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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺がいつもより少し早くラミィの家に着いたとき、ラミィは朝食を食べているときだった。


「ひふほほり、……んぐっ。い、いつもより早いわね」



パンを頬張りながら扉を開けたラミィ。そんなラミィに促され俺は家の中に入る。



「すまんな。まだ食事中だったか?」



俺の質問にラミィは、お茶で残りの朝食を流し込んだ後なんでもないことのように答える。



「気にしないで。…それで?アンタがこんな早く来るなんて、なんかあったの?……それとも。わ、私に早く会いたかったの?」



そんな恥ずかしいならわざわざ言うなよ。と思うが、今日はそんな冗談に付き合っている場合じゃない。

俺は早速昨日の夜の事をラミィに話した。





「………なるほどね。ウィルが欲しくなっちゃったのね、その王様は。確かにウィルは強いものね」


「あぁ。それで、今日の夕方に街を出る予定なんだが、その前にラミィに頼みたいことがあるんだ」


「頼みたいこと?」



俺はラミィに、魔法の袋と魔車を貸してくれないか頼んだ。ラミィは「なんだ、そんなこと?」と快く貸してくれた。ちなみに魔法の袋のことをラミィは()()()()()()()と呼んでいるようだ。ラミィネーミングにしてはマシな方だろう。



「それで?ラミィは街を出るときから俺達と一緒に行動するのか?」



俺はラミィの指示に従い、ラミィの倉庫から荷物をマジックバッグに詰め込みながらラミィに声を掛ける。



「ん?どういうこと?」


「いや。転移石があるからあとでも合流はできるかな?と思ってさ」


「……あー。アンタ転移石のこと勘違いしてるのね。説明してなかったっけ?」



そう言った後説明してくれた。


そもそも転移石とはラミィが街に行くために開発したもので、片方の出口はラミィの家に固定されているらしい。さらに、対となる出口もどこでも良いというわけではなく、ここだと決めた場所でラミィが専用の魔法を使う必要があるらしい。しかも、その魔法も同時に2箇所が限界ということだ。



「……つまり、あの路地裏と俺の家ってことか?」


「そうよ。もともとは路地裏とお気に入りの菓子店の裏だったんだけどね」



なるほど。言われてみればその2箇所以外で転移石を使ったことはない。菓子店といえばあのクッキーの店だろう。



「…つまり、一度街を出たらしばらくここには帰ってこれないってことか?」



俺がそう尋ねると、



「そうね。まぁ1箇所はこの街に残しておくとして、もう1箇所は道中でも作れないことはないけど…。そうするとアンタの国に出口を作ったら、ファイスの街の出口がなくなるわよ。古い順に更新されちゃうから」


「そうだったのか…。ファイスの街の出口は今後のために残しておきたいとこだな」


「私もその方がいいわ。クッキーも買いたいし」



俺が思っていたより転移石は万能じゃないってことか…。まぁそれでも、遠い距離を一瞬で移動できるのはすごいことだけどな。


俺がそんなことを考えている間にラミィの準備は整ったようだ。



「さぁ。これでよし!まぁ、アンタの国に着いたらすぐに出口作って戻ってこれるしね。こんなもんでいいでしょ」



そう言うわりには大量の荷物を入れていた気がしたが。…特にクッキーを。



「次はアンタとウィルの分ね。さっさと行くわよ」



そう言って転移石を取り出すラミィ。俺も慌ててラミィの側に行く。そして、転移石の穴へと飛び込んだ。





俺の家の荷物をマジックバッグに入れ終わると、すでに正午過ぎだった。最後にもう一度家の中を確認し、忘れ物がないかチェックする。5年も暮らすと色々と愛着が沸くものだ。それら全てに別れを告げるように一つ一つ目で追う。そして、最後に1つだけ俺のベッドの上に残してあった、ブレスレットを右腕に嵌めた。

その後、ラミィを見ると俺がプレゼントした髪飾りを指差しながら笑っていた。



二人で家をでてウィルの剣術道場を目指す。いつもは賑わっている道場だが、今日は誰もいないように見える。


中に入るとウィルと見知らぬ男が中央で向き合っていた。



「おーい。ウィル」



俺が声を掛けるとウィルがこちらを振り向いた。その顔には助かったと書いてあるようだった。



「あぁ。ジャッジ様!よかった。ジャッジ様からも説明してください。私が何を言っても分かってくれないのです」



ウィルが俺の事をジャッジ様と呼んでいるのを聞いて、男はこちらを振り向いた。そして、俺の方に歩いてくる。ウィルもその後を付いてきている。



「お前がジャッジか?ウィルが主と呼ぶ」



男は口を開いたと思ったら、いきなり横柄な態度で話しかけてきた。俺は少しムッとしたが、冷静に返答した。



「えぇ。そうですが。ところでそちらはどなたですか?」



大方、アルフレッド王の使者であろうとは思っていたが、一応尋ねる。



「私はイーストエンド国王、アルフレッド様より遣わされた者だ。陛下はウィルを召し抱えても良いと仰せになっている。お前もそれで構わないな?」



使者のいきなりの失礼な発言に、俺は驚いて言葉を失う。

 

……なんて傲慢な物言いをする使者なんだ。どこの王もこんな偉そうにしてるのか?それともこいつが権力を笠に着てるだけか?


いやー。しかし、それにしてもこんな言い方をするやつによくウィルは我慢してたな。


そう思い使者の後ろのウィルを見ると、額には青筋が浮かび上がり、使者を喰い殺さんばかりの表情で睨み付けている。


このままではウィルが使者を殺しかねないと思った俺は、急いで使者に向けて答える。



「残念ながらウィルと離れるつもりはありません。これからもウィルは私の大事な従者であり、友であり続けてもらわなければなりませんので」



俺の返答が意外だったのだろう。使者は目を丸くしていたが、先程よりも語気を荒くして俺に命令するように話してくる。



「お前達に拒否する権利はない!ウィルを渡すのだ!」


「お断りします。それに俺達は元々この国の国民ではありません。その為アルフレッド王に従う義務もありません」



俺がそうハッキリ言ったのにも関わらず、使者は諦める気配はない。



「断ればこの街、いやイーストエンド国内で暮らすことも出来なくなるぞ?それでもいいのか?」



などと、今度は脅迫まがいの事まで口にしてきた。


俺達はこの足でこの街から出るし、2、3日もすればこの国からも出るから別に構わないけどな。

あー。でも残ったこの道場に八つ当たりされるのも困るしなぁ。


なんて俺が考えていると。俺やウィルより先に、隣で話を聞いていたラミィの堪忍袋の緒が切れたようだ。

ドンと足を踏み鳴らすようにして一歩前に出たと思ったら、大声で使者を怒鳴り付けた。



「さっきから話を聞いてたら、アンタ何様?ウィルは私たちの仲間だって言ってるじゃないのよ!それにこの街にも国にも未練なんかないわ!今日にも出ていくから!そもそも、ここにいるジャッジだって1国の王にもうすぐなるのよ!アンタのとこのアルフレッドだか、バターブレッドだか知らないバカ王と違って、素晴らしい王になるって私は思ってるわ!アンタはさっさと尻尾巻いて帰って、そのバカ王に無理でしたって報告しなさい!」



急にラミィに怒鳴られた使者は唖然としていたが、急に走り出すと道場から飛び出して行ってしまった。そして、道場の外からこちらに向かって「貴様ら、このままですむと思うなよ!」と叫ぶと、走り去っていった。


使者が走り去った方向を呆然と眺めながら、「まるっきり悪役の台詞だよな」などと思っていると、



「ちょっと言い過ぎちゃったかしら?」



と、ラミィがこっちを振り向きながら言うのを見て、俺は笑いが込み上げてきた。ウィルを見ると、さっきの青筋を浮かべた表情とは違い、こちらも吹き出しそうな顔をしている。



「いや。よく言ってくれた。これでアルフレッド王も諦めてくれるはずだ。……いや、バターブレッド王だったっけ?」



俺のその一言でもうウィルは我慢できなかったようだ。ウィルにしては珍しく、腹を抱えて笑っている。俺とラミィもそんなウィルを見て声を出して笑った。

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