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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺達がアルフレッド王を脅迫してから3ヶ月の時が経ち、ここハートランド王国にも春が訪れようとしていた。



「ふぁぁ~。ぽかぽかして眠いわね」


「そうだなぁ。あっ!引いてるぞ、ラミィ」



俺とラミィは恒例の食料調達の為、いつもの滝壺に魚釣りに来ていた。

俺達の座る岩の上はちょうど陽の光が当たり、ぽかぽかしてとても気持ち良い。ウキをじっと見つめているとどうしても眠気が襲ってきてしまう。


そんな俺達だが今日も釣果は良好で、俺の持つビクの中は魚で一杯だ。



「よし。そろそろ帰るか。ウィルも狩りから帰ってきてる頃じゃないか?」



ラミィが一匹釣り上げたのをきっかけに、俺達は館へ帰ることにして、2人ならんで山道を歩き始める。



俺達が少しずつ進めていた街の瓦礫の撤去作業は、ついこの間完了した。今では館から見下ろせる土地全てが更地になっている。

残念ながら移り住んでくる住民はまだいないため、建物はなにも建っていない。国民も俺を含めて3人のままだ。最近ではこのまま3人で暮らしていくのも悪くないと思い始めている自分もいる。



館に戻ったら、今夜は毎週恒例の全国民会議が行われる予定になっている。

この会議はその名の通り全国民が出席し、今後の国の在り方について話し合うという、とても有意義な会議だ。

……ちなみに前回の議題は、露天風呂に入りたいから造ろうというラミィからの提案があり、喧々諤々の話し合いの末、満場一致で建設が可決された。


ハートランド王国はとても平和な国だ。



あの作戦の後、俺達の素性は世の中に出回ったはずだが、懸念していたようなことは何も起こらず、今までと変わり無い生活を送れている。


週に1度のファイスの街への買い物も、現在は変装もせず堂々と行っている。さすがに作戦後に初めて訪れた際には緊張したが、市場でも、ラミィお気に入りの菓子店でも嫌な思いをすることはなかった。


それどころか、俺に対しては王族にするような対応をするし、ウィルは街の英雄扱いだ。ラミィに至っては、小さい子供から水で何か作って欲しいと頼まれていた。


俺達の予想していた状況とあまりにかけ離れていたため困惑していが、偶然見回り中のロック兵長に会い、疑問は解決した。


ロック兵長は俺達を見かけるとダッシュで近寄ってきて、腰を深く折って感謝の言葉を口にした。



「ジャッジ様!ウィル殿!ラミィ殿!先日は本当にありがとうございました!おかげで私も、私の部下も全員無事に家族の元に帰ることができました。これも全てジャッジ様方のお力のおかげです」



その勢いに押されながらも、土下座せんばかりに感謝の言葉を話し続けるロック兵長を落ち着かせ、その後の事や、俺達に対する街の住民の態度の原因を尋ねた。



「あぁ。そのことでしたらおそらく私達帰ってきた兵士や、徴兵されていた男達が原因でしょう」



と、教えてくれた。


つまり、今回無事に帰ってこれたのは俺達がアルフレッド王に対して、戦争を止めろとその力を持って説得したからであり、そのおかげで今後も侵攻の為の戦争は無くなった。

しかも、その立役者となったのは魔法使いのハートランド国王と、この街の英雄でもある剣聖ウィル。更に伝説の存在である魔女だという。これは街を上げてもてなさねばならない!と、この街の住民はなったという訳だ。



そういうわけで俺達は予想とは違い、街を訪れるたびに熱烈歓迎を受けている。まぁ街を出ていけと言われると思っていたから、この結果は喜ばしいものなのだが…。

この街の住民は、思ったよりも魔女等の少数派に対しての苦手意識はないのかもしれない。






「ジャッジ様。そろそろフラー達を迎えに行ってもよろしいのではないですか?」



ウィルが俺にそう提案してきたのは、そんな風に平和に毎日を過ごしている時だった。


俺達は先日の全国民会議で決まった、露天風呂の建設に取りかかっていた。その作業の休憩時間だ。



「そうだなぁ。大分ここの生活も落ち着いてきたし、そろそろ声をかけてみてもいいかもな」



俺は地面に座ってコップを片手にウィルに答える。


確かに俺も王座に着いた訳だし、フラーとの約束を果たす時かもしれない。もし、声をかけて今の生活を選んだならそれはそれでいいじゃないか。国民も、元国民もみんなが幸せに暮らしていてくれれば俺は満足だ。

よし!声をかけるだけかけてみよう。



と、決意した俺はウィルにその旨を伝え、早速明日にでも出発することを決めた。

その話をラミィにしたら、付いていくとの事だったので結局いつもの3人旅になりそうだ。





翌日。マジックバッグに荷物を詰め込み俺達はハートランド王国を出発した。

ちなみにマジックバッグは、元々ラミィが持っていた物の他に、もう1つ作成してくれた物を俺も持っている。本当はウィルにも。と思っていたのだが、魔力が無いと使えない為諦めた。


このマジックバッグも魔力の総量に比例して容量が増減するらしく、俺の待つマジックバッグは正直底知らずだ。

ラミィが言うには、


「私でさえまだ一杯になったことないのよ?アンタだったらそのへんの山の1つや2つ入るんじゃない?」


との事だ。

そんなに入れても重さが変わらないなんて、魔法はまだまだ不思議が一杯だ。



さて、まずどこに行こうか?と巡る順序を考えていると、



「やはり最初はフラーに会いに行くのがよろしいのではないでしょうか?ジャッジ様の乳母であり、母親代わりに育てて頂いたのですから」



と、ウィルが提案してきた。

それもそうだなと思った俺も即答する。



「そうしようか。フラーもその方が喜んでくれそうだな。…となると、まずはセカーニュか」


「そうですね。ここからは結構離れていますが、魔車であればさほどかからないでしょう」



そうと決まればと、俺達は魔車に乗り込み出発した。

セカーニュの街はイーストエンド王国の北に位置する場所にあり、ここからの距離で言えばファイスまでと変わらないくらいだ。


フラーはセカーニュの街の領主の館で働いているはずだ。きっとフラーのことだから頼りにされているだろう。領主が手放したくないと言い、それをフラーが受け入れるならそのままセカーニュの街に居続けるかもしれない。

それならそれでいい。フラーにはフラーの人生がある。もう二度と会えないってわけじゃない。俺が顔を見せに行けばいいだけだしな。


なんてことを魔車に乗りながら考えていると、運転しているラミィが話しかけてきた。



「そのフラーって人はアンタの乳母だったの?」


「あぁ。そうだ。ラミィも知ってる通り、俺の母親は俺を産んですぐ亡くなったからな。フラーたち侍女が母親代わりをしてくれたんだ。その中でもフラーは中心的存在だったな」


「ふ、ふーん。てことはアンタの母親と思って接した方がいいのね。………し、姑ね」



俺の返事を聞いたラミィはなんかモゴモゴ独り言を喋っている。



「小さい頃は口うるさいと思っていたが、今考えるとあれがフラーの愛情だったんだろう。自分にも俺にも厳しい人だったな。国王である父上もよく怒られていたよ」



と、俺は笑いながらフラーとの思い出を語る。

その話を聞いたラミィは表情を強張らせて、


「……よ、嫁いびり」


などと呟いていた。



その後セカーニュの街に着くまでの3日間、ラミィがフラーについて話を聞きたがり、俺が答えるという事が繰り返された。


どうやらラミィも、フラーに会うことを楽しみにしてくれているみたいでよかった。

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