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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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結局ラミィはパンケーキとケーキを食べきることはできず、俺が残りを食べることになった。

実はちょっと食べてみたかったので、少しうれしかった。


俺がラミィの食べ残しを食べていると、通りかかった店員さんが、


「ふふっ。彼氏さんも大変ですね」


と、話しかけてきた。それを聞いたラミィが、


「……か、彼氏。ということは、私が、か、彼女…」


と、恥ずかしがっていたのが面白かった。



その後お腹がいっぱいになった俺達は、「まだ時間が早い」と謎の言葉を繰り返すラミィの提案で、ブラブラとショッピングをしていた。

俺はラミィがかわいいと言った髪飾りを、ラミィは俺に似合うと言ってブレスレットを、お互いにプレゼントしあった。


気付けばすっかり夕方となり、辺りは暗くなってきている。

俺とラミィは集合場所である噴水広場に戻ってきていた。



さて、これからどうしよう?夕食を食べるにはまだ早いし、そもそもまだラミィはお腹なんて空いてないだろう。あんだけ食べればまだ大丈夫なはずだ。……うーん。


ベンチに座りながら次に行く場所に悩んでいる俺の横で、ラミィはさっきからなんかソワソワしている。

そして、意を決したのか俺の方を向き口を開いた。



「……ね、ねぇ。そろそろいいんじゃない?ほ、ほら暗くなってきたし…」


「……ん?暗く?なんのことだ?」



俺にはラミィの言葉の意味が想像つかない。ぼけっとした顔をしている俺に、なおもラミィは話し続ける。



「……も、もう。照れちゃって。この前私の家で約束したでしょ。私が夜景の綺麗な場所を探しておくようにお願いして、アンタも任せとけって言ってたじゃない。………そこで、て、手を繋いで夜景を見ようって」



!!?



そ、そんな約束した覚えはない。

……い、いや。ちょっと待てよ。そう言えば今日までしばらく会わないようにしようとラミィが言う前に、なんか言ってたような…。あまりよく聞かないまま返事したような…。


俺が必死にラミィの家での出来事を思い出している横で、当のラミィは期待のこもったキラキラした眼差しで、俺の言葉を今か今かと待ち続けている。



…ま、まずい。これは非常にまずい。今さら聞いてなかったなんて絶対に言い出せない状況だ。そんなことしたらもう口も聞いてもらえなくなるだろう。


……ど、どうしよう。何かないか、何かないか。どこかいい場所は…。



と、俺は必死に頭の中を回転させる。

……そして、思い付いた!


俺はベンチから立ち上がると、ラミィに向かって右手を差し出しながら口を開いた。



「も、もちろん。覚えてるさ!さぁ、行こうか」



ラミィは恥ずかしそうにベンチから立ち上がり、少し躊躇いながら俺の手を握った。



「……え、えぇ。連れていって」



俺はラミィと手を繋ぎ噴水広場を出て歩き出す。

初めて女の子と手を繋いで歩く俺には、周りのみんなが見ているように思えて気恥ずかしい。ラミィも俺の隣で一言も喋らずに歩いている。きっと同じ様に恥ずかしいのだろう。


俺は家に向かう道とは違い、昨日も通った街の南門の方向に向かって歩く。

相変わらずラミィも黙ったまま俺の隣を歩いている。



南門まで辿り着いた俺は、ここで少し待っててくれ、とラミィに言い残し詰め所に向かった。



「すみませーん。誰かいませんか?」



俺がそう声を掛けると、中から昨日も顔を見かけた兵士が出てきた。



「……はい。あっ!あなたは確か昨日の。えーっと、ジャッジ殿でしたね。昨日はあなたとウィル殿に助けられました。ありがとうごさいました!」


「いえいえ。働いたのはウィルですから」



などと言葉を交わす。そして、俺は考えていることを実行に移す為に、兵士に話しかけた。



「実は、今日はお願いがあってきたんです」


「……お願いですか?街の英雄の頼みごととあれば、何でも叶えてあげたいところですが。……私にできることでしょうか?」



兵士は、急にお願いなどど言い出した俺に困惑している様子だ。



「えぇ。実は………」



その後、無事兵士の了承をもらった俺はラミィのもとに戻った。そして、再びラミィの手を取り門に向かって歩き出す。



「ね、ねぇ。どこに行くの?」


「まぁまぁ。黙って付いてきて」



久しぶりに口を開いたラミィに軽く返事をした俺は、門の前を曲がり、城壁の上に登る階段の前まで歩く。そして、その前で立ち止まると城壁の上を見上げながら、ラミィに話しかける。



「さぁ、着いたぞ!目的の場所はこの上だ」



そう、先程兵士にお願いしていたのは城壁の上に上る許可だった。昨日この上から見たのは基本的に街の外側だったが、振り返れば街が一望できることに気付いたのだ。


本来、見回りや有事の際にしか上らない城壁の上は、一般人は立ち入り禁止だ。俺は昨日の働きがあったため、兵士が内緒にしていてくれると言ってくれた。誰もいない貸し切りだ。

ちなみに兵士にはデートですか?とからかわれた。恥ずかしかったが、「そうだ」と答えておいた。


ラミィと手を繋いだまま、城壁の上に繋がる階段を登る。結構急だがラミィなら大丈夫だろう。



最後の階段を登り、城壁の上に到着した。

そして、城壁の内側をラミィと一緒に振り向く。


そこから見る街はいつもと違って見えた。


街の随分遠くの方まで見渡すことができ、家に灯る明かりがまるで夜空の星のようにキラキラ輝いている。遠くの方に見える明かりが、さっきまで俺達がいた噴水広場だろう。綺麗な円形に明かりが並んでいる。


隣にいるラミィもこの景色に目を奪われているようだ。じっと黙って俺の手を握っている。



「…………綺麗ね」



そう、ポツリと呟くラミィ。



「そうだな」



俺も返事を返す。



そのまましばらくその場で景色を眺めていたが、ラミィがバックの中をゴソゴソしていたと思ったら、例の魔法の袋を取り出した。そして、その中からなんと木製のベンチを取り出した。


「準備がいいな、さすがラミィ」


「ふふっ。そうでしょ?」



そう言い合いながら二人でベンチに座った。もちろん手は繋いだままだ。

城壁の上は風も強く結構寒い。暖かいのは繋いだ手の平だけだ。



「……いい場所ね、ここ」



そう言うラミィはまだ夜景を眺めている。その横顔は穏やかに微笑んでいるようだ。

……そうだ。あのことを聞いておかないと。と思い出した俺はラミィに話しかける。



「なぁ、ラミィ。前にも話したんだが…。俺とウィルはもうすぐこの街を出ることにした。実は昨日もいろいろあって、いつとは言えないがもしかしたらすごく早くなるかもしれない。この街を出たらハートランド王国に戻るつもりだ。それで、それでだ……」



そこまで話した俺は言葉に詰まった。


……もし、ラミィが付いてきてくれなかったらどうしよう。その恐怖心が俺の心の中を支配し、次の言葉が出てこない。


そんな俺をじっと見ていたラミィだったが、



「……行くわよ。私も付いていく。当たり前でしょ!」



当たり前のようにそう言った。そして、俺の手を離しベンチから立ち上がると、いつものポーズで続けてこういい放つ。



「この不世出の天才美人魔女のラミィちゃんが、付いていってあげるから感謝しなさい!ついでにアンタの魔法の訓練も続けてあげるわ」



その言葉を聞いた俺は、今まで悩んでいた自分がバカらしくなり、思わず笑ってしまった。そして、そのまま口を開く。



「ハハハ。よろしく頼むよ。ラミィ」


「えぇ。任せなさい!……って、なんで笑ってるの?」




その後もラミィとしばらく夜景を眺めた後、俺達は城壁から下り夕食を出す店まで歩き、食事を共にした。帰りは俺の家から転移石を使うというラミィと一緒に家に帰ったのだが、ずっと手を繋いでいたのを忘れていたため、しっかりウィルに見られてしまった。



手はすぐに離したのだが、ウィルはなにも言わずニヤニヤしているし、ラミィはすぐ帰るしで残された俺は気まずかった。

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