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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「トルス司令官?大丈夫ですか?」



俺は固まって動かなくなったトルス司令官に近づき声をかけた。


まぁ、初めてウィルの剣技を見たらそうなるかもな。俺なんて、5人目からあとはウィルがなにしてるか見えてもいないし。



「……はっ!は、はい。大丈夫です。ご無事でよかった」

 


やっと我に返ったトルス司令官は、目の前の惨状に改めて目をやると俺に向かい口を開いた。



「お仲間はお強いですな。これならジャッド族、ンダ族のこともお任せできます。是非、彼らに安住の地を与えて上げてください」


「はい。お任せください。俺達の国には彼らの力が必要なんです。共にいい国を作ろうと思います」



そう言い合い、俺達は再度別れた。

トルス司令官には首都に戻ってから苦難の日々が待っていることだろう。だが、彼なら理想の国を作れるかもしれない。それに期待しようと思う。


そういえば、別れる前にトルス司令官からオリビアと言うジャッド族の女性を知っているかと聞かれた。もちろん知っていると答えたら、元気かどうか教えてほしいと言われたので、族長の妻として、2人の娘の母として幸せそうだと答えておいた。そして、年齢を感じさせない美しさだとも。


その答えを聞いたトルス司令官は、とびきりの笑顔で大きく笑い、何度も何度も満足そうに頷いていた。

知り合いなのだろうか?

笑いすぎたのか、そのときのトルス司令官の目が潤んでいたような気がした。







予想より遥かに早くダポン共和国軍を撤退させることができた俺達は、先発組に遅れること一日でハヤト村を出発した。


100人を超える大所帯だが、そのほぼ全てが屈強な戦士たちであり、歩く早さも相当なものだ。

早々に俺とラミィは付いていけなくなり、皆に申し訳ないと思いながらも、一番の年配であるイーサンを誘い魔車に乗らせて貰った。


初めての魔車にイーサンは、


「こ、これは速い!まるで飛んでいるようですな!」


などと、年甲斐もなくはしゃいでいた。


それを聞いたラミィが、


「……飛ぶ?それもありね」


などと、また新しい魔法のヒントを得ていた様子だった。おそらくハートランド王国に帰ったら、また自分の家と往復して研究するのだろう。結果が楽しみだ。






「あー。あれかな?」



俺達が出発してから2日目には、もう先発組に追い付いた。


状況をタゴサックに確認するも、今のところ問題なく旅できているようだ。子供や年寄りの足に合わせる為、決して速くはないが確実に進んでいる。


これでいい。きっとこれからのハートランド王国もこんな感じで発展していくのだろう。ゆっくり着実が一番だ。



「ジャッジ様~!お怪我はございませんか?あら!こんなに汗をおかきになって。後で私がお背中流して差し上げますね」


「い、いや。自分で洗えるから大丈夫だ」



俺の姿を見た途端、エマが走りよってきて声をかけてきた。

迷いなく俺の左腕に両手を巻き付け、豊満な胸を押し付けつつ上目遣いで話すエマに、俺はたじたじだ。

……これがオリビア直伝の女の武器か。やるな、オリビア。今後の教育にも期待しよう。




そんな俺とエマを睨み付けるラミィと、いつものように見ない振りをするウィル。

そして、エマを指差しながらオリビアと話をするイーサンと、ジャッド族の100人の戦士たちを加え、ハートランド移住組はセカーニュの街を目指す。



途中盗賊などには遭遇しなかったが、計500人にも及ぶ大所帯だ。もちろん様々な問題が発生した。


道中小さな村や街があることにはあるのだが、とても俺達を全員受け入れてくれるような余裕はなく、基本的には野宿だ。そして、もちろん雨の降る日もある。

テントの数も圧倒的に足りないため、女性や子供、老人達に場所を譲った男たちはずぶ濡れだった。それでも体調を崩す者が少なかったのは、やはり強靭な肉体のおかげだろう。



「これは、なんか考えないといけないな」


「そうね…。私もどうにかできないか考えてみるわ」



雨に濡れるジャッド族、ンダ族の男達を見ながら、俺とラミィは自分達は魔車に乗っている罪悪感からか、そんなことを話していた。



結局、セカーニュの街に着くまでに解決策は見つからなかったが、その間男達は不満はもちろん、辛そうな表情すら見せることはなかった。むしろ、新天地への期待が勝っているようだった。


イーサンやタゴサックにも相談したのだが、2人も特別に何かをする必要はないと言う。それどころかイーサンなどは、



「この辛い旅路も、後々は安住の地への道のりの記憶として、子孫代々に伝えられていくはずです。むしろ、もっと苦労や困難が待ち受けていてほしいくらいです。なので、ジャッジ様がお気になさることはありません」



なんて事を話していた。隣のタゴサックも頷いていたから本心なのかもしれない。

俺にはよく分からないが、今まで移住を繰り返してきたジャッド族やンダ族ならではの感覚なのだろう。





ようやくセカーニュの街に辿り着いた俺達だったが、やはり500人もの人を受け入れる余裕はなく、男たちはケイレブ伯爵が用意してくれた簡易テントで休むこととなった。



「よくぞご無事でお帰りくださいました。しかし、まさか少数民族を全員連れてお戻りになるとは思いませんでした」



ケイレブ伯爵に招かれた夕食の席で、俺に向かいそう話す伯爵。本当は迷惑なのだろうが、そんなことはおくびにも出さないあたりが大人だ。



「俺達も出来るだけ早くハートランド王国に向けて出発するつもりです。準備が整うまで少しの間ご迷惑をおかけします」


「いえいえ。迷惑などとは思っていません。すでに私はジャッジ様に臣従を誓ったつもりでいます。私に出来ることがあればなんでも仰ってください」



と、ケイレブ伯爵は協力を約束してくれた。

俺もその申し出に甘えようと思う。



「あぁ。そういえばフラーもジャッジ様がお戻りになるのを心待ちにしておりました。後でお顔を見せてやってください」



ケイレブ伯爵が思い出したように口を開く。


そうだな。フラーに会いに来たおかげでこんなに大勢の国民が増えることになったんだ。フラーにはちゃんとお礼を言っておかないとな。



そう思った俺は、ウィルだけを連れて夕食後にフラーの部屋を訪ねた。



「フラー。俺だ、入るぞ」



そう言いながら、フラーの部屋の扉を開けて中に入る。

フラーはベッドの上に大きな鞄を置き、中身を確認している所のようだ。



「あぁ!おかえりなさいませ。ジャッジ様。ご無事でお戻りになったとお聞きして安心しておりました」



俺の方を振り向き、笑顔でそう話すフラー。

その手にはまだ洋服が握られている。



「フラーのおかげでハートランド王国にも沢山の人が増えそうだ。ありがとな。……ところで、そんな大きな鞄を出してなにしてるんだ?旅行にでも行くのか?」



俺がそう聞くと、フラーは少し怒ったような表情で、



「何を仰ってるんですか?私もハートランド王国に帰るので、その準備をしているのですよ。他にもこの街に逃れてきたジャッド族、ンダ族の方々もご一緒すると伺いましたよ」


「な、なに!?まだ人数が増えるのか?というか、フラーもか?ケイレブ伯爵からは何も聞いてないぞ」


「伯爵様からは許可は頂いています」



そう言うと、フラーは荷物を詰め込む作業の続きを始めた。よく見ると部屋の中が妙にすっきりしている。


……まぁ、当初の目的はフラーを迎えに来ることだったからなぁ。ある意味目的通りにはなったか。

しかし、これ以上人数が増えるとなると更に物資が必要になるな。明日からはしばらく忙しくなりそうだ。



俺はそう思いながら、楽しそうに衣類を鞄に詰めるフラーの後ろ姿を眺めていた。

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