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「ハッハッハ。何を言っておるのだ。」
俺の言葉を聞きバカにしたように笑い出すアルフレッド王。周りにいる将軍や近衛兵は、突然妙な事を言い出した俺を興味深そうに見ている。
俺はそんな王達に向かって話を続ける。
「確かに、バカらしい話だろうな。俺も自分で言っておいてそうだと思う。だが、俺達は本気だ!本気でこの無駄な戦争を止めに来た!そして、俺達にはその力もある!」
そこまで話して俺がウィルとラミィの方を見ると、2人ともその通りと言う風に俺の言葉に頷いている。
「……ふん。何を言い出すかと思えば。お主達が何を言おうと余は遠征を中止するつもりはない!そもそもたった3人で何が出来ると言うのだ。………もうよい。」
と、話しは終わったとばかりに、アルフレッド王は側にいる将軍に声をかけた。
「おい。もうウィルはいらん。弱小国の王とそこの少女と一緒に始末しろ。いくらウィルが強かろうが、ここには2万の兵がいるのだ。出来るであろう?」
命じられた将軍は俺達の方をチラリと見て、眉をしかめながらも了解の意をアルフレッド王に示した。
話に聞くウィルの強さを思い出したのだろう。
アルフレッド王の言葉を聞いたウィルは、俺を守るように前に出て剣に手を掛ける。隣にいるラミィからも魔力の高まりが感じられた。短気なラミィの事だ。アルフレッド王の少女発言に怒っているのだろう。
まずい。このままではウィルとラミィが暴れだしてしまう。あまりイーストエンド軍に被害は出したくない。ファイスの街の人達の犠牲を減らす為にここに来たようなものなのに、これでは本末転倒だ。
そう考えた俺は急いでウィルの横に並ぶと、自分の手を、剣に掛けたウィルの手を抑えるように重ねる。
そして、将軍に俺達の始末を命じて自分は夜営地の方へ戻ろうと、後ろを向いているアルフレッド王に声を掛けた。
「アルフレッド王!貴方は私達3人で何が出来ると聞いた。今から俺達に何が出来るのか、それを見せてあげよう!それを見てからでも俺達を始末するのは遅くないのでは?」
俺の言葉を聞いたアルフレッド王はその歩みを止め、しばらく俺の言葉を吟味していた様子だったが、こちらを振り向き返答した。
「そこまで言うのなら見せてもらおうではないか。お前達の力というものを」
アルフレッド王の言葉を聞いた俺は、ウィルとラミィに向かい作戦実行を告げる。
「じゃあやろうか。俺もちょっと腹が立ってるから、手加減はできないかもな」
「私もです!」
「私もよ!……でも、アンタはちょっと手加減しなさい。この辺りの地形が変わっちゃうわよ」
と、2人とも準備はいいようだ。
よし、やるか!
「それではまずラミィの力を見せよう」
俺はアルフレッド王に向かいそう宣言し、更に言葉を続けた。
「貴方が少女と呼んだこのラミィは、その可憐な見た目からは考えられない強大な力を持っている。それは………魔法だ」
「魔法だと?そんなおとぎ話を誰が信じると言うのだ」
と、アルフレッド王は俺の言葉を全く信じていないようだ。
まぁ仕方ないと言えば仕方ない。俺だってラミィに会うまではおとぎ話だと思っていたしな。
「信じられないのも無理はない。魔法など夢物語に過ぎないしな。だが!ここにいるラミィは正真正銘本物の魔女だ。見てみるか?その魔法を。………ラミィ頼む」
俺はそう言った後、ラミィの方をチラリと見る。
ラミィは俺に向かい軽く頷くと、両手を前に出し集中し始めた。
俺の目には、ラミィの体の中の魔力が高まっていくのが見える。体内を循環している魔力の光が、力強く輝きを増していく。そしてその輝きが最も強くなった時、ラミィの両手から魔力が放出された。
「水の龍」
ラミィの口から、ラミィネーミングにしてはまだマシな魔法名が聞こえた瞬間、ラミィの両手から大量の水が洪水のように溢れ出てきた。
その水は空に向かいながら次第に形を作っていく。初めに大きく口を開けた頭部が出来、次に長く鱗を纏った胴体が出来た。最後に触れるもの全てを傷つけるような鋭利な尻尾が出来上がる。
そう、過去に存在したと言われる龍だ。
ラミィが、魔女と同じく伝説の存在と言われる龍をかたどった水魔法を選んだのは、なにか理由があるのかもしれない。
それは、魔法の存在を信じようとしないアルフレッド王へのあてつけかもしれない。あるいは、圧倒的マイノリティである自分自身への皮肉なのかもしれない。
ラミィの放った水の龍は空へ昇るように上昇を続けていたが、突如急降下を始めた。
俺達の方へ徐々に近づいてくる龍は、水で出来ているのに、今にも火を吐きそうな程精巧に作り込まれている。これはラミィの魔力の繊細なコントロールの成せる技だろう。俺にはとても出来ない芸当だ。
そのまま地面に激突するかと思われた水の龍は、再び方向を変え、アルフレッド王達が呆然と突っ立っている頭上を自由自在に飛び回り始めた。
突然の水の龍の登場に、腰を抜かさんばかりに驚くアルフレッド王とその側近達。
水の龍は彼らを嘲笑うように頭上を飛び回り、時に顔面スレスレを飛行するなどして、十分に恐怖を植え付けた後、その役目を終え空中でただの水となり霧散した。
「……ふぅ。どうかしら?少しは魔女の恐ろしさが分かった?ちなみにこの後のはもっとすごいわよ」
と、ラミィがアルフレッド王に言い放つ。
その表情は今まで見たことない位のドヤ顔だ。
アルフレッド王はと言うと、ラミィの言葉が聞こえているのか、驚愕の表情を浮かべたまま動けないでいる様子だ。まぁ、初めて魔法を見たんだから仕方ないだろう。
……だからといって手加減はしないが。
「さて、次は俺の番だな。……と、その前に俺の素性を説明しておいた方が良さそうだな。さっきも話したが俺は現ハートランド国王、ジャッジ・ハートランドだ。俺の父親は前国王であるジェイコブ・ハートランド。そして俺を産んですぐ亡くなった母親の名は、ノエルと言ったらしい」
そこまで一息に話した俺は一度深呼吸をする。いよいよ俺の秘密が公になるのだ、ラミィとは違って少しくらいためらってもいいだろう。
「その自分の命を懸けた俺を産んでくれたその母親もまた、…………魔女だったそうだ。だから俺は魔女の息子ということになる。そのおかげで、俺もラミィと同じように魔法を使うことができる。………こんな風にな」
俺はアルフレッド王に向かって話しながら、右手を俺から見て右、アルフレッド王から見れば左の方向に向ける。
その方向には、100メートル程先に大木が数本まとまって立っていることは昨日確認済みだ。ここから十分に距離があるため被害は出ないだろう。
再度そのことを確認した俺は、既に限界まで高まっている全身の魔力を右手に集中させる。
そして、結果をイメージしつつ右手からその魔力を放出した。
「炎よ!」
俺がイメージを伝えた膨大な魔力は、小さな城程の大きさの火の玉になり、凄いスピードで大木に向かっていく。
あっという間に大木まで辿り着いた火の玉は、
ドドーン!!
と、いう音と同時に大木諸とも大きな火柱を上げた。その炎は大木の2倍以上の高さとなり、大木数本を纏めて包んだ。
無事火の玉が着弾したのを見届けた俺は、更に右手に魔力を集中させ、その魔力に新たなイメージを与える。
「トルネード。……いや、……ファイアトルネード!」
少し顔を赤くしつつも、俺はラミィネーミングと大差の無い恥ずかしい魔法名を口から発した。