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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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テントを片付けた俺達は盗賊団討伐の証拠をどう持ち帰ろうか相談していた。



「私は絶対にイヤよ!絶対私の袋には入れないわ!」


「そこをなんとか頼むよラミィ」


「お願いします!ラミィ殿」


「イヤ!ぜーーったいに、イヤ!」



この世界で盗賊団などを討伐した証拠として一般的なのは頭部である。その為、俺達がテントの片付けなどをしている間に、ウィルはまだ原型を留めている頭部を集めてきていた。その頭部は計12にも及んだ。

実際盗賊団の数はもう少し多かったのだが、ウィルが派手にやり過ぎたためその数になったようだ。


さて、その頭部をどう持ち帰るかの話になったのだが、俺がラミィの魔法の袋を使ってはどうか?と提案し、俺とウィルの中では決まりかけていたのだが、肝心のラミィの猛反対にあっていた。



「…仕方ないか。しかし、そうなるとこれだけの頭部をどうやって持って帰るかだな」


「仕方ありません。当初の予定通り、頭目とおぼしき男のものだけにしましょう」


「しかし、せっかくウィルが倒したのにもったいないなぁ…」



俺が全員分の頭部を持って帰りたいのには訳がある。今回のように、派手に稼ぎ回って下手に有名になってしまった盗賊には、懸賞金がつく事が多い。もちろん今回の盗賊団にもついている。その際討伐した人数×いくら、という具合に懸賞金が支払われるため出来るだけ多く頭部を持って帰った方が得なのだ。



「…なぁ、ラミィやっぱだめか?」



どうしてもウィルの3日間の努力の結晶ともいえる懸賞金を諦めきれない俺は、ずるいと分かりつつもラミィの正面に立ち、俺より大分低い位置にあるラミィの頭を撫でるように、その綺麗な黒髪を触りながら再度聞く。


俺に髪を触られたラミィは、一度睨むように俺を見た後、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。そして、こちらを見ないまま、



「……大きい袋なら貸してあげるわ。それに入れればいいじゃない。…その代わり、なんか奢りなさいよ!」



と、言いながら大きな袋を貸してくれた。



「ありがとう。ラミィ!なんでも奢るよ!」



そう言いながら、ラミィの頭をポンポンと2回軽く撫でるように叩き、袋を持ってウィルのところへ急ぐ。ふとラミィの方を振り返ると、



「……こ、これが、あの噂の、あ、頭ポンポン」



と、硬直している。…かわいいやつだ。



ウィルと共に盗賊団の頭部を集め、袋に入れる。結構大きな袋だったが一杯になった。中を覗くと、生気の無い目がこちらを見ているような気がして気味が悪かった。ウィルは平気なようで全然気にしている様子はない。さすがだ。





その後魔車で街の近くまで走り、そこからは徒歩で街の門を目指した。ウィルは初めて乗る魔車の速さにすごく驚いていた。


「これならハートランド王国までもすぐですね」


と言っていた。そう言えばあれから1度もハートランド王国があった場所には帰ってないな。今度行ってみようか?……というか俺はいつまでファイスの街にいるつもりなんだ?などと俺は考えていた。

ちなみに、袋に入れた盗賊の頭部は魔車の後ろ部分に引っかけて持って帰ってきた。……多分途中で落としてはないと思う。




街の門に辿り着いた時にはすっかり太陽は中天にあり、おそらく正午といったあたりだろう。

門番の兵士に盗賊の討伐を終えて帰ってきた事を伝えると、労いの言葉と共に快く通してくれた。また、ロック兵長への伝令として、もう一人の兵士は走っていってくれた。


ロック兵長が来るまでその場で待つつもりだったが、よく考えると俺とラミィが、ウィルと一緒にいるのは変だということに気付き、先に帰ることにした。



「ジャッジ様とラミィ殿の働きがあってこその成果です!このままだと、成果を独り占めしたようで申し訳ありません」


「まぁまぁ。結局盗賊団を討伐したのはウィル1人だった訳だし。それに俺達がいたら説明がややこしくなるだろ?魔車のこともテントのことも、とても話せないし。ラミィもなんか奢ってもらえばそれでいいって言ってくれてる。だから、あとは頼んだぞ!ウィル。くれぐれも俺達のことは話に出すなよ。じゃあな!」



ぐたぐだ言うウィルをその場に置いて、俺とラミィは先に帰ることにする。まだしばらくウィルが帰ってくるまでには時間があるだろう。



「どうする?どこか寄っていくか?」



そうラミィに聞くと、ラミィは首を振って答える。



「私はとりあえず家に帰りたいわ。なんか疲れちゃった」



ラミィも慣れないテント泊まりで疲れたのかもしれない。それ以外にも色々あったしな……。



「わかった。じゃあラミィの家に帰ろう。……俺も行っていいのか?」



俺の疑問に不思議そうな顔をするラミィ。



「当たり前じゃない。アンタなに言ってるの?」



よかった。いいみたいだ。昨夜の事があってから妙にラミィを意識してしまう。俺にあんなにひどいことされたラミィはいつも通りなのに。…いかん。こんなことじゃダメだ。俺も今まで通りラミィに接するようにしないと。



「……いや、なんでもない。それじゃ行こうか」


「…?えぇ。行きましょう」



2人で並んで家までの道を歩く。なんか無言になってしまった俺とは違い、ラミィは色々と話しかけてくれた。昨夜の事にはおそらく意識的に触れてこないが、テントの改良についてや、ウィルの怪力についてなどを、ほとんど1人で喋っていたように思う。

俺は時折相槌をうつ程度だったが、身振り手振りを交えながら、くるくる表情を変えて喋るラミィを見ているのは楽しかった。


そうこうしているうちに俺の家に辿り着き、俺は自分の荷物を自室のベッドの上に投げると、ラミィと共に転移石で飛んだ。





「ふぅ…。やっぱり我が家が一番ね!たった一晩だったけどしばらくぶりに帰ってきた気がするわ」


「あぁ、そうだな。こうしてると俺も帰ってきたなって気がするよ」



俺とラミィはリビングで寛いでいた。帰りついたのが昼過ぎだったこともあり、今日の魔法の訓練はお休みにして、体を休めようということになったのだ。


俺はラミィの真向かいの席でお茶を飲みながら、なんとはなしにラミィを眺め、ラミィはお茶というよりも戸棚から出してきたお菓子に夢中になっている。



「お前そのクッキー好きだよな。いつもそれ食べてないか?」


「ん?そうだったかしら?でも確かにこのクッキーは好きよ。甘いし、食感がサクサクしてるのよ」



クッキーを食べながら、ラミィが俺の質問に答える。そういえば初めて魔力のコントロールの訓練をした時にも、このクッキーを食べていた気がする。



「甘いものが好きなんだな。俺はあまり食べないから知らないが、どこか良く行く店とかあるのか?」



そう何気なくラミィに質問すると、クッキーを頬張っていたラミィはピタッと動きを止めた。そして、少し俯き加減で悲しそうな顔をしながらこう言う。



「おいしそうだなぁ、って思う店はいくつかあるのよ。でも、カフェとかはなかなか1人じゃ入り辛くて…。ほら、私って友達いないじゃない?だから、お菓子店とかで買って食べてるのよ」



…しまった。どうやら迂闊な質問をしてしまったみたいだ。俺が聞いといてなんだが、かわいそうになってきた。



「……そ、そうだ!盗賊団の懸賞金が出たら、そのラミィが行きたいって思う店に行ってみよう!なんか奢る約束だったし、それでもいいか?」



俺はそう思い付きラミィに提案する。我ながらなかなか良いひらめきだ。今回の盗賊団討伐も、ラミィやラミィの魔法の道具がなければなし得なかっただろう。その報酬としては安いくらいだ。甘いものの店くらい何軒でもまわってやろうじゃないか。



「えっ!いいの!?やったぁ!!本当はすごく行ってみたかったのよ!………はっ!こ、これは。まさに…で、デートでは…?」



俺の言葉を聞いたラミィは飛び上がらんばかりに喜んでいる。喜んでもらえてよかった。と、俺も幸せな気持ちになる。



「あぁ、そうだな。デートだ。俺も楽しみだ」



俺が素直にそう言うと、またラミィはピタッと動きを止める。そして徐々に赤くなっていく顔で、恥ずかしそうにモジモジしながらこう言った。



「……そ、そんなハッキリ言うのは、ず、ずるいわよ…」



そんなラミィを見ておもわず俺は笑ってしまった。そしてつられるようにラミィも笑いだし、しばらくリビングには2人の笑い声が響いていた。


今はこれでいい。今はラミィとこうしていられるのが一番幸せだ。と、俺は思う。

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