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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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59

盗賊の足元に舞い上がる落ち葉は、1枚から2枚、3枚と徐々に数を増やしていき、地面の乾いた土も一緒に巻き上げ始めた。



「う、うわぁ!!な、なんだ!?」



突然自分を襲う風に、先頭の盗賊は驚いて立ち止まってしまう。そこに次々と残りの盗賊達も追いつき、ひとかたまりになって盗賊達は集まってしまった。



その間に俺の起こした風は、落ち葉や土を巻き込みながらはっきりと竜巻の形を作っていく。

そして俺が込める魔力を少しだけ増やした途端、


ブワァッ!!


という音とともに、一気にその大きさを増した。

当然その場にいた盗賊達はその竜巻に巻き込まれる。



「うわぁーー!!」


「た、たすけ……」



という声を残して盗賊5人は、仲良く上空で竜巻に沿ってぐるぐる回っている。その高さは10メートルは越えているだろう。


……しかし、大分手加減したつもりだったがやっぱりこのサイズになってしまったか。俺の魔力のコントロールはまだまだだな。



そう反省した俺は、呆然と竜巻を見上げているエマを振り返り再び声をかけた。



「どうだ?これが魔法ってやつだ」



俺の声にハッと我に返り、こっちを見るエマ。

その表情には初めは畏れや憧れといったものを読み取ることができた。しかし、そのうちにエマの頬は赤く染まっていき、目をキラキラさせながら口を開く。



「……す、すごいです!ジャッジ様!」



と、大人びた容姿のエマには似合わず、ピョンピョン跳び跳ねて興奮しているようだ。年齢を考えたら年相応の振る舞いなのかもしれないが。


こういう仕草をしても美人のエマなら様になるな。ラミィはラミィでかわいいだろうし。

……しかし、エマの目がハートになっているように見えたが、見間違いかな?




さて、そろそろ盗賊達も下ろしてやらないといけない。


そう思った俺は、竜巻に注いでいた魔力を止めた。

すると、突然消えた竜巻のせいで空中に投げ出される格好になった盗賊達は、約10メートルの高さから地面に叩きつけられた。


ドサッ!ドササッ!


という、鈍い音が5人分聞こえたあと、


「……う、うぅぅ」「……いてぇ」


という呻き声もいくつか聞こえた。


俺はその声を上げた意識のある盗賊の元へ歩み寄る。

あの高さから落ちたのだ、おそらく何ヵ所か骨折くらいはしているだろう。もしかしたら死んだ者もいるかもしれない。



「おい!生きていたならよかったな。さっさと仲間を治療してやったほうがいいぞ。俺達はもう行くからな。後は自業自得だと思って、自分達でなんとかしろ」



そう盗賊に声をかけ、その後御者には出発する旨を伝えた。


俺がラミィ達と馬車に乗り込もうとしている時、後ろから、


「た、助けてくれ」


という声が聞こえたが、すぐにウィルの、


「甘えるな!お前らが仕掛けてきたことだろうが!」


という怒鳴り声が聞こえ、それ以降は諦めたのかおとなしくなったようだ。



再び目的地に向かって走り出した馬車の中で、俺はラミィに話しかける。



「ラミィ。やっぱり魔力のコントロールはなかなか上達しないもんだな」



ラミィはそんな俺の言葉を聞いて、少し考えてから口を開いた。



「……そうね。やっぱりアンタのバカみたいに多い魔力量じゃ難しいのかもね。でも、最初の方はすごく微量に魔力を放出できてたわよ。少しは上達したってことじゃない?」


「やっぱりそうか?俺も初めは上手くいった気がしてたんだ!」



ラミィの言う通り、初めは上手くいっていた。その後込めた魔力が多すぎたみたいだな。まぁ、今のところはそれだけでも出来るようになったと思えばいいだろう。ラミィも誉めてくれたし。



俺がラミィの答えに満足していると、向かいのエマがモジモジしている姿が目に入った。

なんだ?もしかしておしっこかな?と、思った俺はエマに話しかける。



「どうした?エマ。どうかあるのか?」


「……い、いえ。なんでもありません。お、お気になさらないでください」



と、潤んだ目で俺をみながら返事するエマ。やはり、何かおかしい。さっきの魔法を見て具合でも悪くしてしまったのだろうか?



「そうか?具合が悪かったらすぐに言ってくれ。どこか近い街に急いでもらうからな」



自分を気遣う俺の言葉に「…はい」と、小さな声で頷くエマだったが、躊躇いながらも俺に問いかけてきた。



「じ、ジャッジ様。それでは1つだけお願いを聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」


「ん?やっぱり具合が悪いのか?いいぞ、いいぞ。遠慮なんかするな。ひとまず馬車を止めるか?」



俺がそう答えて、どこか近くに街か村か見えないものかと、窓に目をやった時、



「じ、ジャッジ様のお子を私に産ませてください!」



という、エマの声が聞こえた。


驚いてエマの方を振り返ると、エマは真っ赤な顔だが真剣な眼差しで俺を見つめていた。


おそらくこれは冗談ではないだろう。それはエマの表情を見れば分かる。しかし、なんで突然?



エマの発言の後、馬車の中はしばらく時が止まったように静まり返っていたが、ラミィの大声によって再び時が動き出した。



「……な、なに言ってんのよ!!いきなりこんなとこで…。ば、バカなの!?バカ!アホ!この女狐!」



と大騒ぎし始めたラミィ。その顔はエマ同様真っ赤だ。


俺はとりあえずラミィの肩を抱き落ち着かせる。なんとか席に座ってはいるが、ラミィの鼻息は依然として荒い。


そのままの姿勢でラミィが落ち着くまで待っていると、自身も驚きながらも、事の成り行きを見守っていたウィルが、エマに向かって口を開いた。



「エマ殿。もしかしてさっきのジャッジ様の魔法を見て、決意されたのでは?……そ、そのお子を産むということを」



それを聞いたエマは大きく頷きながら答えた。エマの頬はまだうっすらと桜色に染まっているが、落ち着きは取り戻したようだ。



「お恥ずかしいですがその通りです。先日申し上げたように、私達ジャッド族は強い男性に惹かれます。今までは力の強さに惹かれるものだと思っていましたが…。先ほどのジャッジ様の魔法を見て、その考えが間違っていたことがはっきりと分かりました」


「……やはりそうでしたか」



エマの答えにウィルは納得したようだ。

しかし、今度は俺の方を見てエマは話し続ける。



「ジャッジ様の手から放たれる魔法を見た途端、私の中で確信めいたものが閃きました。あぁ、私はこの方のお子を産むために生まれてきたんだと…。こんなことは今まで生きてきて初めてです。ジャッジ様!第2夫人でも、愛人でも構いません!どうか、私にお情けをください!」



こんなに情熱的に子供をくれなんて言われる男性はなかなかいないだろう。俺は果報者だ。それにエマの気持ちも正直うれしい。

……うれしいが…。今じゃない!今はまずい!

ほら!またラミィの鼻息が荒くなってきた!また馬車が火の海になってしまうって!



自分の気持ちを伝えていくぶん落ち着いたのだろう。エマは、


「どうか、お考えください」


と言って席に座り直した。



大変なのは俺とラミィの座っている席の方だ。

少しでも力を緩めると、エマに飛びかかって行くかヘルファイアを放とうとするラミィを、俺は抑えなければならない。


初めは肩を抱く程度でなんとかなっていたのだが、今では正面からしっかり抱き締める格好になっている。それでもラミィはなんとか脱出しようと暴れている。


……くっ。仕方ない。こんな場面で言うのはずるい気もするが、このままではエマか馬車どちらかが丸焦げにされてしまう。いや、俺達も含めてどっちもかもしれない。


そう決意して、俺はラミィの耳元に口を当て、ラミィ以外には決して聞こえないように囁いた。



「落ち着け、ラミィ。エマの言うことは気にするな。俺がこれからもずっと一緒にいたいのは。……ラミィだから」



俺の言葉を聞いた途端、ラミィがピタッと動きを止めた。そして、暴れていた体から急に力が抜け、席にもたれかかるように座り込んだ。


その表情は口は半開きで目は虚ろであり、時折、


「…フ、フヒヒ」


と、気味の悪い笑い声を漏らしている。



……ま、まぁ。とにかく落ち着いてくれたならよかった。

俺の言ったことは本心で決して嘘じゃないからな。これからもラミィとは一緒にいたいと思ってる。魔法の訓練もしないといけないしな。

…それに、エマと一緒にいないとも言ってないしな。子供を産んでもらうことも否定はしていない。今はまだ分からないが、将来的にどうなるかは誰も分からないことだからな。



ずるいとは思うが、これが大人の対応なのだよ。天才美人魔女よ。フッフッフ。



などと、俺の黒い部分が心の中で幅をきかせている間にも、馬車は順調に旅路を走り続けていた。

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