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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィと甘いものを食べに行くというデート?の約束まであと2日に迫ったある日、俺は時間をもて余していた。



「あー、暇だなぁ。ラミィのとこに行けたらなぁ」



海で大津波に襲われそうになった日、帰り際に急にラミィが当日まで会わないようにしようと言い出した。なぜそんなことをラミィが言うのか分からない俺は、当然理由を聞くがラミィは頑として教えてくれなかった。

さっぱり理由の分からない俺だったが、ラミィの機嫌も悪そうではなかったので、仕方ないと了承した。



それからまだたった3日しか経っていないのに、もう俺のすることは残っていなかった。


一人で過ごす初日は、久しぶりに一人で散歩をしたりウィルの為に食事を作ったりと、新鮮でなかなか充実していた。

2日目である昨日は、散歩をした後、早速なにをしたらいいか分からなくなったが、家の掃除やウィルの剣術道場の見学などで時間を潰した。ちなみに、突然俺が道場の見学に来たもんだから、ウィルが妙な張り切り方をしてしまい、ウィルのファンである奥様方は大興奮でキャーキャー言っていた。


そして今日だ。もう散歩はしたくないし、家も掃除する場所はない。朝、出ていくウィルに「今日は家でゆっくりお休みください」と、やんわりと道場の見学も断られている。かといって、ベッドでゴロゴロするのは体調が悪い時に一生分したので絶対にごめんだ。


さぁ困った。まだ時間で言うと朝だ。一日はこんなときだけ長い。


散歩はもう十分したとは言え、家の中にいるよりはマシだろうと噴水広場を目指す。ラミィと出会ったあの場所は、この街一番のお気に入りの場所だ。





噴水広場の中央付近、噴水のよく見えるベンチに座り、俺は水の流れる様子をボーッと眺めていた。


ここ、ファイスの街は近くを大きな川が流れており、水には不自由していない。また、上水道も整備されておりとても快適だ。



「あの噴水より勢いがよかったよな、俺の水魔法は…。あれくらいなら俺もずっと出し続けることができるかな?」



なんてことを考えていると、噴水広場を突っ切るように兵士が数人走ってきた。その顔は長く走ってきたのだろう真っ赤に染まり、皆一様に必死な表情をしている。その先頭を走っているのは、あれは……ロック兵長だろうか?


その集団が俺の横を通り過ぎようとしたとき、ロック兵長が俺に気づいたのだろう。勢いそのままに駆け寄ってきた。



「じ、ジャッジ殿!ちょうどよかった!ウィル殿はどちらですか!?」



そう息を切らしながら尋ねてくる。



「ウィルですか?この時間なら道場にいると思いますよ。それより、そんなに急いでどうしたんです?」



必死で走ってきたロック兵長は膝に手を付き苦しそうだ。少し息を整えてから、他の兵士に先に行くよう指示を出し、俺の質問に答えてくれた。



「実は………この街に他国のものと思われる軍が迫っているのです!それで、私達も急遽、門の守備を固めるために配備し直しているところなのです」


「なっ!?この街が襲われるってことですか?」



ロック兵長の言葉に驚く俺。そんな俺に対してさらにロック兵長は言葉を続ける。



「それはまだわかりません。しかし、事前になんの報告も受けていない以上その可能性が高いと思われます。仮にその軍が攻撃を仕掛けてきたとしたら、国軍が到着するまで私達だけでこの街を守らなくてはいけないのです」



そう話すロック兵長の顔は悲壮感に包まれている。


その軍がどの程度の規模なのかは分からないが、現在ファイスの街にある戦力で、街を守りきるのは厳しいのかもしれない。

それにしても、そんなに急いでいるのに、なぜウィルのことを聞いてきたのだろうか?



「…状況は分かりました。しかし、なぜウィルのことを?」



そう聞く俺に、ロック兵長は懇願するような眼差しを向けてきた。



「この街を守る為に、ウィル殿の力を貸してほしいのです!先日の盗賊団討伐の成果を見ても、ウィル殿の実力は明らか。ウィル殿が本気を出せば、私達が束になっても敵わないでしょう。是非!ジャッジ殿からも頼んで下さいませんか?どうかお願いします!」



そう土下座をせんばかりの勢いで頭を下げるロック兵長。

確かにウィルがいれば、百人力どころじゃなく万人力だろう。大きく守備戦力は上がるに違いない。この街がこのままではまずいってことも、ロック兵長の話で分かった。


…しかしなぁ、ウィルが了承するとは思えないんだよなぁ。きっとウィルのことだから、この話を聞いたら「このままここにいては危険です!ジャッジ様、一緒に街を出ましょう!」と、言いそうな気がする。いや、間違いなく言うだろう。

俺もこの街で暮らして長いから、なんとかしてあげたい気持ちがないわけではないが…。その為にウィルを危険な目に合わせるのはイヤだしなぁ。


俺がそう考えながらふと隣のベンチを見ると、小さい子供を連れた女性が、子供と一緒にクッキーのようなものを食べていた。

……あぁ、街が襲われたらこんな平和な光景もなくなってしまうのかなぁ。などと考える。


子供も幸せそうな笑顔でクッキーを頬張っている。

……クッキー?…………はっ。そうだ!ラミィと甘いもの食べに行く約束があるじゃないか!しかも2日後、つまり明後日だ!


そう思い出した俺は、バッと顔をロック兵長に向け直す。



「すぐにウィルの所に向かいましょう!俺も協力します!なんとしてでも明日中には敵を撃退しましょう!」


「へ?え、えぇ。ありがとうございます!…ち、ちょっと。待って、待ってください!ジャッジ殿」



俺はそうロック兵長にいい放つと、返事も待たずに走り出す。


なんとしてでもウィルに協力させなければならない。そして、明日中に敵を撃退するしかない!もし、ラミィが甘いものを食べに行けないと知ったら……。怒るかもしれない。いや、怒るだけならまだましだ。泣いちゃうかもしれない。……それだけは、なんとしてでも阻止しなくては!


俺は強い決意を胸に秘めながら、ウィルのいる剣術道場への道を全速力で走り続けた。





剣術道場に俺とロック兵長が着いたとき、ウィルはまだ指導中だった。道場の中からは子供達の気合いを入れる声が響き、床を踏み鳴らす音も聞こえる。



「よし、行きましょうか」


「はい。どうかジャッジ殿、よろしくお願いします!」



そう声をかけ合い、道場の敷居を跨ぐ。


道場の中には大勢の子供達がいた。このウィルの剣術道場は女の子も通えるため、ちらほら女の子の姿も見える。男の子に混じって勇ましい掛け声をあげている。


俺がそうやって辺りを見回していると、ウィルがこちらに気付いた様で歩いて向かってきた。



「ジャッジ様。どうなされたのです?今日は家でゆっくりとなされるはずではなかったのですか?…しかも、ロック兵長まで連れて」



そう問い詰めるような表情で声をかけてきた。


…そうだった。今日は家にいるようにとウィルから言われていたんだった。しかし、事情が変わったのだ。仕方ないだろう。



「そのことは後で説明するとして。実はな、ウィルに頼みたいことがあるんだ!しかも至急!」


「……至急?それはいますぐということですか?わ、わかりました!ジャッジ様がそこまで仰ると言うことは、よっぽどの事なのでしょう。ちょうど午前の指導が終わる頃です。すぐに解散にしてきますので、今しばらくお待ちください!」



俺の表情を見て、なにか感じるものがあったのだろう。ウィルは足早に道場の上座に戻ると、大声で今日の指導は終わりだということを伝えていた。


子供達の反応は声を上げて喜ぶ者、残念がる者と様々だったが、後片付けをした後、三々五々道場を後にしていった。

ちなみに一番残念がっていたのは、窓格子の外で観戦していたウィルのファンの奥様方だった。

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