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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺達が厨房の扉を開けると、中ではフラーが6人ほどの若い女性に向かって身振りを交え何か話していた。



「フラー。ちょっとその娘達と話をさせてもらってもいいか?」



そう言うケイレブ伯爵と一緒に、俺達もフラー達に近づいた。

フラーは突然の俺達の来訪に驚いた様子だったが、若い女性達の前を譲ってくれた。



「いきなり来られてどうされたのですか?ジャッジ様もご一緒に」


「あぁ。昨日の話の続きでな。当事者でもあるその娘達からも話を聞いてみようということになってな」


「そういうことですか。分かりました。どうぞご自由になさってください」



俺はフラーから譲ってもらった若い女性達の前に立って、6人の姿を眺める。

見た目は俺達とさほど変わりない。髪の色がみんな黒ということぐらいか。いや、長袖のワンピースのせいで地肌が見える部分はほとんど無いが、袖口から覗く手首や、首、顔もやや浅黒い。これがジャッド族、ンダ族の特徴なのだろうか?



俺はそんなことを思いながら、6人の若い女性達を眺めていたが、ジロジロ見られている女性達がやや怯えている様子に気付いた。



「あ、あぁ。すまない。ジロジロ眺めてしまって気を悪くしちゃったかな?俺はジャッジという。実は君達がダポン共和国を追われた件について話を聞かせてもらいたいんだ。いいかな?」



俺がそう言うと女性達は顔を見合わせて戸惑っている。そりゃそうだろう。いきなり見たこともない男に話を聞かせてくれと言われてもな。


そう思った俺はケイレブ伯爵に「助けて」と、目線で合図する。ケイレブ伯爵も意図を理解したようで、軽く頷くと女性達に向かって口を開いた。



「お前達、ジャッジ様にお前達の事を話して差し上げなさい。この方は隣国のハートランド王国の国王でいらっしゃる。しかも、ジャッド族やンダ族の事に心を痛めて、何かできることはないかとわざわざここまで足を運んで下さったのだ。きっとお前達の仲間の為にもなるはずだ」


「こ、国王様!?」


「わ、私達の為にわざわざ!?」


「うそっ!?」


「か、かっこいい…」



ケイレブ伯爵の言葉を聞いた女性達は、ビックリしている様子だ。まぁいきなり国王が自分達の為に来たと言われたらこうなるだろう。

……1人ちょっと違う反応をしている娘もいるが。横からラミィの視線が痛い。



「そういうことだから、話を聞かせてもらいたいんだ。全員でもいいし、詳しい者がいれば代表してちょっと俺達と一緒に来てもらえないかな?」



俺がそう話すとしばらく女性達で話し合っていたようだったが、1人の女性が一歩前に出て口を開いた。



「わ、私が代表して行きます。名はエマと言います。私の父はジャッド族の族長を務めているので、少しはお力になれると思います」



と、名乗り出てくれた。さっき一人だけ反応の違った女性だ。6人の中でも一番大人っぽく、顔も整った美人だ。スタイルも抜群と言っていいだろう。

エマが前に出た途端、ラミィはエマのことを睨み付けている。怖ぇ。





残った5人はフラーとともに厨房に残るとの事で、俺達はエマを連れて応接室に戻った。

ソファーに座ることを躊躇っていたエマだったが、ケイレブ伯爵が勧めて腰を下ろした。



「それで、今ダポン共和国内で何が起きているんだ?俺は申し訳ないがジャッド族とンダ族のこともほとんど何も知らないんだ。エマが経験したことでも、聞いたことでもいい。教えてくれないか?」



俺がエマに向かってしう話すと、エマは1つ深呼吸したあとゆっくりと語り出した。




「私達ジャッド族は、元々は東の大陸から住む場所を追われ、ダポン共和国に辿り着いたと言い伝えられています。もう何百年昔の話か分かりませんが、当時のダポン共和国が受け入れてくれて、今の場所に自治区まで設けてくれたそうです。ンダ族も同じ様に、別の土地を追われてダポン共和国に辿り着いたと聞いたことがあります。それからはダポン共和国の南端の自治区で、共に暮らしてきました」



土地を追われたジャッド族とンダ族を受け入れて、自治区まで用意したのか。当時のダポン共和国は寛容だったんだな。しかし、それが今になってなぜ?



「自治区を出て、ダポン共和国内に移り住む人達も多くいました。ダポン国民も受け入れてくれて上手くやっていけてたんです。……ゲールが議長になるまでは」



そう言うとエマは下を向いて涙を堪えているようだ。きっと辛い出来事も多くあったのだろう。こんな若い女性を泣かせるなんてゲール議長はひどいやつだ。



「大丈夫か?無理に話さなくてもいいぞ。また、落ち着いてから後日でもいいしな」


「……あ、ありがとうございます。ジャッジ様は国王様なのに、私のような者にもお優しいんですね」



声をかけた俺を、そう言いながら上目遣いで見てくるエマ。しかも涙目で。

思わずドキッとしてしまった。

エマはそのまま俺を見つめながら話を続けるようだ。



「……ゲールは、ダポン共和国は自分達リゴート族だけの国だ、ということを主張して選挙に受かりました。さらには議長にも選出され、他の議員も今ではリゴート族だけです。そしてその権力で様々な法を作り、私達への弾圧を強めているんです」



俺を潤んだ瞳で見つめながら話を続けるエマ。

そして、俺の太ももをつねりながら話を聞くラミィ。

それに気付いているのに、知らない振りをしているウィル。

い、痛い。




「現在は全てのジャッド族、ンダ族は自治区内で暮らすように決められています。ですが、ダポン共和国からの物資が制限されている為、食べていくのも難しいんです。そこで、私達女子供は難民として受け入れてくれそうな国に向けて送り出されました。なかなか受け入れ先がなかったのですが、ケイレブ伯爵が受け入れて下さったおかげで、多くのジャッド族、ンダ族がセカーニュの街に逃げ込んできています。……ジャッジ様!どうか私達を助けてください!このままでは自治区に残った人達は飢え死にしてしまいます。どうかお願いします!」



と、話が終わったエマは、潤んだ瞳で俺の両手を握りしめ懇願してきた。こんな美人にここまで頼まれて断れる男が世の中にいるだろうか?

俺には無理だ。



「話は分かった。俺もどうにかしたいと思っていたんだ。エマ達の為になにができるか考えてみよう」



俺はそう言うと3人の方を向く。ウィルとケイレブ伯爵は俺の言葉に頷いている。ラミィは笑顔で頷きながら、より強い力で俺の太ももをつねっている。


このままではラミィがヘルファイアで館を火の海にしてしまう!と感じた俺はエマをフラーの元に帰した。

その際、もしダポン共和国に行くことになった時には協力してほしいと頼むと、


「ジャッジ様のお供なら喜んで致します!」


と、満面の笑みで言われた。正直かわいかった。






エマが部屋を去った後、俺達は再度話し合い、ダポン共和国の南部にある自治区を訪れることを決めた。


俺達がジャッド族とンダ族に肩入れすることにより、ダポン共和国の不興をかってしまうのはもう避けようがないだろう。しかし、エマの話が真実ならダポン共和国のしていることは許せない。

もちろんジャッド族とンダ族の意向が最優先だが、いざというときは一戦交えるつもりだ。こっちにはウィルもラミィもいる。ケイレブ伯爵もその時は手を貸してくれると約束してくれた。


勝手に伯爵が他国と争ってもいいのか?と思ったが、ケイレブ伯爵は何か考えがあるそうだ。

まさか、ハートランド王国に亡命するから大丈夫、とか考えてないよな?

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[一言] 伯爵が亡命って領地があるのにどうするつもり?
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