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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ようやく目的地に到着した俺は、馬車から降り座りっぱなしで固まった体を大きく伸びをしてほぐす。俺の後から降りてきたラミィも、全く同じポーズをしている。


それを見て、似た者同士だなと苦笑しながら、俺はエマに声をかけた。



「エマ。ここで間違いないんだよな?」


「はい。間違いありません。この村の門を見るのも随分久しぶりです」



エマは俺達の前にある、簡単な作りの木製の門を、懐かしそうに眺めながらそう返事する。


門と言えるかは微妙なところだが、エマたち村人にとっては故郷の目印みたいなものなのだろう。



「この村の1番奥にある、少しだけ立派な家が私の家です。ご案内します」



そう言うと、エマは俺達の前を歩きだした。


やはり、故郷に帰ってきて気が逸っているのだろう。少し早足で歩くエマの背中を見ながら、俺達もそれに続いた。


ハヤト村と言うらしいこの村は、粗末な木や土で作られた家が並んでいる。ざっと見た感じ20軒位だろうか?

そして、村の中央には踏み固められた広場があり、今も上半身裸の若者が組み合っている。おそらくジャッド族に伝わる競技なのだろう。



そんな風に村を見物しながら歩いていると、小さな女の子がエマの姿を見つけて駆け寄ってきた。



「エマお姉ちゃん!帰ってきてたの?」


「エイミー!元気だった?」



どうやら知り合いらしく、再会を喜びあっているようだ。よく見ると顔立ちが似ている。姉妹かな?


しばらく笑顔で抱き合っていた二人だったが、エマが何か耳打ちすると、エイミーと共に俺の方に歩いてきた。



「お兄ちゃんがエマお姉ちゃんの旦那様になるの?」


「こ、こら!失礼しました…。ジャッジ様。この子はエイミーと言って、私の妹です」


「そ、そうか。お姉ちゃんの旦那様になるかは分からないけど、よろしくなエイミー」



エマから聞いたことをすぐ確かめたかったのだろう。子供らしいストレートな質問に、俺はそう答えてエイミーに笑いかけた。


俺の後ろにいるラミィから何かオーラを感じるが、決して振り向かないぞ、俺は。




エイミーにお菓子をあげると、大喜びで家に走って行った。族長である父親にもあげるのだと言う。

なんていい子なんだ!エイミーならお義兄ちゃんになってもいいかもしれない。




俺達がエマの家の前に立つと、待ち構えていたように中から綺麗な女性が出てきた。おそらくエマとエイミーの母親だろう。

エマのような、大きな年の子供がいるとは思えない若々しさだ。顔もエマに似ており、かなりの美人だ。



「ようこそいらっしゃいました。私はエマの母親のオリビアといいます。エマ、おかえり」



そう話すオリビア。おそらくエイミーから誰か一緒に帰ってきたと聞いたのだろう。



「ただいま、ママ。今日はママもビックリするお客様を連れて帰ってきたのよ!まずはパパに挨拶してくるわね」


「はいはい。あの人なら奥の部屋にいるはずよ。何もお構い出来ませんけど、お客様もゆっくりしていってくださいね」



母親の前で年相応の娘に戻った口調のエマが、うれしそうにそう話す。


俺達はオリビアに挨拶すると、エマの案内で家の中に入った。族長の家だけあって、村の中で見てきた家とは造りが違う。家自体の大きさもだが、部屋数も2倍はありそうだ。


どうやら室内では靴を脱ぐらしく、エマの真似をして玄関で素足になった。綺麗に磨き上げられた木製の廊下は、素足にひんやりとして気持ちよかった。



「パパ!ただいま!」



そう言いながら、族長である父親がいるという部屋の横開きの戸を開ける。



「おかえり、エマ。しかし、お客人の前では父上と呼ぶように教えたはずだがな…。まぁ良い。元気そうでなによりだ」



部屋の中央で胡座をかいて座る男性がそう返事した。その膝には、先ほどもらったお菓子を手に持ったエイミーが、ニコニコと笑顔で座っている。



「ようこそおいでくださいました。お客人。私はイーサン。ジャッド族の族長を務めております。エマがお世話になったそうで、ありがとうごさいます」


「ご丁寧にありがとうございます。私はジャッジと言います。そして右の男がウィル、反対の女性はラミィと言います。突然訪問してしまい申し訳ありません」



と、挨拶を交わしながらエマの父親であり、ジャッド族の族長でもあるイーサンを観察する。

まず目に入ってくるのは、その筋骨隆々とした肉体だ。身長もウィルよりも高く、肩幅や胸囲は俺の2倍以上あるんじゃないだろうか?おそらくあの大きな手に掴まれたら、簡単に俺の頭など握りつぶされてしまうだろう。

さすが、武に秀でたジャッド族の族長といった所だ。


俺がイーサンを観察してそんな感想を抱いていると、エマが父親に向かいうれしそうに口を開いた。



「パパ!この方達は私達を助けるために、わざわざこんな遠いところまで足を運んでくださったのよ」


「……私達を?どういうことだ?」



エマの言葉にイーサンは不思議そうな顔をしている。


自分の説明が足りなかった事に気づいたエマは、再び話し出した。



「こちらにいるジャッジ様はなんと、ハートランド王国の国王なのよ!私達ジャッド族とンダ族の苦しい現状を憂いて、助けてくださるおつもりなの!」



それを聞いたイーサンは、その大きな体を大きく震わせると、素早い動作で膝に乗っていたエイミーを下ろし、俺に向かい正座をすると深々と平伏した。



「な、なんと!!国王様とは知らず、ご無礼を致しました。どうか、平にご容赦を」


「ぞ、族長。そんなに気を遣わないでください。王と言っても本当に小さな国ですから。ほら、正座もいいですからもっと気楽に話してください」


「いや!そう言うわけにはいきません。それと私のことはイーサンとお呼びください」



と、取り付く島もない。仕方がないのでなんとか正座だけは止めさせて、お互い胡座をかいた状態で話をすることになった。

お茶を持ってきてくれたオリビアも似たような反応をしたが、こちらもなんとか落ち着かせ、イーサンの隣で話を聞くことになった。

エイミーはと言うと、イーサンが止めるのにも構わず俺の膝に座っている。小さくてすごく可愛い。ラミィもさすがにこれくらい小さい子には目くじらは立てないようだ。



「それで、私達を助けてくださるとはどういうことなのでしょう?」



そう訪ねるイーサンは、俺の膝に座ったエイミーが気になるのかチラチラ見ている。

そんな気にしなくても、このくらいで俺は怒ったりしないけどな。



「これはあくまで俺の勝手な考えですので、それを十分理解した上で話を聞いてもらえると助かります。実は………」



と、俺はジャッド族とンダ族の今後についての考えをイーサンに話した。もちろん、ダポン共和国と対立するかもしれないことも忘れずに。




途中でイーサンやオリビアの質問に答えたり、エイミーに追加のお菓子を与えたりしていると、結構時間が経っていたようだ。

俺の話が終わったとき、もうすぐ夕方という時間だった。



「私達ジャッド族は、ジャッジ様に忠誠を誓いハートランド王国に移住しようと思います。明日にでも残りのジャッド族の住む村に遣いをたてますので、正式なお返事は数日お待ちください」



と、イーサンは平伏しながら決意を述べてくれた。

その表情は、族長としてジャッド族の未来を考える責任感の強い男のものだ。俺も今後イーサンやオリビア含め、ジャッド族を預かる者として、きちんとした返事をするべきだろう。



「わかった。ただ今、この時をもって族長イーサン率いるジャッド族は、ハートランド国民となった。今後ジャッド族に対して危害を加えようとする者がいれば、我がハートランド王国はそれを許さない。国を挙げて共に戦うと約束しよう。共に皆が幸せに暮らせる国を作ろう。これから頼りにしているぞ。イーサン」


「はっ!身を粉にして陛下や国のために尽くします。本当にありがとうございます!」



俺の言葉にイーサンは涙を流しながら、そう誓ってくれた。隣のオリビアやエマも涙を流している。


今まで相当辛かったのだろう。ジャッド族を預かるイーサンとして苦悩は絶えなかったはずだ。

ジャッド族にこんな思いをさせるダポン共和国は許せない。もし戦う事になれば、痛い目にあわせてやろう。




そんな感動的な場面の横では、エイミーがラミィからお菓子をまた貰っていた。どうやらラミィの好物のクッキーを気に入ったようだ。2人仲良くクッキーをボロボロこぼしながら食べている。

あーあ。後でオリビアに怒られなきゃいいけど…。

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