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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「ジャッジ様!?あ、アンタとはどういうことですか!?」



と、すごい形相でフラーが俺に詰め寄ってきた。

ラミィは俺の隣で小さくなっている。きっとフラーの前でボロを出さないようにおとなしくしているつもりだったんだろう。ラミィにしては頑張った方だと思う。



「そ、それはだな…。ラミィからの信頼の証というか、し、親しみを込めてだな…」



と、俺はしどろもどろにフラーに言い訳する。

フラーは昔から行儀作法にはうるさかったから、ラミィの「アンタ」呼びは許せなかったんだろう。

フラーは俺の言い訳を聞きながらラミィを睨み付けていたが、そのうちハッというような顔をしたあと、口を開いた。



「……なるほど。そういうことですか…。ジャッジ様も初めに仰って下さればよかったのに。まさかもう王妃様をお決めになっているとは思いませんでした」



と、言うとラミィの方を向き直り、



「……ラミィ様と仰いましたね?私はジャッジ様の乳母を務めさせて頂いていたフラーと申します。先ほどは失礼な口を聞いてしまい、申し訳ありませんでした。

……しかし、一国の王妃ともなればその一挙一動は国民の模範とならねばなりません。ジャッジ様とのお互いの呼び方にまで目くじらを立てるつもりはありませんが、お二人以外の方がおられる場では国王でもあり、夫になるジャッジ様をお立てになった方がよろしいでしょう」



と、昔俺に対して説教をしている時のような感じで、早口で一気に話した。


この言い方で説教されると、俺は何も言い返すことができない。小さい頃もただしゅんとなって「はい」と言うだけだった。


……しかし、フラーは見事に勘違いしているな。ラミィとはそういう関係じゃない。大事な仲間で、ハートランド王国の貴重な国民だ。


……そうだよな?いや、手は握った事はある。そういや抱き締めた事もあったな。頬に口づけもした。でも、それ以上はなにもしていない。だからそういう関係とは言えないはずだ。

……今のところは。




「ま、まぁまぁ。フラーも落ち着きなさい」



と、ケイレブ伯爵がヒートアップするフラーを宥めてくれた。

フラーはケイレブ伯爵の制止の声に我にかえったようで、


「も、申し訳ありません。伯爵、ジャッジ様」


と謝罪の言葉を口にした。

説教されたラミィはというと、真っ赤な顔で宙を見つめながら、


「……お、夫…。王妃……。ふ、フヒヒ……」


と、夢の国に旅立ってしまったようだ。

しはらくの間コイツの事は放っておいた方が良さそうだ。






「さっきのお話なのですが……」



と、俺は話を戻そうとケイレブ伯爵に話しかける。

話が思わぬ方向に脱線してしまった。えーっと、なんだったっけ?確か、ダポン共和国と対立するかもって話だったな。



「えっ?あっ、そ、そうです。ウィル殿の仰る通りダポン共和国と対立することは得策ではないでしょう」



俺の質問に不意を突かれたみたいだが、ケイレブ伯爵も言うように、俺の思い付きはあまり良い考えではないみたいだ。



「……ただ。私個人としてはジャッジ様のお考えには賛成です。数が少ないからといって蔑ろにされていいわけはありません。彼らも安心して暮らせる土地があれば、迷いなく移住を決めるでしょう」



付け足すようにそう話すケイレブ伯爵。

おそらく今の言葉は伯爵としてではなく、ケイレブ個人の意見だろう。なかなか俺と話の合いそうな人だ。




その後、しばらく談笑した後、俺達は用意された部屋に案内された。どうやら今夜は泊まっていっていいようだ。突然訪問したのにすぐに部屋を用意できるあたりは、さすが伯爵といった感じだ。


結局フラーは新人の使用人の教育が終わるまでは、ケイレブ伯爵の元で働くことを決めた。責任感の強いフラーならそうすると俺も思っていた。



俺は夕食や風呂を頂き、用意された部屋でウィルと寛いでいた。

当然ラミィは別の部屋だ。食事の時もボロボロ食べ物をこぼしながら、まだ目の焦点があっていない様子だった。まぁ、明日になれば元に戻るだろう。いつもの事だ。



「…なぁ、ウィル。さっきの話なんだが、やっぱり俺は放っておく気にはなれないんだ。どうしてもジャッド族やンダ族のことが他人事には思えなくて。なんとかできないかな?」



話しかけられたウィルは、剣の手入れをしていた手を止め笑顔で俺の方に向き直る。



「ジャッジ様ならそう仰ると思っていました。いや、むしろそれでこそハートランド国王ジャッジ様と言うべきでしょうか」


「そうか?そう言ってくれると助かるよ」



あの場では厳しい事を言われたが、ウィルも協力してくれそうだ。よかった。やっぱり俺のことを一番分かってくれているのはウィルだな。まさに相棒って感じだ。



「それで?具体的にはどうしたらいいかな?できれば俺はダポン共和国とは険悪な関係になりたくないんだ」



俺がそう尋ねると、ウィルは難しい顔をしている。

やはりこの問題は穏やかに解決するのは難しいのだろうか。



「……正直難しいと思います。残念ながら私には解決策は思い付きません。政治的な問題が絡んでいるので、こういう事はむしろケイレブ伯爵の方が詳しいでしょう。ダポン共和国と一戦交えるというのなら、お役にたてるとは思うのですが…」


「そうだな。明日にでもケイレブ伯爵にもう一度相談してみよう。……それと、国同士の戦争なんてする気はないからな。安心してくれ」



俺は、たった3人で国と戦争することに躊躇いのない天下無双の剣士にそう話した。

明日ケイレブ伯爵に相談してみれば、なんか良い知恵が浮かぶかもしれない。場合によっては、ダポン共和国に直接行った方がいいかもしれないな。ジャッド族とンダ族の意向も聞いておきたい。


………ん?そういえばこの街には難民が多数流れ込んできているって伯爵が話してたな。その人達に話を聞いてみてもいいかもしれない。



「ウィル。この街に逃げ込んできているジャッド族とンダ族から話を聞くってのはどうかな?やっぱり当事者の意見って大事だと思うんだが」



俺がそう提案すると、ウィルもなるほどと賛成してくれ、そのこともケイレブ伯爵に頼んでみることになった。







翌日、ケイレブ伯爵も当事者達に話を聞くことに賛成してくれ、新人達が館でフラーの教育を受けている場所にみんなで足を運ぶことになった。



「しかし、ジャッジ様はなぜそこまでジャッド族やンダ族に肩入れなさるのですか?いや、もちろん私が反対というわけではなく。世間一般の国王と言えば自国のこと、いや、自分や家族のことしか考えていない方ばかりですので。……我が国の陛下のように」



と、ケイレブ伯爵は「我が国の陛下」の所で、眉をひそめながら聞いてきた。

きっとケイレブ伯爵はアルフレッド王に思うところがあるのだろう。仕える主君を選べないというのも辛そうだ。

俺はそんな思いをウィルにさせていないだろうか?



「あぁ、それはですね。我がハートランド王国もそうですけど、私達3人も社会的に少数派だから他人事だとは思えないんですよ」



と、俺が話すと、ケイレブ伯爵が詳しく理由を聞きたがった為、目的地である館の厨房に到着するまで、俺はハートランド王国再興の物語を簡単に語った。

短い時間だった為あまり詳しくは話せなかったが、特に戴冠式での俺の決意表明の所などは、恥ずかしがる俺に替わりウィルが話してくれて、ケイレブ伯爵もいたく感動してくれていた様子だった。


もうすぐ厨房に着くという頃には、


「是非!私もハートランド王国の末席に加えてください!こんな国などに未練はありません!」


などと言い出し、


「伯爵!落ち着いてください!貴方がいなくなったらこの街は誰が治めていくんですか」


「くっ!し、しかし…」


と、なだめるのに苦労した。


結局俺やハートランド王国に出来る限り協力したい、との申し出を受けることで落ち着いた。

この申し出は正直助かった。今後も相談相手として重宝させてもらおう。

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