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王都からの使者を主にラミィによって追い返した俺達は、その足で街の東門へと来ていた。
「さぁ。これから俺達のハートランド王国再興の為の旅が始まる。2人ともよろしく頼む」
俺が門を背に、2人の方を振り返ってそう言うと、
「はい!」「えぇ、任せなさい」
と、頼もしく返事をしてくれた。
この2人とならきっと上手く行くはずだ。と、俺が再確認していると、2人の後ろに、こちらに向けて走ってくる人が見える。
あれは……ロック兵長か?
「はぁ、はぁっ。よ、よかった。間に合ったようですね」
俺達の前まで走ってきたロック兵長は膝に手を当てて苦しそうだ。
「ロック兵長。どうしたんですか?そんなに急いで」
「いえ。この街を救ってくれた英雄の見送りに来たのです。他の兵も来たがっていましたが、任務があるので私が代表してきました」
そう話すロック兵長。ロック兵長らお世話になった人には、昨夜のうちにウィルが挨拶に回ったと言っていた。それでもわざわざ見送りに来てくれたのだろう。
「わざわざすみません。ロック兵長。短い間でしたが、お世話になりました」
俺もこれまでの感謝の意味を込めて挨拶する。
すると、ロック兵長はまだ話があると言ってきた。
「実は、ついさっきなんですが、王都からの使者が、国軍の駐屯兵を引き連れてウィル殿の行方を探しているという情報が入りました。もしかしてなんかされましたか?」
そう言われた俺達は3人で顔を見合わせる。そして、苦笑しながらロック兵長にも道場での出来事を伝えた。
ロック兵長も使者の傲慢な態度には腹を立てていたらしく、話しを聞き終わった後「ラミィ殿のおかげですっきりしました」と言っていた。バターブレッド王のくだりで、不敬だ!と怒り出すんじゃないかと心配していたが、ロック兵長も吹き出しそうになっていたので安心した。
どうやら、この国の王はあまり国民から慕われてないようだ。俺はそんな王にはならないようにしないとな。
「そういうわけなので、出発された後もお気をつけください。あの使者はしつこそうなので」
「わかりました。十分気を付けるようにします」
俺達には魔車があるから、追い付かれることはないと思うが一応そう返事しておいた。
そして、ロック兵長の指示で門を開けてもらい、俺達は門を潜った。そのとき、ふと思い付いたことがあって後ろで見送るロック兵長を振り返り声を掛ける。
「それでは、今までお世話になりました。それと、俺達がこれからどこに向かうかロック兵長はご存じですか?」
「……?国を出るんじゃないんですか?行き先までは知りませんが…。仮に知っていても使者には口が裂けても教えませんよ」
そう話すロック兵長をみて、俺はいい知り合いを持ったなと感じていた。
そして、ロック兵長になら話しても大丈夫だろうと思い、チラッと横目でウィルを見た。
ウィルも俺の方を向き小さく頷く。
「俺達がこの街を出て向かうのは元ハートランド王国があった場所なんです。俺達はそこでハートランド王国を再興させるつもりです。ロック兵長もうすうす感づいているとは思いますが、俺はその国の王子でウィルは俺の従者でした」
そこまで話すと一度ロック兵長の反応を伺う。
ロック兵長は驚いた顔をしていたが、やがて今までの俺達の言動と結び付いたのか何度か頷いていた。
「まだまだ再興まで時間はかかると思いますが、機会があれば遊びにでも来てください。歓迎します。あぁ、もちろんご家族総出で引っ越してこられても構いません。緑は多いしいい所ですよ?」
と、冗談を交えながら俺達の秘密を打ち明けた。
最後のは冗談で言ったのだが、ロック兵長は「そうなると、引き継ぎが…」などと、結構真剣に検討している様子だった。あまりこの国での暮らしに満足していないのかもしれない。
「それではお気をつけて!」
と言うロック兵長に見送られて、今度こそ俺達3人は街をでた。
しばらくは街道を歩いていたが、人通りが少なくなった辺りで街道を外れ、人目につかないように小さな森の中に入る。
そこでマジックバッグから魔車を取り出していると、街道を馬が走る音が聞こえた。馬に乗っているのは兵士のようだ。
「…国軍の兵士か?俺達を探しに来たのかな?」
「おそらくそうでしょう」
早速俺達が東門から出たと聞き付けたのだろう。
まったくしつこい使者だ。あれだけはっきり断られれば無理だと分かりそうなものだが。
「ほら、準備できたわ。さっさと行くわよ。あんなやつらなんかほっときなさい。どうせ魔車には追い付くことなんて出来ないんだから」
ラミィはそう言いながらさっさと魔車に乗ってしまった。それもそうか。と思い、俺とウィルもラミィの横に乗車した。
ラミィが運転用の鉄の棒を握ると、魔車は風のように走り出した。景色がどんどん後ろに流れていく。この光景は何度見ても飽きない。後ろを振り返ると、もうファイスの街は遠くに小さく見えるだけだ。
この調子ならハートランド王国まで、さほどかからないだろう。久しぶりの帰郷だ。どうなっているか不安と楽しさが半分半分ってとこか。
あ!フラ-はどうしよう?……うーん。新しい生活もあるだろうし、俺達が少し落ち着いてから顔を見に行くことにするか。
などと、俺が景色を眺めながら考えている間にも、魔車はそのスピードを緩めることなく走り続ける。
「なにっ!?断られたあげく、国を出られただと!?」
使者からの報告を受けたアルフレッド王は烈火のごとく怒っていた。
「それでお前はおめおめと帰ってきたのか!バカ者が!ウィルとか言う者が他国に渡れば、いつこの国に牙を剥くか分からんのだぞ!さっさと探しに行け!見つけるまで戻ってくるでない!」
そう、使者を怒鳴り付けると玉座に音を立てて座る。
怒鳴られた使者はそそくさと謁見の間を出ていった。おそらく、ウィルを探しに行くのだろう。
「使えんバカめ。……おい!」
そうアルフレッド王が手を叩くと、目の前に黒装束の男がいつの間にか現れた。
「…お呼びでしょうか?」
「話は聞いていたな?ウィルという男を探せ。見つけて勧誘しろ。待遇は望むままだとも付け加えるのだ。そして……断るようなら、殺せ」
「はっ」
王の命令を聞いた黒装束の男は、またもいつのまにかその場から消えていた。
「よろしかったのですか?殺してしまって」
そう言いながら入ってきたのは、王の側近とも言える大臣だ。
「うむ。その力は惜しいが、他国に渡ると脅威となる。将来の危険の芽は摘んでおかねばなるまい」
「さすが陛下。先見の明がおありです」
玉座にふんぞり返りながらそう話すアルフレッド王。そしてそれをおだてる大臣。自分勝手な考えから、ウィルの命を奪えという命令を出した王は、さらに言葉を続ける。
「そんなことより、軍の準備はできておるのか?」
「はっ。もう2、3日もあれば」
「そうか。急がせろ!今がマフーンを叩く好機なのだ」
イーストエンド王国は、マフーン王国への侵攻を予定していた。
ウィルが6000もの兵をたった1人で倒したため、マフーン軍の兵力は現在かなり落ちていた。今が好機とアルフレッド王は考えていたのだ。王の頭の中では、そこにウィルも加え攻め込むつもりだったに違いない。
「ウィルとかいう者が手に入れば楽に勝てるだろう。無理ならまた周辺の街から徴兵すればよい。……確か、ファイスが一番近かったな。次はこっちが攻める番じゃ。待っておれ」
そう言うと、大臣に徴兵の指示を出すアルフレッド王。その目は野心に満ち、鈍く光っていた。