表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
65/165

65

翌日の昼過ぎ、俺は自治区を出発するジャッド族、ンダ族の見送りに来ていた。


総勢400人にも及ぶ人の群れを前に、俺は挨拶をすることになった為、村の広場の中央に設置されたお立ち台に昇り、できる限りの大声で皆に聞こえるように話す。



「皆!俺が今後君たちの住む国であるハートランド王国の国王、ジャッジだ。今回は移住を決断してくれてありがとう。しかし!大変なのはハートランド王国までの道のりだ。ここからまずはセカーニュの町を目指して貰おうと思う。順調にいけば2週間もあれば着くはずだ。遅れる者がいればその足に合わせ、皆で助け合いながら進んで欲しい。俺達はダポン共和国軍の足止めをしてから追いかける予定だから安心して欲しい。ダポン共和国軍には決して君達の後は追わせない。それでは、セカーニュで会おう!」



そう締め括ると、400の人の群れから拍手と歓声が上がる。

そして、ンダ族のタゴサックの「出発!」の掛け声とともに、広場から村の門へ皆は歩きだした。

これからまずは2週間の旅が始まるわけだ。そのあともハートランド王国までは、計1ヶ月歩き続けないといけない。大変だと思うが、なんとか無事に全員で到着して欲しい。





全員が村を出発し、後に残ったのは俺達3人にイーサン、エマ、そしてジャッド族の戦士達約100人だ。


ジャッド族の戦力となる男性はあと100人はいるのだが、まだ成年前だったり、50を超えている者は先発組の護衛にまわってもらった。

道中また盗賊にでも襲われたら、ンダ族だけでは万全とは言い難いからだ。


つまり、今ここにいる人数が、新生ハートランド王国軍ということになる。




「さて、それじゃ作戦会議といこうか。敵は明日にはここに来るはずだ。時間はあまりない」



俺がそう言うと、イーサンが主導して戦士達には武器や防具などの再確認と、作戦が決まるまでは体を休めるよう命じていた。


結局イーサン宅に集まったのは、俺とウィル、ラミィ、イーサン、エマと代わり映えしないメンバーとなった。



「とりあえずは無事先発隊が出発できてよかった。ここまでは予定通りだ。だが、問題はここからだな」


「はい。まずはダポン共和国軍と戦うのか、それとも話し合いで解決するのかを決めた方がよろしいでしょう」



ウィルがそう口火を切った。

イーサンとエマはその言葉を聞いて、不思議そうな顔をしている。



「……私達を奴隷にするためにわざわざ進軍してきた兵が、話し合いに応じるでしょうか?」



イーサンがそう疑問を呈する。



「実はな…。昨日ウィルから聞いたんだが、ダポン共和国軍も一枚岩ではないようなんだ」



と、昨夜ウィルから聞いた兵士達の話や、俺の考えをイーサンに伝えた。すると、イーサンやエマも思い当たる事があったのか、何かしばらく考えていたが、



「……確かに、我々ジャッド族を差別せず、友人として接してくれるリゴート族も多くいます。彼らも法律には逆らえないのでしょう」



と、悲しそうな顔で返事をした。

イーサンにもそういう友人がいたのかもしれない。もちろんエマにも。そんな友人と戦わなければならないのは辛いだろう。

悪いのはこんな馬鹿げた法律を制定した議会であり、議員達なのにだ。



「そうだろうな…。だから、なんとか兵達を傷つけずに撤退させることができれば、それが一番いいと思うんだ。皆なんかいい案はないかな?」



俺がそう言うと、皆真剣な顔をして色々と考えてくれているようだ。もちろん俺も少ない脳みそをフル活動させて考えた。



しばらくして、それぞれが自分の考えた策を提案してくれたが、どれも決定打にかける内容ばかりだった。やはり、兵達を傷つけずにというところが難しい。



結局具体的な策は思い浮かばず、とりあえず両軍が相対した後、ダポン共和国軍の司令官に話をしてみることになった。

その方法は簡単だ。ウィルに守って貰いながら真っ直ぐ敵の司令官まで歩くだけだ。シンプルだが、俺はウィルを信頼しているし、ウィルの力ならさほど難しくもないだろう。


そう決まった後は、この村で待ち受ける事にして、村の柵を土魔法で土塀に作り替えたり、戦士達の配置を決めたりと、準備に追われた。









そして、決戦の朝を迎えた。



偵察に出ていたラミィが魔車で戻ってくると、



「来たわよ。ここまではもう半日もかからない場所にいたわ」



と、報告してくれた。


俺達は最後の確認をして、そのときを待つ。



「……それじゃ、そういうことでよろしく頼む。もし、話し合いが決裂したら、戦いになるかもしれない。出来るだけ避けたいがそうなった時は仕方ない、先に出発した皆を守るために戦おう」


「はい!いくら気が乗らないとはいえ、仲間を傷つけようとする者には容赦しません」



俺の言葉にイーサンはそう返事する。

その表情にはジャッド族の族長として、皆を守るという決意が現れていた。








ダポン共和国軍総司令官トルスは、ジャッド族、ンダ族自治区に入ったとの報告を受け、ついに着いてしまったかと、憂鬱な気分だった。



「……わかった。少数民族の姿はないんだな?おそらくハヤト村だろう。あそこが一番大きな村だったはずだ。そこに向かう」



そう指示を出した後、自らも跨がっている馬の手綱を握った。その表情は暗く、まるで恋に思い悩む若者のようだった。



トルスがダポン共和国軍学校を卒業してもう20年になる。士官として順調に出世し、同年代では一番といっていいスピードで軍を預かる立場にまでなった。

その明るく実直な性格から部下にも慕われ、上官である議員にも覚えがいい。


そして、今回初めて遠征の総司令官に任じられた。トルスにとっては念願だったはずだ。

……しかし、トルスの気分は重い。



「なぜだ…。なぜ、あの気の良い人達を、奴隷になどしなければいけないのだ…」



馬の手綱を握り、未だ見えないハヤト村の方角を見つめながら、トルスはこの遠征が決まってからもう何度目か分からない独り言を漏らす。

隣で馬を操る部下にもきっと聞こえているだろう。しかし、その部下は聞こえていない振りをしている。彼は上官としてのトルスを信頼しているのだ。



トルスは軍学校を卒業する前に、国内を旅して回ったことがある。

軍人となれば、自由に旅することなどできないだろう。その前に国内を自らの目で見たかった。そこに住む人々を、これから自分が守るべき人々を。


そして、ジャッド族、ンダ族自治区も旅の途中で訪れた。


当時はまだ少数民族を卑下するような風潮はなかった。自分達リゴート族とは、少々見た目や文化が違う程度で、守るべき国民に違いはなかった。



そこでトルスが出会った少数民族達は皆親切だった。

ンダ族の村では、今まで見たこともないような野菜で作った、絶品の料理をごちそうしてもらった。

ンダ族は決して豊かではないが、自らの住む土地を愛し、懸命に、真摯に農作業に向き合っていた。


その後訪れたジャッド族の村では、相撲と呼ばれる競技を通して村の若者とすぐに仲良くなれた。

彼らは、軍学校でも力の強い方だったトルスを簡単に投げ飛ばした。そして、勝負が決すると互いに健闘を称えあった。


元来体を動かす事を好むトルスは、あっという間に意気投合し、何度も相撲を挑んでその度に投げ飛ばされた。

だが、不思議と悔しくはなかった。

それはジャッド族の男達から、対戦相手を尊敬する気持ちが常に感じられたからだろう。


その村ではとても美しいジャッド族の女性にも出会った。今考えると一目惚れというやつだろう。ほのかに恋心を抱いていたが、その女性はもうすぐ次期族長のもとへ嫁ぐのだと言っていた。


今も元気だろうか?おそらく年を取ってもあの美しさには変わりはないはずだ。幸せになっていてほしい。





現在の自分の境遇から目を逸らすがごとく、過去の思い出に耽っていたトルスは、部下の一言で残酷な現実に連れ戻された。



「司令官!見えました。ハヤト村です」



その言葉を聞いたトルスは、ほとんど無意識に前方に目を凝らす。

そこには自分が指揮をする軍の目的地である、小さな村が見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ