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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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結局ハートランド王国移民団はその数を50人ほど増やした。さすがにその人数の物資の準備には、ケイレブ伯爵の協力がありながらも、1週間もかかってしまった。



「それでは出発します。色々とご協力ありかとうございました。是非、お暇があればハートランド王国まで遊びに来てください」


「必ず伺います!ジャッジ様もお気をつけて」



そう挨拶をして、ケイレブ伯爵からの見送りを受けながら俺達はセカーニュの街を出発した。

ケイレブ伯爵のことだから、社交辞令ではなく本当にハートランド王国を訪れそうな気がする。その時には、この美しいセカーニュの街にも、負けないような国を見せれるようがんばらないとな。








それから2週間後。


俺達ハートランド移民団の目の前には、もはや懐かしさすら感じる我がハートランド王国の土地が広がっていた。



「やっと着いたな。さすがにこんな大人数だと大変だったな」


「旅に病気や怪我などはつきものです。それでも全員で到着できたことは幸運でした」



独り言のように呟く俺にウィルはそう返事をする。


確かに全員で到着できたのは幸運だろう。ジャッド族もンダ族も弱音を吐くことなく、子供から年寄りまで歩き続けた。やはり彼らの体には、大昔の移住を繰り返した先祖の血が流れているのだろう。



そんな風に後ろの移民団を振り返り眺めていると、イーサンとタゴサックが俺とウィルのいる所まで歩いてきた。



「どうだ?このなにもない場所がハートランド王国だ。がっかりしてないか?」



整地だけはがんばってしてあるが、本当に何もない土地を見てイーサン達ががっかりしてないかな?と、不安な気持ちを誤魔化すように、冗談っぽく話しかけた。


すると、イーサンは感慨深げに街の奥にポツンと立つ館や、まわりを囲む山々を見回しながら、



「素晴らしい場所です!自然に溢れ、まるで山々が国を守ってくれているようです。ここが、私たちの新しい故郷になるのですね。ジャッジ様、本当にありがとうございます!」



と、感動してくれているようだ。


タゴサックの方も、足元の土を手で掬って何やら匂いを嗅いだり、少し舐めたりしていたが、



「……これは良い土です。これなら自治区とは比べ物にならない程良い野菜が出来そうです」



と、満足げな顔をしている。

どうやら2人とも気に入ってくれたようだ。



それからおおまかに皆の暮らす場所を決め、細かいことは族長である、イーサンとタゴサックに任せることにした。

今後街をどういうふうに造っていくかも話し合いながら決めていきたかったので、明日館にて話し合いを行うことをイーサン達に伝え、俺とウィルとラミィは久しぶりに館に帰ってきた。




「いやー。疲れたな。まさかこんなに長く留守にするとは思わなかったな」


「本当ね。あー、早く大きなお風呂に入りたいわ」



ラミィはそう言うなり、さっさと2階に上がっていってしまった。きっと風呂の準備をしに行ったのだろう。


ウィルはというと、館の中を見回っているようだ。留守の間に侵入者などがいないか確認しているのだろう。

こんな辺鄙な場所に泥棒も来ないとは思うが、念のためというやつだろう。

やはりウィルは頼りになる。


俺は自室に戻って荷物でも片付けようと、階段を上ろうとしているときだった。


ドンドン!


と館の玄関をノックする音がした。



「ん?イーサン達かな?でも話し合いは明日って伝えたはずだけどな?」



などと思いながらも、階段を上がろうとしていた足を止め、玄関に向かおうとすると、



「ジャッジ様。私が出ます。国王が自ら出迎えることはお控えになった方が良いでしょう」



と、ウィルが俺に言いながら玄関に向かった。


そういえば俺は国王だった。国民も増えたことだし、少しは国王らしくした方がいいのかな?

…でもなぁ、ふんぞり返ってる王様って感じはいやなんだよなぁ。まぁ、俺は俺らしい王ってやつを目指そう。




やや警戒しながら玄関を開けたウィルだが、どうやら訪問者はエマだったようだ。

すんなり中に通され、ソファに座り直した俺の前までやってきた。



「どうしたんだ?何かイーサンから言付けでも預かってきたのか?」



俺がエマも座るように促しながらそう尋ねると、



「はい。族長である父から、今後はジャッジ様の身の回りのお世話をさせて頂くようにと命じられました。ふつつか者ですが、これからどうかよろしくお願い致します」



と、まるで嫁にでもくるような挨拶をしてきた。


……イーサンめ。さてはオリビアから入れ知恵されたな。

さて、どうしようか。断るべきかな?


などと、俺がエマを前にして考えていると、



「よろしいのではないでしょうか。ジャッド族としても、族長の娘を国王に差し出すことは信頼の証として最上のものでしょう。ここは素直にお願いした方が今後の国作りの為にもなるかと思います」



今までエマのことに関しては黙秘を貫いてきたウィルが、珍しくそう意見してきた。

今回のことはエマとラミィとの関係ではなく、ハートランド王国国王としての俺とジャッド族との関係だと考えたようだ。


ウィルが言うならきっとそれが一番良いんだろう。この広い館に3人暮らしってのも広すぎるしな。エマにお願いしようか。



「……わかった。こっちこそよろしく頼む。ラミィが色々とわがまま言うかと思うが、仲良くしてやってくれ」


「はい!早速ラミィ様と閨のお供の順番などを話し合ってきます!」



とエマはうれしそうに話すと、物音のする2階にラミィがいると察したのか、元気よく駆け上がっていった。


……閨の供?俺が言ってるのはそういうお世話じゃないんだけどな…。


などと思いながらも、まぁなるようになるかとウィルと話をしながらソファで寛いでいると、


ドンドンドン!


と足を踏み鳴らすように階段を降りる音がして、般若の表情をしたバスタオル姿の天才美人魔女が現れた。



「ちょっと!アンタ!この女狐と結婚を前提としてこの館で同棲するってどういうことよ!」



などとラミィはもうヘルファイア寸前といった様子で、俺に詰め寄ってきた。



「結婚!?同棲!?なんのことだ?」



どうやら、エマから大分間違った情報を伝えられているようだ。


……まったく。エマは自分に都合の良いように物事を捉える所があるな。ラミィもそういう所はあるから、実は似た者同士なんじゃないか?



「エマがわざわざ風呂に入ってる私に自慢しにきたのよ!キーッ!」


「ま、まぁ、落ち着け。どうどうどう」



と、なんとか興奮するラミィを落ち着かせようと、バスタオル姿のラミィの頭を撫でる。

ふと隣を見ると、音もたてずにウィルはいつのまにかいなくなっていた。


…くっ。元はといえばウィルがエマがこの館で働くのを勧めたせいでもあるのに。身体能力の高さを遺憾なく発揮しやがって。

仕方ない。ここは俺一人でなんとかするしかない。


と、覚悟を決めた俺はとりあえずラミィに着替えてくるように話をし、2階のエマにも一階に降りてくるように声をかけた。



「よし。エマのこの館での役割について決めとこうか」


「はい。まずはジャッジ様の閨の…」


「まて!そこでいったん待て!」



3人でソファに座って話し合いを始めた途端、エマがまたさっきと同じことを言い出したので焦って止める俺。

そのままエマの方を向きながら、諭すように話す。



「エマ。閨のお供は今のとこ遠慮しとくよ。エマには食事の用意だったり、掃除とか洗濯とかをお願いしたいんだが。それでいいかな?」



俺がそう話すと、エマは少し不満げな表情をしながらも、



「ジャッジ様がそう仰るなら、そのお役目誠心誠意務めさせて頂きます」



と、返事してくれた。



「ラミィもいいかな?」



俺がラミィにも一応確認をとるが、



「……仕方ないわね。でもアンタの部屋は1階よ。私は2階の()()()の部屋だからね。バーカ!バーカ!」



と言うと、逃げるように自室に戻っていった。


……おいおい。子供のケンカじゃないんだから。それにエマはもう大人だから、それくらじゃ怒りもしないだろうに。


なんて呆れながら残されたエマの方を見ると、



「……くっ!いつかは私がジャッジ様のお隣の座を…」



などと、結構効いていたようだ。

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