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新生ハートランド王国始動の朝、さっそく3人しかいない国民全員で集まり、今後の計画について話し合った。
「さて、まずは何からすればいいと思う?」
「まずは、住むところじゃない?いつまでも王様がテントってわけにはいかないでしょ」
「むぅ、確かに。さすがラミィ殿!となると、まずは、ジャッジ様の暮らす城を建てるべきです!」
と、多数決でまずは俺達の住む家を作ることになった。
場所は元々俺の住む館のあった場所だ。
一言で家を建てるといってもそんな簡単なものじゃない。知識も技術もない。どうしようかと俺とウィルが悩んでいると、意外な人物が声を上げた。
「仕方ないわね。この天才美人魔女のラミィちゃんが、特別に手伝ってあげるわ!私に任せなさい!」
と、いつものポーズで自慢気に言う。
「……お前が?無理に手伝おうとしなくていいからな。いい子だからその辺で遊んどきなさい」
と、軽くあしらって、ウィルと相談の続きを始めようとしたら、
「……ヘルファイア」
と言う声が聞こえ、俺の足元から火が上がった!
「あ、熱っ!?」
「アンタ!バカにするんじゃないわよ!この天才美人魔女に不可能はないのよ!」
俺がバッと振り替えると、ラミィが真っ赤な顔でそう俺を怒鳴り付けてきた。
そして、そのまま話続けた。
「アンタねぇ。誰が私の家を建てたとおもってんのよ!あれを建てたのは全部私なのよ!」
その言葉を聞いた俺は、以前ラミィが家を自分で建てたと言っていたことを思い出した。
「そ、そうだったな…。しかし、一体どうやって建てたんだ?魔法か?」
ラミィが大工道具を手に木材を加工している姿は想像できない。おそらく魔法関連だろう。
…しかし、一体どうやって?なんか大工作業専用の魔法の道具でもあるのか?
俺が疑問を口にすると、ラミィは出来の悪い弟子を見るような、少し憐れんだ目で俺をみながら説明を始めた。
「…はぁ。仕方ない。察しの悪いアンタに特別に教えて上げるわ。あのねぇ、アンタ私の得意な属性の魔法って覚えてる?」
「…えーっと。たしか、無属性だよな」
「そう!無属性よ。そしてその無属性は道具を作るのに役立つって話もしたわよね?」
「あぁ。聞いたぞ」
確かに、魔法の道具を作るのが得意だって話は前に聞いた事がある。しかし、それと大工作業になんの関係が?
まさか、何でも作れる魔法のノコギリや金槌があるとか?いや、さすがにそれは魔法といえども無理だろう。しかし、それならいったい…。
じっと考え込む俺をラミィはしばらく黙って見ていたが、やれやれと言うふうに両手を上げて続きを話し出した。
「ここまで話してもまだ分かんないかしら?仕方ないわね。…えーっと。あ!それでいいわね。ちょっと見ときなさい!」
ラミィはそう言うと、近くに転がっていた丸太に手をかざして、何やら魔力を送り込んでいるようだ。
すると、その丸太がラミィの腰あたりまで浮き上がり、まるで透明な鋭い巨大な刃物で切っているかの様に、形を変え始めた。
まずは俺から見て上の部分が、木の皮ごと真っ直ぐ平らに切り落とされた。そして次は90度右側、その次は下、最後は左側と切り落とされ、丸太は正方形のよく見る木材になった。
俺とウィルが驚きながらその光景を見ていると、ラミィはそんな俺達を見てニヤッと笑い口を開く。
「これくらいで驚いてもらっちゃこまるわ。この天才美人魔女のラミィちゃんにかかれば、こんな事だって出来るのよ」
と、言うと、更に丸太に魔力を送り込む。
すると、正方形で浮かんでいた丸太が、なんと少しずつ曲がっていき弓のような形になったではないか!
しかも、そのまま木材は曲がり続け、折れることなく最後には頭とお尻がくっつき、円の形になってしまった。
俺は驚いて声が出ない、隣のウィルも同様のようだ。
2人して、口を開けたまま間抜けな顔で丸太を見つめている。
そんな俺達の反応に満足したのだろう。
ラミィは丸太に送り込んでいた魔力を止め、丸太を地面にゆっくりと下ろした。
丸太は円を描いたままの形で固定されている。
「どう?私の凄さがわかったかしら?」
ラミィは自慢気にそう言うと、俺達の方を例のポーズで見ている。
「……す、すごいな。そんなこともできるのか!?俺にもできるか?」
驚きながらそう聞く俺。そんな俺を見ながらラミィは、
「あー。アンタには無理ね。私みたいな天才魔女じゃないと。そもそも繊細な魔力の操作もできないじゃない」
と言っていた。
その後偉そうに垂れてくれたラミィ師匠の講釈によると、無属性の魔法というのは魔法の道具を作るときに役立つように、物体の性質を変化させずに加工することに長けているとの事だった。
「例えば、アンタの得意な火魔法でさっきの私と同じ事をしようとしたらどうなると思う?燃えちゃうのよ。よくても焦げちゃうわね。同じように水魔法だと濡れちゃうし、風魔法だと直線的な加工しかできないわ。土魔法はそもそも無理ね」
その点、無属性魔法だと、細かい加工が可能だと言うことだった。更に無属性魔法の得意なラミィにかかれば、さっきのようなことも簡単にできちゃう。ということらしい。
さすがラミィ師匠である。
まさかのラミィの特技が発覚し、俺達の家を建てるという目標にも希望が見えてきた。
「よし、加工はラミィに任せるとして、俺達は木を切ってこよう」
俺がウィルにそう提案すると、
「いえ。木を切るのは私1人で十分です。取り合えず100本ほど切ってくればいいですか?ラミィ殿」
「えぇ。どうせ1本ずつしか加工はできないから、それだけあれば十分よ」
「わかりました。では、行って参ります」
と言い、山の方に走って行ってしまった。
あれ?もしかして俺ってなんの役にも立たない?
そう思った俺はラミィに声をかける。
「なぁ、ラミィ。俺にもなんか手伝えることはないか?」
俺達が話し合って決めた、おおまかな家の設計図を見ながら何事か考えていたラミィは、俺の声が聞こえたのかこっちを振り向いた。それから何か思い付いたのか、悪戯っ子の様な笑みを浮かべこう言った。
「…そうね。いい子だから、邪魔しないようにその辺で遊んどきなさいよ」
……く、くそっ!悔しいが何も言い返せない。まさか、ラミィに子供扱いされる日がくるなんて。
と、意気消沈した俺はトボトボとその場を離れる。
そんな俺とは対照的に、山に着いたウィルはすさまじい勢いで木を斬り倒していた。
ウィルがいつも腰に下げているなんでもない剣を一凪ぎすると、周りにある木がまとめて数本倒れる。斬り倒した木がある程度の数になると、枝を落とし両脇に2本ずつ抱えてラミィの所まで持っていく。
その作業を延々と繰り返すのだ。
ラミィはと言えば、ウィルが持ってきた木を加工しドンドンと設計図通りに組み立てていく。釘などを一切使わないのは、ラミィが木材を好きな形に加工できることと、木材同士を継ぎ目なく繋ぎ合わせることが出来るからだろう。
ちなみに家の設計図もほとんどラミィが書いた。設計図というかほぼイラストだが、意外にラミィは絵も上手だった。
こうしてウィルとラミィの活躍によって、普通では考えられないスピードで家が出来上がっていく中、俺は何をしていたかと言うと。……街を見下ろせる丘から街を眺めていた。