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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「……うそだろ!?」



窓から漏れる光を見た途端、そう言って飛び起きる俺。ベッドから跳ぶように降り、急いで顔を洗うために洗面所に向かう。



「…ん?おはようございます。ジャッジ様」



先に起きて、台所にいたウィルがそんな俺に気付き挨拶してくる。昨日あんな働きをしたのに、もう起きていたようだ。今は朝食?昼食?の準備をしている。


そんなウィルに、「あぁ、おはよう」と返し、急いで顔を洗う。そして、その足で部屋に戻りクローゼットを開けた。少ない服のなかから、一番マシであろう服に着替え、リビング向かう。


ウィルは食事の持った皿を持って、ちょうどリビングに来たときだったようだ。やたらと焦っている俺に声をかけてきた。



「……そんなに急がれてどうしたのですか?なにかご予定でもありましたか?」


「今日はラミィとの約束の日なんだ!寝坊した!」



それを聞いたウィルは、前に俺が話していたことを思い出したようで、



「あぁ。確かカフェに行くと仰っていましたね!……それならばもう少し早くお声を掛けるべきでした。申し訳ありません。昨日の事があったので、お疲れになっているのだろうと……」



と、申し訳なさそうに謝ってきた。


そんなウィルに気にすることはない、と言う風に首を横に振りながら俺は話す。



「ウィルが悪いわけじゃないよ。俺が寝坊してしまったんだ。……というわけだから、せっかく用意してくれたけど食事はいらないよ。それと、帰りは遅くなるけど心配しないでくれ」



その言葉を聞いたウィルは、少し何かを考えていたようだったが、ふと立ち上がり俺達が金庫として使っている隠し戸棚から、金貨を一掴み取り俺に差し出してきた。

そして、俺に向かって大事なことを話すときの表情でこう言った。



「ジャッジ様。昨日のマフーン軍襲来騒ぎで、ジャッジ様と私の特異さが人々に知れ渡ってしまいました。…おそらく、もう今までと同じ様に暮らすのは難しいでしょう。場合によっては、すぐに街を出なくてはならなくなるかも知れません。そうなると、この街でゆっくりラミィ殿と過ごせるのは今日が最後。……ジャッジ様。この金貨でラミィ殿と、最高の思い出を作って来てください」


「ウィル……」



ウィルの言葉を何度も繰り返し考える。

……確かに、もうこの街にいるのは難しいかもしれない。あれだけの働きをしたウィルを、放っておくはずはないだろう。なんとか味方として囲っておこうとするはずだ。…だが、俺達はどこにも属するつもりはない。俺達が属するのは、ハートランド王国だけだ!

元々この街を出ようという話にはなっていた。それが少し早まっただけと考えればいい。


と、そこまで考え、ラミィとの約束の時間を過ぎていることを思い出した俺は、



「わかった!ありがたく使わせてもらうよ。それじゃ、行ってくる!」


「楽しんできてください。お気をつけて」



と、ウィルに見送られて家を出た。



家を出た俺は、約束の噴水広場まで駆け足で急ぐ。季節はすっかり冬となり、辺りの空気も冷たく澄んでいる。俺の吐く息も白い。ラミィはもう着いてるよな?怒ってるかな?などと、考えながら走っていると噴水広場が見えてきた。



「おっそーい!!」



噴水広場の入り口に着いた途端、そうラミィに怒鳴られた。どうやら結構待たせてしまったみたいだ。元々の約束の場所は中央にあるベンチだったのに、入り口付近まで来ている。



「す、すまん!寝坊してしまった。」



そう謝りながらラミィの姿を改めて見ると、いつものラミィとは大分装いが違う。いつもは動きやすい格好が多いが、今日はスカートだ。膝より少し長めの柔らかそうな生地のスカートに、襟のかわいいシャツを着て、暖かそうな上着を羽織っている。


俺がラミィの姿をじっくり眺めていると、それに気付いたのだろう。ラミィが顔を赤らめながら俺に言ってきた。



「…な、なによ。そんなジロジロみて。私がスカート履いてるのがそんな珍しいの?………へ、変?」


「いや、いつもと格好が違うからビックリしただけだ。スカートも似合ってる。(スカートのデザインも)すごく可愛いよ」



俺が素直に感想を言うと、ラミィは「か、かわいい……」と呟き、さっきよりさらに顔を真っ赤にしてしまった。

そして、いつもはさっさと先に行ってしまうのに、今日は俺の横に並び口を開く。



「さ、さぁ、行くわよ。早くしないと特別メニューが売り切れちゃうわ!」


「あぁ。急ごう」



そう返事をして、俺達は並んで目的の店まで歩いた。冬だと言うのに、噴水広場にはたくさんの人がいて、中には肩を寄せあってベンチに座る男女もいた。

俺達もあんな風に見えるのかなぁ。と、思いながらラミィと連れだって歩く。




目的の店は結構混んでいた。少し待たされた後、席に案内された俺達は無事特別メニューを注文することができた。



「よかったわ。まだ残っていて」



そう言いながらテーブルに頬杖をつくラミィ。そんなラミィを見ながら俺は質問をする。



「お前あんなに頼んで大丈夫か?食べきれるのか?」



ラミィは特別メニューの他、パフェとワッフルも注文していた。俺はレインボージュースとか言う、何が入っているか分からないジュースだけだ。



「甘いものならいくらでも入るわ!それに、無理なら少し食べてアンタにあげればいいもの」


「なっ!?」



………な、なんて自分勝手な理論なんだ。だが、ラミィらしいと言えばラミィらしい。…仕方ない。今日はラミィのしたいようにさせてあげよう。ウィルも言ってたように、最高の思い出をつくるんだ。


そう、悲壮な覚悟を決めた俺の前に、注文したジュースが運ばれてきた。思ったより美味しそうだ。よかった。

……そしてラミィの前には、3つの甘味が並んでいる。


どうやら特別メニューとはパイのようだ。寒いこの季節にはピッタリだ。しかも、どれも小振りの皿にちょこんと載っている。値段を考えると少なすぎる気もするが、今日に限っては助かったと言うべきか。


ラミィは運ばれてきた甘味に目を輝かせ、


「いっただっきまーす!」


と、言った後猛烈な勢いで食べ始めた。もうその目には甘味しか映っていないだろう。俺は意外においしいレインボージュースを飲みながら、夢中で甘味を頬張るラミィを眺めていた。

………あぁ、そうだ。街を出ることについても話をしとかないとな。ラミィはついてきてくれるかな?


そんなことを考える俺の前で、ラミィは幸せそうな笑顔でパフェを食べていた。その頬にはクリームが付いている。




注文した全てを一人で食べきったラミィは、しばらく満足そうにしていたが、



「さぁ。次に行くわよ!次はパンケーキよ!」



と、言うなり店を出ていってしまった。


俺は仕方なしに会計を済ませ店を出る。ラミィは店を出たところで上を見上げながら待っていた。そして、俺に気付くと近寄ってきた。



「……まだ少し早いかしら?さあ、行きましょう」



時間を確認していたのか、そう言った後俺の横に並び歩き始めた。



パンケーキを出す店にはすぐに着いた。今度はさっきほどは混んでなく、すんなりと席に案内された。ここでもラミィはパンケーキと、ケーキを注文していた。俺は紅茶だけだ。朝から何も食べていないのだが、ラミィが食べているのを見ているとお腹いっぱいになった気分だ。



「……こ、これが。噂のパンケーキ…」



ラミィは待ち焦がれたパンケーキを前にして感動しているようだ。俺も初めて見るパンケーキとやらは、薄く焼いたパンが重ねてあり、その上から蜂蜜がかかっていておししそうだった。



「…い、頂きます」



そう言って食べ始めたラミィは一口食べて感動している。


ラミィが楽しんでいてくれるようでよかった。こんなに喜んでくれるなら、たまにこうして出掛けるのもいいかもなぁ。

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