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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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翌日は快晴で空気は澄みわたり、この時期にしては気温も低かった。

ラミィの家に着いた俺は、家の外で魔車とともに待ち構えていたラミィに声をかける。



「おはよう、ラミィ。…ほんとに今日海に行くのか?寒くないか?」


「えぇ、そうよ。ただ、確かにちょっと寒いわね…。上着を取ってくるから少し待ってて」



と、家の中に上着を取りに行ってしまった。

どうやらなんとしてでも海に行くつもりらしい。海じゃないといけない理由があるのかもしれない。……よし。俺も覚悟を決めて卒業試験に向かおう。



「おまたせ。今日は忘れずに手袋ももってきたわ。えらいでしょ?」


そう笑顔で言いながら帰ってきたラミィと、魔車に乗り込む。今日も運転はラミィだ。俺は隣に座り上着の襟元をしっかりと閉めた。ラミィは大丈夫かな?と隣を見ると、手袋をしようとしているラミィは着ぶくれするくらい上着を重ねていた。うん。こんだけ着れば寒くないだろう。


魔車が出発し、前回と同じ道のりを走る。俺は観光魔車ツアーの客となり景色を楽しむ。何度見ても魔車の上からの景色は飽きない。

隣のラミィは手袋をした自分の手を見た後、俺の手や顔をチラチラ見るという行為を繰り返している。

………そんな見ても握らないぞ。手袋してるだろ。




そうこうしているうちに、この前と同じ海岸に到着した。俺達が座った流木もそのままだ。

距離にすると結構あるはずだが、魔車からの景色を楽しんでいた俺にはすぐ海に着いたように感じられる。



「それじゃ、始めましょうか」



ラミィが砂浜に立ったまま、俺の方を見てそう言う。



「あぁ、よろしく頼む。…だが、いったいなにをするんだ?この場所じゃなきゃできないことなんだろ?」



俺が質問すると、ラミィは海の方を指差しながらこう言った。



「魔法に海に向かって放つのよ。だからこの場所じゃなきゃいけなかったの」



海に?なぜ?

俺が不思議そうな顔をしていたのがわかったのだろう。ラミィは続けて質問してきた。



「アンタ魔法を学び始めてから、全力で魔法を使ったことある?」



……そういわれれば、無いかもしれない。魔法を使うときは、いつも最小の威力で使うよう意識してきた。まぁ、決してうまくいっているとは言えないが。唯一そのことを意識せずに魔力を使ったのが、初めて魔車に乗ったときだ。その結果魔車を暴走させてしまった俺は、なおさら最小の威力で魔法を使うよう意識するようになった。



「……ないな」



そう答える俺にラミィは満足そうに頷く。



「でしょ?アンタはそのバカみたいな魔力のせいで、どんな魔法でも威力がとんでもないのよ。そのせいで自分の限界が分からない。だから、今日はこの海に向かって全力で魔法を放ってみなさい!自分の最大火力をしっておくのも大事よ?」


「…そういうもんか?」


「そういうもんよ!」



……まぁ、ラミィがそういうなら間違いないんだろう。魔法に関してはラミィに一日の長があるしな。それに、これからハートランド王国再興を目指すなかで、誰かと闘わないといけないことも出てくるだろう。そんなときウィルに頼りっきりじゃなく、俺も魔法で戦えたら役に立てるかもしれない。


そう考えた俺はラミィから少し離れ、海に向かって立つ。そしてなんの魔法を放とうかすこし考える。

すると、ラミィが声を掛けてきた。



「まずは、水からにしましょうか?そのあと、土、風、火ときて、最後に氷よ。わかった?」


「えーっと、水、土、風、火、氷の順番だな。わかった、やってみる」



ラミィの指示を口に出しながら繰り返した俺は、再度海に向き直り集中する。いつもは抑えている体内の魔力の制限を解除する。すると、全身を光の渦が高速で循環し、体が光輝いてきた。


……よし、もういいだろう。まずは水だったな。



「水よ!出ろ!」



と、イメージを口に出し叫ぶ。

ラミィのように変な名前をつけるのも恥ずかしいし、無言ってのも面白くない。と、思った俺は、頭の中のイメージをそのまま口に出す事にしていた。不思議なことに、口に出して魔法を使い始めてから、前より思った通りに魔法が使えるようになっていた。



ドドドドッ!!



前に出した俺の両手の少し前からものすごい勢いで水が出ていく。ハートランド王国で一番大きな滝よりもすごい勢いだ。毎秒何万リットルとかいう位だろうか?この勢いなら小さな城くらいだったら押し流せそうだ。


次に俺は両手のあたりから流れているだけの水に、直線的に強く、速く、遠くにというイメージを与える。すると、まるで水鉄砲を何万倍かにしたかのような水が、遥か遠くの水面まで飛んでいった。


ドーーン!


という音のすぐ後に、俺の水鉄砲が着水したであろうあたりから、水柱が上がる。ここから見ると小さいが、おそらく10メートル以上は上がっているだろう。



「おぉっ!」


「……う、うわぁ!?」



思わず俺とラミィは声をあげる。


面白くなってきた俺は、その後も超巨大水鉄砲を左右いろんな場所に撃ち込み遊んでいたが、久しく感じていない倦怠感が体を襲ってきたところで終了とした。


思わず砂浜に座り込んだ俺に、ラミィは近付きながら話しかける。



「いやー。すごい威力だったわね!アンタぐらい魔力があると、あんな威力になるのね。よかったわ、家のまわりでしなくて」


「…あ、あぁ。俺もあそこまでとは思わなかった」



怠そうにしている俺に気づいたのだろう。ラミィは俺の顔を覗き込むような仕草をした後、



「アンタ、さては怠いのね?…まったく。調子に乗ってバンバン使うからよ」



と、言い俺の隣に座った。



「しばらく休んでれば、アンタの場合はすぐ魔力も回復するわ。次からは1発か2発だけにしときないさいよ」


「あ、あぁ。そうするよ。ちょっと横になっていいか?前は普通だったけど、久し振りだとこの怠さは結構辛い」



おそらく、体内の魔力を大量に放出したことが原因の魔力不足だろう。他の人で言うと貧血みたいなものだろうか?


砂浜に横になろうとする俺。すると、ラミィが自分の膝を叩きながら言った。



「……こ、ここに寝てもいいわよ」



どうやら膝枕をしてくれるつもりらしい。そう言うラミィの顔は真っ赤だ。恥ずかしいのに俺のために我慢してくれているのだろう。……まったく、可愛いやつだ。



「いいのか?…じゃあ失礼して。重かったらすぐ言ってくれ」



と、素直に好意を受け入れる。

ラミィの太ももは小さくて、俺の頭が載るとそれだけで一杯だった。そして、柔らかくて温かかった。




少しウトウトとしてしまった後。しばらくして魔力の回復した俺は、次の土魔法を海に向かって放つ。

始めはただ巨大な岩石を放っていただけだったが、ラミィに言われたように意識すると、海底を盛り上げて砂浜を海側に広げることも出来るようになった。


「いろんな使い方があるんだな」


と、感心しながら言う俺に、


「大事なのはイメージよ。魔法に不可能はないわ」


と、ラミィにしては珍しく師匠っぽいことを言っていた。

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