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俺がそう言い切ると2人はそれぞれ別の反応を示した。
まずラミィは、
「なに言ってるの?アンタが自分で戦争は避けられないって言ったじゃない」
と、呆れ気味だ。反対にウィルは、
「……お待ちください、ラミィ殿。まだ話は終わっていない様です。きっとジャッジ様のことです、何か深い考えがあってのお話でしょう」
と、ウィル自身も何か考えながら、話の続きを待っている様子だった。
さすがウィルだ。長年俺と一緒にいるだけに、言葉の裏にあるものを感じ取ったようだ。
そんなウィルに頷きながら俺は続きを話し始める。
「俺はロック兵長やこの街の人々が、無駄な戦いで死んでいくのを見過ごす事はしたくない。だからといって今回だけイーストエンド軍に味方しても、あまり意味はないだろう。またアルフレッド王が新たな戦争を起こすだけだ。……そこでだ、俺はアルフレッド王に戦争を起こす気をなくさせればいいと思うんだ」
俺がそう話すと、ラミィは俺の言葉の意味を考えているのか黙っている。そしてウィルも少し考えた後俺に向かって質問してきた。
「お話は分かりました。私も剣術道場の生徒やその親が死んでいくのはあまりいい気分ではありません。……しかし、なにか具体的な方法はお考えですか?」
「あぁ、ウィルの言うことはもっともだろう。俺もなんの考えも無しに口にした事じゃない。それを2人に聞いて判断して欲しいんだ。2人の協力無しには成り立たない作戦だからな」
俺はそう2人に話して、チラッとロック兵長の方を見た。
「それに、この作戦がうまくいったらハートランド王国の宣伝にもなる。そしたらロック兵長みたいに自分の住んでる国に不満のある人たちが、ハートランド王国に引っ越して来てくれるかもしれない。…ただ、俺達の居場所や素性がバレるって問題はあるけどな。特にラミィは魔女ってことがみんなに知られるのは、やっぱりまずいか?」
俺がラミィにそう聞くと、ラミィからは予想とは違う返事が返ってきた。
「別に?まずくなんかないわよ。そりゃ1人で暮らしてた時は、周りの目が気になってたわよ。魔女だとバレたら買い物とかし辛くなるしね。でも、今はアンタ達がいるじゃない。魔法使いの王子に、6000人を1人で倒す男よ?魔女なんか珍しくもなんともないわ。だから私は平気よ」
そうラミィは言うと、俺の目をじっと見つめてきた。
……きっと、まるっきり平気ってわけじゃないだろう。不安や心配ももちろんあるはずだ。
それでも、俺を信頼してそう強がってくれているんだと思う。ラミィの目からは、そんな心の内が痛いほど伝わってくる。
ありがとう、ラミィ。
そして、その「魔法使い」って呼び方かっこいいな。これから使わせてもらおう。
そして、俺は2人に作戦の内容を伝えた。
俺が思い付きで考えた作戦だ、不備や穴だらけだった。
それをウィルとラミィが上手く形にしてくれた。本当に2人がいてくれてよかった。
「……よし!それでいこう。2人ともよろしく頼む」
「はい!」「任せなさい!」
と、俺達の作戦会議が終わった。
その間ロック兵長はおいとけぼりにされ、急に内緒話を始めた俺達をぼけーっと見ていた。
領兵たちと明日の確認があるというロック兵長と分かれ、俺達は剣術道場の様子を見に来ていた。
剣術道場はウィルの手から離れても盛況の様で、中からは子供達の元気な声が聞こえていた。
……格子窓の外でキャーキャー言っていた奥様方の姿はみえなかったが。
「それにしても、アンタにしては大胆な事を考えたわね」
道場から離れる道すがらラミィがそう話しかけてきた。
「そうか?そんなに俺って慎重派に見えるのかな?」
「いえ、そんなことありません。ジャッジ様は何事も深く考えてから発言なさるお方です。周りからはそう見えるだけでしょう」
と、ウィルが弁明してくれたが、俺はそんなに深く考えてから喋ることはないぞ。むしろ、さっきみたいに思い付きで話す事の方が多い。
……一体俺はウィルからはどんな風に見えてるんだ?
そんなことを話しながら俺達は、一旦ハートランド王国の館に帰ってきた。
作戦決行は、イーストエンド軍が集結する3日後の予定だ。当初王都まで行かないといけないと思っていたが、ロック兵長の話でアルフレッド王が直接軍を率いることが分かって、目的地が変更となった。
その夜、作戦について細かいところを詰めている最中だった。
「そういや。その作戦で、アンタ王だって名乗るんでしょ?いつ王子から王になったの?」
そう、ラミィが聞いてきた。
……た、確かに。ハートランド王国は俺が生き残っているから滅亡はしていないが、前国王は戦いの中で在位中に亡くなっている。俺も戴冠式とかしていないし、この場合どうなるんだ?勝手に名乗っていいものなのか?
「……ど、どうなんだろう?いつなのかな?戴冠式とかしてないけどいいのかな?どう思う?ウィル」
ラミィのいきなりの核心をついた質問に動揺してしまった俺は、助けを求めるようにウィルを見る。
「……そうですね。一般的には前国王から指名を受けた後継者が、国民の支持を得て王位を継承するのが普通でしょう。まぁこれは建前ですが。実際は権力争いの末って感じでしょうね」
いきなりの質問にも冷静に答えてくれるウィル。やっぱりこういう所は人生経験豊富な年上って感じがする。
「戴冠式については私もあまり詳しくありませんが、前国王や特定の宗教の教皇など、権威ある者によって戴冠されるとは昔聞いたことがあります」
「……なるほど。じゃあ俺はどうすれば王と名乗っていいのかな?」
ウィルの説明を聞いてもいまいちどうすれば王になれるのか分からない俺は再びウィルに助けを求める。
前国王はいないし、国民も今のところ俺を含めて3人しかいない。この場合はどうすればいいんだ?
「ジャッジ様の場合は、……全国民である私達が認めればそれでいいのではないでしょうか?もちろん私はジャッジ様以外に仕える王は考えられません。ラミィ殿はいかがですか?」
ウィルからそう言われたラミィは、
「私?私はアンタの国だって言うから付いてきたのよ。他の人が偉そうにしてる国になんか住みたくないわ」
と、ラミィらしい答えを返していた。
「と、いうことは。俺はもう王ってことでいいのかな?」
「そうですね」「そうなんじゃない?」
俺が尋ねると2人はそう答えてくれた。
……うーん。これでいいのかな?なんかもっとちゃんとした……。うーん……。
と、俺がうんうん唸っているのを見ていたラミィが、何か思い付いたのだろう。パンッ、とひとつ手を打つと俺とウィルに向かって、
「そうだわ!戴冠式をしましょう!本で読んで一度見てみたかったのよ!」
と、言い出した。
また、ラミィが変なこと言い出したな。と思っていたのだが、それを聞いたウィルまで、
「それは良い考えですね!やはり由緒正しきハートランド王国の新国王誕生に戴冠式は必要でしょう!」
と、言い出してしまい、結局戴冠式を行う事になった。
………たった3人で。