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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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急遽戴冠式を行う事の決まった俺達は、早速準備に取りかかっていた。



「場所は謁見の間でいいとして、問題は王冠だな」



そう。今現在、ハートランド王国には代々受け継がれてきた王冠が無かった。


5年前の侵攻の際、ロンベル軍によって持ち去られたか、焼失した可能性が高い。

前国王である父上が王冠をかぶっている姿は数度見かけたことはあるが、デザインまでは覚えていないため再現はむずかしいだろう。そもそも、王冠などの凝った細工のできる人材など、今のハートランド王国にはいない。

……いや、待てよ。1人いるかもしれない。



「なぁ、ラミィ。お前無属性の魔法で王冠って作れるか?」



俺は、戴冠式に使う予定の謁見の間の掃除をしているラミィに声をかけた。



「なに?王冠?まぁ、簡単な物なら作れると思うわよ。材料があればね」



ラミィは風魔法で埃を飛ばしながらそう答えた。


そうか、材料がいるな。

今この国にある物と言えば……木かな?



「木製でもいいかな?」


「木!?」


「そう木だ」


「そ、そう…。木なのね…。出来るわよ」



ラミィは俺が変なこと言い出したとビックリしていたみたいだ。


まぁ俺も自分で言い出しておいてなんだが、木製の王冠なんてどうかしてると思う。でも、仕方ない。木しかないんだから。


その後食事の片付けをして遅れてきたウィルにも確認したが、結局仕方ない。ということになった。





「それで?デザインはなんか希望はあるの?あんまり複雑なのは無理よ」


1メートルくらいの長さの木材を前にして、ラミィがそう俺達に尋ねてきた。


デザインか…。以前のやつを覚えていない以上、新たに考えた方がいいかもしれない。うーん…。どうしようか。


悩む俺。隣のウィルも悩んでいる様子だ。

しばらくそのまま2人で悩み続けていると、ラミィが痺れを切らしたように俺達に向かってこう言ってきた。



「もう!ハッキリしないわね!私が勝手に作るわよ!それでいいわね?」


「は、はい!お願いします」



ラミィの迫力に思わず敬語になってしまった。だが、もうこの際だ。ラミィに任せてみよう。



ラミィが少し考えてから丸太に手をかざす。そして魔力を流し始めると、丸太が中に浮きながら少しずつ形を変えていった。


徐々によくある王冠の形に近づいていく木材。だが、そろそろ完成ではないか、と思われた所から更に変形を始めた。王冠の上部が波形に盛り上がっていく。そしてそれが不規則に一周し、変形が止まる。

そう、あれはまるで………炎のようだ!



「……よし。これでどうかしら?アンタの炎をイメージしてみたわ。なかなか良い出来じゃない?」



そう言うラミィの手には炎をかたどった王冠が載っている。とても木製とは思えない曲線が随所に使われており、木目がなければ誰も木で出来ているとは信じないだろう。


ラミィの作った王冠に目を奪われていた俺は、ハッと我に返るとラミィに向かい、



「すごい!すごくいいじゃないか!」



と、賛辞を送る。

ウィルも、気に入ったようで、



「さすがラミィ殿!ジャッジ様に相応しい素晴らしい王冠です!木で作られているとは思えない重厚感。そして、あえて残された木目が、この山々に囲まれたハートランド王国の歴史を現しているようです」



と、少々おだててはいるのだろうが絶賛していた。


ラミィも俺達に褒められて鼻高々といった所だろう。王冠を持ちながらいつものポーズで、



「ま、まぁね。この不世出の天才美人魔女のラミィちゃんにかかればこれくらい簡単よ!特別に防腐処理と耐火性能もつけちゃいましょう!」



と、いい放つと、またも王冠に魔力を込めている。





そんなこんなで王冠は準備できた。あとは肝心の戴冠式を行うだけとなったところで、ウィルが妙な事を言いだした。



「さて、それではラミィ殿がジャッジ様に戴冠するということでよろしいですか?」


「は?」「はい?」



俺とラミィは呆気に取られてウィルの顔を見ていたが、少ししてラミィがウィルに向かって口を開いた。



「私なわけないでしょ!?その役目はウィルのものよ」


「わ、私ですか!?」


「当たり前じゃない!この中で1番年長者はウィルなんだから。権威あるものが行うんじゃなかったの?」



ラミィに怒られたウィルが俺の方を見る。



「俺もウィルが適任だと思う。いや、是非ウィルにお願いしたい」



俺にまで言われてウィルも覚悟を決めたようだ。表情を引き締めて俺に向かって返事した。



「わ、わかりました。私では役不足だとは思いますが名誉あるその役目、精一杯務めさせて頂きます」



俺もウィルに戴冠してもらうなら、なんの不満もない。今までもこれからも、俺の側でこの国を支えてもらうつもりなのだから。





そして、3人だけの小さな小さな戴冠式が始まった。

誰も正式な作法など知らないが、そんなことは関係ない。



俺は玉座の前に跪き、正面に王冠を持って立つウィルの言葉を待つ。

ラミィはちょうど俺とウィルの真ん中あたりで、横からワクワクした表情で見ている。



「ジャッジ・ハートランド。汝を、ここハートランド王国、新国王としてこれを認める。証にこの王冠を」



と、言いながらウィルが、俺の頭に木製の王冠をかぶせる。


王冠は、俺の頭の上で静かにその存在感を放つ。さっき手で持ったときよりも重く感じられた。もしかしたら、これが責任の重さというやつなのかもしれない。


王冠をかぶった俺は立ち上がり玉座の前に立つ。

反対にウィルは俺の前に跪いた。ラミィは相変わらず目をキラキラさせてこっちを見ている。



「これで俺が新国王となった。……ってことでいいよね?

この国はまだ3人だけの小さな国だ。でも、これからドンドン大きくなっていくと思う。

俺達はみんな珍しい境遇の持ち主だ。この世界には俺達と同じように、周りと違う境遇の持ち主がいるだろう。その人たちが周りから疎まれ、蔑まれ、生きづらい思いをしているなら、この国はそんな人達の受け皿になれると思う。いや、ならなきゃいけない。俺はそんな国を作りたいと思う。

だから、2人にはこれからも俺に力を貸して欲しい。よろしく頼む」



俺がそう決意を表明すると、ウィルは嗚咽を漏らしながら泣いているようだった。



「……うっ。じ、ジャッジ様…。ご立派になられて…。ううっ…」



最近ウィルは涙脆くなった気がするな。まだ40だから老けるのは早いと思うんだが…。まぁ、5年もこの日を待っていたんだ、仕方ないだろう。


俺が咽び泣くウィルをそう思いながら見て、隣のラミィの方を向くと、ラミィはさっきまでとは違い、頬を赤くそめながらボーッとこっちを見ていた。



「なんだ?ラミィ。俺の晴れ姿に見惚れてるのか?」



と、俺が真面目に決意表明をしすぎて堅くなってしまった場を和ませようと、冗談交じりで声を掛けると、



「………う、うん」



と、上目遣いで俺の方をみながら小さく頷いた。



ま、まずい……。素直なラミィは可愛い。いつもの勝ち気な所があるから、なおさら可愛く見える。こういうの何て言うんだっけ?確かラミィに借りた本に載ってたんだよな。何だっけ?



と、ラミィの熱い視線を受けてそんな事をしばらく考えていたが、気を取り直して俺は2人に向かって言葉をかけた。



「さぁ!これで戴冠式は終わりだ。これで俺は王と名乗っても何の問題もなくなった。明日からは作戦の準備にかかろう」



俺の言葉で、ハッと夢から覚めたようになった2人は揃って返事する。



「はい!」「わ、わかったわ!」





その夜、瞼を閉じると、謁見の間でのラミィの顔が浮かんできて、ドキドキしてしばらく寝付けなかった。


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