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俺達の家の建設はたった3日で落成式を迎えた。外見だけなら1日目でほぼ完成していたのだが、内装にラミィがこだわり、それでも2日で仕上げた。
「……いやー。それにしても立派な家ができたなぁ」
完成した家を見上げながら俺は感想を漏らす。
「ジャッジ様が住むにふさわしい館ですな。さすがラミィ殿!」
「まぁね。急いで作ったにしてはこんなものじゃないかしら?」
「いずれはここに城を構えることになるでしょう。その際も頼みます!」
「この天才美人魔女にまっかせときなさい!ハッハッハ!」
などと、2人も出来映えに満足しているようだ。
実際、とても3日で作ったとは思えないほど立派な建物になっている。
2階建ての外観は城というよりホテルといった風であり、外から一番目立つ位置に炎をかたどったエンブレムが掲げられている。これは、俺の得意な炎魔法を意味しているとのことだ。
両開きの玄関を開け中に入ると、まず舞踏会でも開けそうな大広間がある。そこを出て廊下を進むと並ぶように左右に執務室や各小部屋が合計6つ程ある。さらに奥に行くと謁見の間だ。
2階に上がると食堂や厨房、大浴場などがあり、俺達3人それぞれの部屋もある。階段に一番近い場所にウィル、そして少し離れてラミィ、最後にその隣が俺の部屋だ。
侵入者から俺達を守るためにと、階段そばの位置はウィルが希望したようだ。また、大浴場などは1階の方が良いんじゃないか?とも思ったが、どうせ水は魔法で出すんだからどっちでも一緒だと気付いた。
俺はラミィに案内されて、一通り館の中を見て回り出来映えにとても満足していた。
「すごくいいぞ!いきなりこんな立派な館に住めるとは思わなかった。ありがとう。ラミィ、ウィル!」
俺の言葉に満更でもない表情で例のポーズを繰り出しているラミィ。
ウィルもその後ろで笑顔で、うんうんと頷いている。
「……ただ、1つだけ注文をつけてもいいか?」
「な、なに!?」
「なにか、お気に召さない事がごさいましたか!?」
俺がそう言うと、2人は驚いたように反応してきた。
少し付いてきてくれと、2人を連れて玄関から外に出る。そして、目立つ位置にある炎をかたどったエンブレムを指差しながら俺は言った。
「アレのことなんだが…」
2人は俺が指差す先を見ながら怪訝な表情だ。
「アレのどこが気に入らないのよ。かっこいいじゃない!」
「そうです!私は見たことはありませんが、ジャッジ様が使われるという炎のように雄々しいではないですか!」
確かにかっこいい。しかもラミィが作っただけあってデザインも良くできている。
……でも、あれだけじゃ足りないんだよな。
「アレにもう2つ付け加えて欲しいんだ。ウィルとラミィを象徴するようなものを」
「………えっ?」
俺の言葉が意外だったのか、2人は静かになってしまった。それに構わず俺は話を続ける。
「この家を作ったのも、これからこの国を大きくしていくのにも、必ず2人の力が必要になる。俺達は3人で1つだ。だからアレもみんなの象徴にしたいんだ」
俺の言葉の意味を考えていたのだろうか。しばらく黙っていた2人だったが、ウィルが先に口を開いた。
「………ジャッジ様。そこまで私達のことを考えていて下さるとは。ありがとうございます。改めてこのウィル!ジャッジ様に生涯の忠誠を誓います!ジャッジ様の剣となり、いかなる敵も打ち払ってみせましょう!」
「し、仕方ないわね。アンタがそこまで言うんだったら、作り直してあげてもいいわ!」
反応はそれぞれだが、怒ってはいないようだ。
この3人だからこそ作れる国もあるだろう。そんな国の象徴となるなら、3人それぞれをかたどった物が入っていた方がいいに決まってる。
その後、ウィルとラミィを象徴するものについてみんなで話し合った。
ウィルはあっさり剣にしようということになったのだが、ラミィが中々決まらなかった。魔女と言えば杖じゃないか?という話にもなったのだが、ラミィが、
「私は杖なんか使わないわよ。それになんか杖っておばあさんの魔女って感じがしない?」
と、言い出して却下となった。
結局俺が言い出したラミィがいつも食べてるクッキーにしようと言うことになり、炎を中心に横に剣とクッキーが並ぶというエンブレムが出来上がった。
あまり見たことのない斬新なエンブレムだが、俺はとても気に入った。俺達3人を上手く表現しているような気がする。隣の2人も出来上がったエンブレムを見て満足そうだ。
「さて、とりあえず館は出来上がった。これからどうしようか?」
俺達は会議室として使う予定の部屋に集まり、今後の計画について再度話し合っていた。
「……うーん。あと必要なのは、食べ物かしら?」
「確かに。これから増えるであろう住民の為にも食料の確保は必要ですね」
食料かぁ…。そうなると畑とかってことになるのかな?
俺はやったことないけど、この2人はどうなんだろうか?
そう思った俺は2人に向けて質問する。
「どっちか畑仕事について詳しいか?」
「…………。」
「………すみません」
ダメだ。どうやら誰も詳しくないようだ。
今のところはラミィのマジックバッグに入っている食料でなんとかなっているから大丈夫だ。それに、転移石でこっそりファイスの街に買い出しに行くこともできる。
しかし、ウィルの言う通り将来のことを考えると、自給自足が出来るようにしておくべきだろう。
「うーん……。よし!ひとまずこの事は置いとこう!出来ないことをいくら考えても、出来るようにはならないだろう。それより、俺達でできることをやろう!」
しばらく考えた後、俺の出した結論はそれだった。
無理なものは無理なのだ。いくら剣が強かろうが、魔法が使えようが、じゃがいも1つ作ることはできない。
農家は偉大だ。
「しばらくはラミィのマジックバッグに入っている食材と、山で狩りをして肉を調達しよう。あ!川で魚を獲るのもいいな」
俺がそう提案すると、2人も納得してくれたようだ。
「山での狩りはお任せください。猪や兎、熊などこの辺の山にはいくらでもいます」
「……わ、私は。狩りはちょっと…」
「ラミィは俺と川に釣りに行こう。こう見えても釣りは得意なんだ。よく小さい頃から行っていた」
狩りはウィルに任せるとして、ラミィを連れて俺は釣りに行こう。この辺の釣り場の事はよく知っている。
とりあえず今後の活動指針がたったところで、食料調達は明日からということにして、その日は新居でぐっすり休んだ。初めての家、初めての部屋だったわりには落ち着いて眠れたのは、ベッドが魔法のテントで使っていたものだったからかもしれない。
次の朝、館の前で狩りに行くというウィルと別れ、俺とラミィは川に向けて出発した。
生活用水として使っていた川は近くを流れているのだが、魚のよく釣れる場所はまだ上流にあるためしばらく歩く事になる。
少し歩くとぶつくさ言うようになったラミィを宥めながらしばらく歩くと、目的とする場所が見えてきた。
そこは、深い溪谷の中にある滝壺だ。
俺は小さい頃からよくこの場所で釣りをしたり、水遊びをしたりしていた。フラ-とも何度も来たことがある。
滝壺は深さが結構あり、覗き込んでも底は見えない。色は青というよりは緑に近い。その場に響くのは滝の音と鳥のさえずりだけだ。もう少し滝に近づけば飛沫を浴びることが出来て夏は涼しいが、今日は寒いからやめておこう。
「よし。ここで釣りをするぞ。ラミィは魚釣りはしたことあるのか?」
俺はラミィに作ってもらった簡単な作りの釣竿を準備しながらそう尋ねる。
「したことないわ。だからアンタが教えなさい」
ラミィは教えてもらうのに偉そうに言いながら、俺の手元をじっと見ている。
仕方ない、教えてやるか。と、俺はラミィに手招きしてまずは道具の説明を始めた。