っても、商人の知り合いなどいない。

ならば商人の集まる市場なら何か分かるのでは?という安易な考えでここまできたものの、この後俺にはどうすれば良いのかさっぱり分からなかった。



「アンタ達誰か知り合いいないの?私は菓子店くらいしか知り合いなんていないわよ」



ラミィはさっきの嫌みを引きずる様子もなく、店先に並ぶ変な形の果物を手にとってじろじろ眺めながらそう聞いてきた。


この天才美人魔女はこういう珍しい食べ物が大好きだ。見かけると必ずと言っていいほど買い出しの際に買ってくる。そして美味しければ一人で食べるくせに、想像と違う味だと俺達に残りを押し付けるのだ。

先日は固いトゲトゲに覆われた丸い果物を食べさせられた。あれは、とてつもなく臭かった。しばらく部屋から匂いが取れなかった位だ。



「お、おい、ラミィ。今日は変な物買うのは止めとけ。あとで甘いもの食べに行ってやるから。な?」


「えっ!?いいの?やった!!」



俺がなんとかラミィを止めようとそう言うと、ラミィはピョンピョン跳ねながら喜んでいる。


そう言えばあれ以来カフェとかには行っていないな。こんなに喜んでくれるなら、たまにはラミィと甘いもの食べに行くのもいいかもな。その為にというわけじゃないけど、やはり資金を稼がないといけないな。



「知り合いかぁ。知り合いと言ってもロック兵長くらいしかいないかなぁ…」


「とりあえずロック兵長に相談してみますか?」


「そうしようか。ロック兵長なら顔も広いだろうし、誰か紹介してくれるかもしれないしな」



そんなやり取りをした後、ウィルの提案で俺達はロック兵長を探すことにした。この街に長く住んでいるであろうロック兵長に相談すれば、事態が好転するかもしれない。そうでなくても久しぶりにロック兵長にも会っておきたい。あれからアルフレッド王がおとなしくしてるかも聞いておきたいしな。



ロック兵長の家は知らないし、今の時間ならきっと見回りだろうと、俺達は領兵の詰め所を目指すことにした。

俺はウィルと色々と話をしながら、ラミィはあれだけ言ったのにどこかで買ったイチゴのようなものを食べながら歩いている。さっきからひとつも俺達に渡すことなく黙々と食べている所を見ると、さてはおいしいのだろう。



「それでは私がロック兵長がいないか声を掛けてきます」


「あぁ。頼むよ」



詰め所についた俺は、声を掛けにいくというウィルを詰め所の外でラミィと待っていた。


この詰め所を訪れるのは初めてかもしれないな。マフーン軍を俺とウィルで撃退したときも、南門の詰め所にしか行ったことがない気がする。

入り口に立っている門番も、ウィルが声をかけた途端笑顔で対応してくれているし、まだまだウィルの街を救った英雄としての威光は有効のようだ。



そんな風に辺りを眺めながら待っていると、



「おぉ!ジャッジ様。わざわざ私を尋ねてきてくださるとは光栄です!」



とロック兵長がウィルを伴って入り口から姿を見せた。

いつものような軽装備で、ニコニコと笑顔でこちらに駆け寄ってくる。



「仕事中にすみません。ウィルから聞いているかもしれませんが、ちょっと兵長に相談したいことがあって…。もしよかったら少し時間を頂けませんか?」


「もちろん構いません!さっき見回りから帰ったばかりで、これからは待機時間ですから。どこか飲み物でも出す店に行きましょう」



俺が尋ねると、ロック兵長はそう快諾してくれた。


よかった。じゃあどこか近くにある店にでも入ろうか。と、俺がまわりを見渡していると、



「………飲み物?そ、それなら私がいい店を知ってるわ!こっちよ。ほら!早く来なさい!」



と、ラミィが名乗りを上げてさっさと皆を先導するように、先頭に立って歩き出した。


自分勝手なのはいつものことだが、あの様子だとおそらく甘い飲み物を出す店に連れて行く気だろう。

それならそれで別に構わないのだが、なぜラミィはこの街に住んでいるわけでもないのに、そんなに甘いものを出す店に詳しいんだ?一体なにから情報を得ているのだろう。不思議だ…。


そんな風に考えながら、ラミィの後を男3人で付いていくと、少し歩いただけで目当ての店に到着した。



「ここか?」



俺は店の外観を見上げながらラミィに尋ねる。


お洒落な見た目をした店は、こじんまりとしているがすでに客が数組入っているようだ。看板には色鮮やかにイラストでいろんな色のドリンクの絵が描いてある。


ラミィはなぜか自慢気に俺の方を振り返り、胸を張って答える。



「そうよ!これがかの有名なフルーツドリンク専門店よ。様々な種類の果物を絶妙なバランスで組み合わせたドリンクが絶品らしいのよ。このドリンクを飲めばお肌ピチピチよ」


「……そ、そうか。よかったな」



なにがかの有名なのかは分からないが、まぁ落ち着いて話ができるならいいだろう。まだラミィは十分にピチピチのお肌をしていると思うが、女性ならではの感覚なのかな?




俺達は店員に案内されるままに奥のテーブルに腰かける。その後、注文したドリンクが届いた後、ロック兵長に向かって本題を切り出した。



「……さて、わざわざ兵長に時間をとってもらったのはですね。どなたか行商人を紹介してもらえないかと思ったからなんです」



俺はそう話した後、現在のハートランド王国の様子などをロック兵長に説明した。

ロック兵長は突然大幅に増えた国民にも驚いていたようだったが、それ以上にジャッド族がハートランド王国に加わったことに関心があるようだった。



「さすがジャッジ様ですね。あの比類なき体格で知られたジャッド族までもお味方につけるとは…」


「そんなに有名なんですか?」



イーサン達からはそんな話は聞いたことがない。まぁ、自分達で言うことでもないだろうが。



「私たちのように、体を鍛えることに関心のある者達の間では有名です。その恵まれた肉体に憧れを持つ者も少なくないのです」


「あぁ…。そういうことですか」



どうやらマッチョ界隈では有名ってことらしい。確かにジャッド族の男性は、例外なく皆筋肉ムキムキだしな。

ロック兵長も見て分かる通り、筋力トレーニングを欠かしたことはないのだろう。年齢の割にはまだまだ現役といった体型をしている。



「これはなおさらハートランド王国に移り住みたくなりました。……いや、もう決めました!領兵を引退したらハートランド王国に移住します!実はジャッド族の行う相撲というやつにも昔から興味はあったのです」



と、一人で勝手に移住を決めてしまった。


俺としては構わないし、ロック兵長なら人間性も信頼できるのでむしろ大歓迎なのだが、家族はいいのだろうか?


そんな俺の疑問を見透かしたかのように、ロック兵長は妻が随分前に亡くなってしまったこと。一人息子は成人して独り立ちしていることなどを教えてくれた。


その上で、改めて俺にハートランド王国への移住の許可を求めてきたので、そういう事情ならと快く許可した。



もし、ロック兵長が移住してきた後、その気があるならハートランド王国軍の指導をお願いしようかな?ウィルを筆頭として個々の強さには自信があるけど、軍としては素人集団だからな。また、他国から侵攻を受けないとも限らないしな。



俺は色んな果物が混ざった、なんだか分からない味だけど美味しいドリンクを飲みながら、本来の目的を忘れハートランド王国の今後の展望を頭に浮かべていた。

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