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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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俺がラミィの家から帰ると、すでにウィルは戻っていた。



「もう帰ってきてたのか。すまん、俺の方が遅くなってしまった」


「いえ、私も今戻った所です。それよりもジャッジ様、これをお納めください」



遅くなったことを謝る俺に、ウィルは重そうな袋を渡してきた。これは、懸賞金かな?と思いながら袋を開けると、重そうな袋いっぱいに金貨や銀貨が入っていた。



「な…!?これは懸賞金か?こんなにいっぱい!?多すぎないか?」



俺が驚くのも無理はないだろう。盗賊の懸賞金と言えばせいぜい1人あたり金貨1枚がいいところだ。今回は12人だから金貨12枚だ。ところが俺が開けた袋の中にはどう見ても100枚以上の金貨と、さらには銀貨まで入っていた。


ちなみにこの世界はほとんどの国で共通の貨幣を使用している。小国が多く戦争が絶えないからこそ、自国だけでしか通用しない貨幣を作るリスクが高いのだ。

金貨は1枚で銀貨10枚。銀貨は1枚で銅貨10枚と交換できる。一般の人の一月の稼ぎがだいたい金貨20枚ほどだから、いかにこの懸賞金が高額か分かるだろう。



「…それがですね。どうやら今回討伐した盗賊団は、この国を中心に各地で暴れまわっていたらしく、国内の各街からの懸賞金も合わせるとこんなに多くなったようです」



驚く俺にウィルが詳しく説明してくれた。

懸賞金は個人が掛ける場合もあるが、基本的には国や各街が掛ける。今回は懸賞金を掛けていた街が複数あったということだろう。



「…しかし、多いな。こんなにあっても何に使えばいいのかわからんな」



生活に必要なお金は、ウィルの剣術道場で十分に稼げている。本当は俺もなにか働いた方がいいのだろうが、前にウィルに相談したら絶対にダメと言われたからな…。今はラミィのところで魔法の訓練をするくらいだから、お金はほとんどかからないし。……あれ?そういえばラミィってどうやってお金を稼いでいるんだ?今度聞いてみよう。


大金を前にして使い道を悩む俺に、ウィルが提案してきた。



「ジャッジ様。これをハートランド王国再興の為の資金として役立てて頂けないでしょうか。この程度ではまだまだ足りないと仰るなら、この辺りの懸賞首を狩り尽くしてきてもかまいません!」


「…!?い、いやいや、十分だよウィル。そこまではしなくてもいいい。……しかし、そうだな。俺の体調も良くなったし、そろそろ本格的に動き出す時期なのかもしれないな」



ウィルが恐ろしい提案をしてきたので慌てて断る。ウィルなら懸賞首くらいは、本当に根こそぎ狩ってきそうだからなおさらだ。しかし、良い機会かも知れない。なにをするにも先立つものが必要だし、このお金は有り難く使わせてもらおう。ウィルががんばって稼いできたお金だ。大事に使おう。



「いつ旅立っても良いように、道場の経営はいつでも引き継ぎができるよう準備はしております。あとはジャッジ様のお考え次第です」



そう言うウィル。

俺が寝込んでいる間にもずっとハートランド王国の事を考えていてくれたのだろう。もう5年も俺の為に尽くしてくれている。ウィルが一緒にいてくれて本当によかった。俺は幸せ者だ。



「わかった!まだ日にちははっきりしないが、近いうちにこの街を発とう。最初はウィルと2人だけでも構わない。あの平和なハートランド王国を蘇らせよう!」


「はっ!……そのお言葉5年もの間お待ちしておりました!ジャッジ様もご立派になられて…うっ……」



俺がそう言うと、バッと俺の前に跪き声を詰まらせて返事にするウィル。5年も待たせてすまなかったな、ウィル。……しかし、最近俺に対するウィルの言葉遣いが、また丁寧になってきている気がする。そういうのはやめてって昔言ったんだけどなぁ。…まぁウィルもいい歳だし頑固にもなるか。好きにさせておこう。



「そうと決まれば、まずは腹ごしらえじゃあ!腹が減っては戦はできぬと古より申すもの!ほれ、余に食事を持ってまいれ!」



突然変な口調で話し出した俺をびっくりして見ていたウィルだったが、



「…は、ははぁ!ただいまお持ちいたします陛下。しかしその前に!その麗しくも雄々しい陛下の御手を、お水で御綺麗になさって……ぷっ」



と、そこまで言ったところで吹き出してしまうウィル。俺もそれを見て笑いが止まらなくなった。腹を抱えて笑う俺達。



「……う、ウィル。そ、それはあんまり……ぷっ、ハハハッ」


「じ、ジャッジ様こそ。そんなしゃべりかたっ……ぷっ」



お互いの顔を見ながら笑う俺達。ウィルも楽しそうだ。

俺はまわりにいる人たちに恵まれている。ウィルもラミィも最高だ。


父上、母上。私は幸せに生きております。もうすぐ父上たちの眠る地に戻れるはずです。もう少しだけお待ちください。






翌日はラミィの家に魔法の訓練に向かった。


魔法の訓練を始めて結構経つ俺は、いわゆる()()と呼ばれる魔法はほとんど使えるようになっていた。



「それで?次はどんな魔法を教えてくれるんだ?」



新しいことが出来るようになっていくことが楽しくてしょうがない俺は、先を急かすようにラミィに尋ねる。

そんな俺を見ながらなにかを考えていたラミィだったが、しばらくすると口を開いた。



「……そうね。もう今のところは教えることはないわ」



!!?……教えることがない!?まだまだ魔法の訓練は始めたばかりだと思っていたが…。どういう意味だ?

と、混乱する俺。そんな俺に対してラミィは言葉を続ける。



「あくまでも、()()()()()()よ。アンタのその多すぎる魔力を、どうにかコントロールする方法を見つけるのが先ね。ここから先は繊細な魔力の使い方が必須なのよ」



……な、なるほど。そういうことか。よかった…。もう俺に魔法を教えるのが嫌になったのかと思った。

しかし、そういうことなら魔法については一段落ついたと思っていいだろう。もちろん、これからも魔力のコントロールの訓練は続けていくつもりだが。



「そういうことならわかった。今までありがとう、ラミィ」



ラミィの言葉の意味を理解し、今までの感謝の気持ちを伝える。すると、ラミィは急に慌てだし、早口で俺に向かって口を開いた。



「だ、だからといって!もうココに来なくていいってわけじゃないのよ!ちゃんと毎日来て魔力のコントロールの訓練を続けなさい!」


「あぁ、わかってるよ。今まで通りココで訓練は続けるさ。ラミィに会えなくなるのも寂しいからな」



そう話す俺の言葉を聞いたラミィは、バッと急に後ろを振り向き、そのままの格好で



「……わ、わかってれば、いいのよ」



と、小さな声で言った。


俺だってラミィに会えなくなるのは寂しいし、もっと魔法について知りたい。あ!そうだ!昨日ウィルと話していた旅立ちについてもラミィにも聞いておかないといけない。

ちょうど訓練も一段落ついた所だし、前は一緒に来てくれると言っていたが…。やっぱりもう一度確認しておくべきだろう。あれから色々あったし、ラミィの気も変わったかもしれない。……一緒に来てくれたらいいなぁ。


などと考えた俺が、どう話を切り出そうか悩んでいると、



「それじゃ、明日は最後の訓練に海に行くわよ!」



と、いつのまにかこちらを向いていたラミィが話した。



「…海?そんなところまで行ってなにするんだ?」


「ふふふ。それは行ってのお楽しみよ。いわば卒業試験みたいなものね」



不思議そうな顔で尋ねる俺に対して、ラミィはなんか楽しそうだ。いたずらっ子のように目を輝かせて笑っている。


……なんか企んでるんじゃないだろうな?ラミィのことだから予想もつかないことを言い出しそうで怖い。

だが、卒業試験だと言うなら全力で挑もうと思う。

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