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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺達がファイスの街を出発してから今日で3日目だ。ここまでの道中は順調だったと言っていいだろう。

季節も冬であり、少し暗くなると寒くてとても魔車に乗っていられない。そこで、移動は日中行い、暗くなる前にはテントで休むといった繰り返しで移動してきた。


相変わらずラミィの魔法のテントにはウィルは入ることが出来ない。その為、一人用のテントでウィルには休んでもらっているのだが、いつ見ても俺達のいるテントの前で見張りをしている。さすがに少しは寝ているとは思うが心配だ。


ちなみに、魔法のテントの寝室にはちゃんとベッドが2つあった。俺も特に触れなかったが、ラミィが用意したのだろう。


初日は当然のように別々のベッドで寝たが、昨晩はラミィがどうしてもと言うので、ベッドをくっつけて手を繋いで寝た。………まぁ、これくらいならいいだろう。



そんなこんなで3日目のお昼といったあたりの時間。

俺達は荒野の真ん中にテーブルを出し、昼食を摂っていた。



「あー。飽きたわ。まだ着かないの?アンタたちの国は」



ラミィは昼食を終え、お茶を飲みながら唇を尖らせている。



「もうすぐだから我慢しろ。ほら、あそこに高い山が見えるだろ?あの山の向こうがハートランド王国だ」



俺が指差す方向には高い山々が連なっているのが見える。俺やウィルにとっては懐かしい、ハートランド王国を囲む山々だ。パッと見分かりにくいがあの山の間を抜ける道があり、そこを進むとハートランド王国のある盆地に出る。


あの道をウィルに抱えられて逃げ出した時、俺は15歳だった。それが今や20歳だ。今思い返してみると、5年という月日も一瞬だったような気もする。


俺はこれまでの事を思い返しながら、生まれ故郷を守るように聳える山々を眺めていた。



「へぇー。あれがそうなのね。じゃあ今日中には着けそうね」


「いや、抜け道は思ったよりも険しい。暗い中進んで怪我をしてもいけないから、今夜は手前で泊まろう」



俺の提案が受け入れられ、山の麓で一泊してから、明日の朝抜け道を抜ける事に決まった。





そして、ついにその朝がやってきた。


俺は久しぶりの故郷に帰ることに、自分でも気付かないうちに興奮していたのだろう。朝日が昇る頃には目が覚めてしまった。


昨夜はおとなしく自分のベッドで寝たラミィを起こさないように、そっと寝室を抜け出す。

そして、寝巻きに上着を引っ掛けてテントから外に出た。


テントから出た途端、俺は強い光が眩しくて思わず目を閉じてしまう。ゆっくりと目を開けると、昇ったばかりの朝日に照らされて、朝露に濡れた草や木々がキラキラ光っていた。

気温は大分低いようだ。思わず体が身震いする。



「おはようございます。お早いですね」



と、言いながらウィルが歩み寄ってきた。

どうやらまた見張りをしていたようで、焚き火がまだ燃えている。



「あぁ。おはよう。ウィルもちゃんと休んだか?」



俺がそう尋ねると、もちろんと言う風に頷き、手に持ったコップを差し出してきた。



「はい。しっかり休みました。それより、外は冷え込みます。こちらをどうぞ、暖まりますよ」


「ありがとう」



ウィルから受け取ったコップには、湯気を上げるお茶が入っていた。

俺はふーふーと息を吹き掛けながらそのお茶を飲む。少しずつだが、体が温まってきた。



「……5年ですか。長かったような、短かったような不思議な感じですね」


「あぁ、そうだな」



どうやら、ウィルも同じ事を考えていたようだ。

俺達はそれ以降会話を交わすことなく、しばらく朝日に照らされる景色を眺めていた。




ラミィが起きて、俺を呼ぶ声をきっかけに俺はテントに戻った。そして、朝食や着替え、片付けなどをすませた後、俺達は抜け道に向かって出発した。


「えー、歩いていくのー?」


と、ラミィは不満たらたらだったが、抜け道は魔車では危険だと言うことを説明すると、しぶしぶ付いてきた。



俺達が歩くのは、秘密とされていない4つの抜け道の内の1つだ。この抜け道は谷に沿って延々と山道が続く。道順自体は単純なのだが、とにかく山道を歩き続けなくてはならないのが難点だ。


俺達は途中にある沢などで休憩を挟みながら歩き続けた。そして、もうすぐ正午になると言う頃、やっと山道が終わり目の前に広大な土地が見えてきた。



「ラミィ、着いたぞ!目的地だ!」



俺のその言葉に、一番後ろを歩いていたラミィが顔を上げる。そして俺のとなりに並んできた。



「やっとついたわね!これがアンタ達の国?」


「……あぁ。ここが俺が生まれた国、ハートランド王国だ」



そう答える俺の目の前には、5年ぶりに見る祖国の姿が広がっていた。

まわりを囲む山々や自然は以前と変わりないように見える。しかし、元々街があった場所はみるからに荒れ果てているようだ。

俺の記憶の中のハートランド王国とは大きく違う。


とにかく街があった場所まで行ってみよう。と、足を踏み出し掛けた瞬間、



「ジャッジ様、お待ちください。私が先に偵察してきます」



と、ウィルが言い。街に向け残りの山道を駆けていった。



残された俺とラミィは、ウィルの後を追うようにゆっくりと山道を歩き出す。俺の隣を歩くラミィも、ゴールが見えたことで若干元気も出たようだ。よかった。



俺達2人が山道を終え、街のある盆地に着いたときウィルが帰ってきた。



「どうだった?誰かいたか?」


「いえ、無人だと思われます。人が生活していた痕跡もありませんでした。おそらく何年もこのままなのでしょう」


「……そうか」



ウィルの報告を受け俺は少し肩を落とす。

もしかしたら生き残った人が少しはいて、ここに戻ってきているかもしれない。と期待していたのだ。


この国に侵攻してきた憎きロンベル軍は、国ごと滅びたということは知っていた。

その後この場所で、誰かが生活していたことはないということなのだろう。



「……ここで、考えていてもしょうがない。とりあえず街に行ってみよう」



そう2人に声をかけ再び歩き出す。



街の正面の入り口から入ると、すぐに焼け落ちた家屋が目についた。今も取り壊されず5年前に燃やされたままだ。もう、柱が数本残っているだけだが、その面影は十分に感じられる。



「…ひどいですな」


「あぁ。ほとんどの家が燃やされている。まともに残っている建物はなさそうだな」



俺の言葉の通り、国中ほぼ全ての建物に火をつけたようだ。燃えにくい土壁やレンガなどがちらほら見えるが、ほとんどは風や雨によって崩れ落ちてしまっている。


そんな風に現在の街の状況を確認しながら歩いていると、中央を通る道の突き当たりに着いた。


俺が育った館のあった場所だ。

ウィルと2人その場に佇み何もない地面を見つめる。



「ちょ、ちょっと!どうしちゃったのアンタ達!」



ラミィがそんな俺達に声をかけてきた。

俺はラミィを振り向きゆっくりと口を開く。



「………この場所は、俺が育った館のあった場所なんだ。そして、父上が最期まで戦った場所でもある」


「……陛下は、最期まで先頭に立ってロンベル兵と切り結んでいたそうです。そして、おそらくこの場所で…」



そこまで言うとウィルは黙ってしまった。



「……と、まぁそんな場所なんだ。今ではただの何もない原っぱだけどな」


「……そ、そうだったのね。ごめんなさい」



あの勝ち気なラミィが自分から謝ってきた。

俺は気にするなと言うふうに、ラミィに向かって軽く微笑み、



「さぁ!湿っぽい話はここまでだ。これから俺達はこの場所にみんなが幸せに暮らせる国を作るんだ!2人とも頼りにしてるぞ!」



と、元気よく言った。


ウィルとラミィは急に大声を出した俺をビックリしたように見ていたが、声を揃えて答えた。



「はい!お任せください!」「任せなさい!」





こうして、俺の5年振りの帰郷は無事終わった。

今はまだたった3人しかいない国だけど、ウィルとラミィがいればなんとかなりそうな気がする。


なんたって、剣聖をも超える剣士と、不世出の天才美人魔女、そして、魔法の使える魔女の息子なんだから。

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