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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「さて。みんなの意思は確認したわけだし、あとはここを出てハートランド王国に向かうだけだな」


「そうですね。大人数の移動には時間がかかるでしょう。暑い季節が来る前に到着するには、早めに出発する方がいいと思われます」



俺とウィルはイーサン宅に用意してもらった部屋で朝食をご馳走になった後、自治区を出発する日について相談していた。

もう少ししたらここにンダ族のタゴサックや、ジャッド族のイーサンなど主だったものが集まって、この自治区を出ていく計画をたてる予定になっている。



「確かに移動は大変だろうな。……でも、これでハートランド王国も一気に国民が増えて賑やかになるぞ。楽しみだなぁ」



俺は以前の賑やかだったハートランド王国を思いだし、思わず笑顔になってそう呟いた。




もうそろそろ皆が集まる頃かなと、イーサン宅の広間にラミィも誘って向かうと、なにやらイーサンがジャッド族の若者と話をしていた。


その表情は真剣であり、


「それで、いつ来るのかは分かってるのか?」


などと話す声も聞こえる。



「イーサン。どうした?何かあったのか?」



俺がそう話しかけると、若者との話に夢中だったのだろう。イーサンは驚いたようにこちらを振り向き、真剣な表情のまま口を開いた。



「ジャッジ様!ちょうどよいところに。今お呼びに伺おうと思っていたところでした。実は、今報告を受けたことがあるのですが、ジャッジ様もお耳に入れておかれた方がよろしいかと」


「わかった。俺も聞こう。ウィルとラミィも一緒でいいか?」


「もちろんです」



俺はそう言って、ウィルとラミィと一緒にイーサンの近くに腰を下ろす。


と、その時玄関が開く音が聞こえたかと思うと、ンダ族のタゴサックもやってきた。イーサンが是非一緒に聞いて欲しいと言うため、結局皆で話を聞くことになった。



「皆さんよろしいですか?それじゃ、もう一度最初から頼む」



イーサンは俺達の顔を確認するように眺めた後、若者へ話をするよう促した。



「承知しました。……私が住んでいるのは自治区の中で最も北に位置している村なのですが、昨日リゴート族の友人が、わざわざ私に知らせに訪ねて来てくれた事があるのです」



そう言うと、ジャッド族の若者は懐から一枚の紙を差し出してきた。そこには「少数民族国有化法案公布書」と大きく書かれ、下に細かい字がびっしりと書かれていた。



「見てもいい?」



そう尋ねて、俺は紙を手に取り中身に目を通す。隣のウィルも覗き込むようにして読んでいるようだ。

俺は少しウィルの方に紙をずらし、一緒にその公布書を読めるようにした。



「……なっ!なんだこの法律は!?」


「……これはひどい」



その公布書の中身はひどいものだった。

内容は自治区に住むジャッド族とンダ族を奴隷化し、今後はダポン共和国所有とし、鉱山などの過酷な労働に従事させるというもの。施行はダポン共和国の国軍が到着後、となっているから、近いうちにここにダポン共和国軍がやってくるのだろう。


中身に驚いた俺はイーサンに向かい質問する。



「イーサンは知っていたのか?」


「まさか!私も先程報告を受けて初めて知りました」



イーサンは苦虫を噛み潰したような表情をしている。


そんな俺達に向かい、若者はまだ話すべきことが残ってたようで再び口を開いた。



「それだけではなく、友人は国軍についても教えてくれました。昨日の時点で既に首都を国軍は出発しているらしく、自治区には早ければ明後日には到着するかもしれない、ということです」


「……明後日か。早いな」



若者の報告を受け俺はじっと考える。


明後日までに準備を整えて、自治区を皆で出発するのは難しいだろう。年寄りや子供の足を考えると、なんとか出発できても追いつかれてしまう可能性が高い。となると、俺達に残された手は2つしかない。


1つはこのまま国軍に捕らえられ奴隷となること。そしてもう1つは、戦って自治区を逃げる時間を稼ぐことだ。

1つ目の案は到底許容できるものではないし、俺もせっかく出来た仲間を奴隷にされるなんて絶対にイヤだ。となると…。



「……戦うしかないか」



俺がそう呟くと、それを聞いたイーサンやタゴサックは慌てたように口を開いた。



「じ、ジャッジ様!私達のためにそこまでして頂く必要はありません!ここはジャッジ様達だけでもお逃げください!」


「そうです!おら達は大丈夫ですから。国軍と戦っても勝てるわけありませんよ」



と、自分達が奴隷にされそうだというのに、俺の身を案じてくれている。

なんていい人達なんだ。こんないい人達を自治区に押し込めたと思ったら、今度は奴隷にするだと?あー。もうこれは許せる範囲を超えたな。今回は手加減無しでやっちゃおうかな?……まぁ、俺は手加減できないんだけど。



と、ダポン共和国軍と戦う覚悟を決めた俺は、ウィルとラミィにも許可を取るべく2人の方を振り向いた。

すると、2人は俺の気持ちなどお見通しとばかりに先に口を開いた。



「どうせアンタのことだから戦うんでしょ?私はいいわよ。おいしい料理を今後も食べる為なら、何万人だろうと黒焦げにしてやるわ!」


「お優しいジャッジ様なら、ジャッド族とンダ族の為に立ち上がることは当然です。もちろん私もラミィ殿同様、この剣を仲間の為に振るうことになんの迷いもございません。我らに牙を剥いたことを後悔させてやりましょう」



と、やる気満々だ。実に頼もしい。



2人の発言や俺の満足気な態度を見て、イーサンとタゴサックは困惑しているようだ。それもそうだろう。今から俺達が相手にしようとしているのは、ダポン共和国の正規の軍隊なのだ。正気じゃないと思われても仕方ない。


そんな困惑する2人を安心させるように俺は声をかけた。



「大丈夫だ。ウィルは以前6000人を1人で殲滅したことがあるし、俺とラミィは魔法が使える。不安なら後で見せてもいいぞ。とにかく、敵が1万だろうが2万だろうが時間を稼ぐだけなら問題ないはずだ」


「は、はぁ……」



と、俺の言葉がいまいち信じられないのか生返事をする2人。これは魔法を1、2発見せた方が早そうだ。そしたら少しは安心してもらえるはずだ。



そう考えた俺はジャッド族の若者を含む全員をイーサン宅の外に誘い、村から見える山の一面を火魔法で丸焼きにした後、水魔法で消化した。少し手加減を間違えてしまい、水魔法で山の中腹に大きな穴が空いてしまったが、まぁこのくらいは誤差だと思って勘弁してほしい。



俺の魔法によって緑から真っ黒に姿を変えた山肌を見て、ウィルとラミィ以外の全員は口をあんぐり開けて固まっている。



「どうだ?これで少しは安心できたか?」



俺がそう尋ねると、イーサンとタゴサックはビクッとして俺の方を振り向いた。



「……こ、これならダポン共和国軍など相手になりますまい」


「山の木が一瞬であんなに…。わ、我らの王とは…」



と、言葉にならないほど驚いてくれたようだ。

よかったよかった。

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