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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「も、申し訳ありません!お休み中のジャッジ様を起こしてしまい、ラミィ殿もすみません!」



俺達の前では、ウィルが腰を90度に折りながら平謝りしていた。


結果を先に言うと、先ほどの大きな音はウィルが起こしたものだった。事の次第はこうだ。


俺達がテントの中に入った後、入り口付近で見張りをしていたウィルだったが、先ほど盗賊団を殲滅したあたりで何かが動くのが見えたらしい。

夜目のきくウィルが目を凝らすと、その場から逃げ出そうとしている人影が見えたらしい。どうやら盗賊団にまだ息のある者がいたようで、それを確信したウィルは逃がすわけにはいかないと、留めを差しに行こうとした。が、そこで俺達のことを思い出したらしい。


俺とラミィの為に、テントの見張りをしている自分がこの場を離れるわけにはいかない。と考えたウィルは、なにかないかと辺りを見回し。…大きな岩をみつけた。


そしてその岩を持ち上げ、逃げ出そうとしている人影に投げつけたらしいのだ。岩は見事命中!人影はぺちゃんこ!その音で俺とラミィはビックリ!……という訳だ。



「い、いや。ウィルは俺達の為にやってくれたんだ。謝る必要はない。しかし、よくこんなの投げれたな…。あそこから何メートルあるんだ?」



外に出たついでとばかりに、俺達3人はウィルが投げた岩を見にきていた。


その岩……いや、大岩は直径3メートル程はあり、重さはいったいどのくらいだろうか?俺には絶対に持ち上げられないのは確かだ。そしてその投てき距離は……もう考えたくもない。

いったいウィルのこの細身の体に、どれだけの力が詰まっているのだろうか。



「いやいや、ジャッジ様もこれから訓練を重ねればこれ位はすぐに出来るようになりますよ」



「できないよ!」「できないわよ!」



謙遜しながら意味不明な事を言うウィルに俺達は同時にツッこんだ。






何度も謝るウィルに、見張りはいいから早く休むように言い俺達は再度テントに戻った。



「…そ、それじゃ寝ましょうか」



テントに入った途端、モジモジしながらそう言うラミィ。俺は今の騒動で一度気持ちがリセットされ、さっきの寝室での出来事を冷静に考えることができていた。



「そうだな。やっぱり俺はリビングのソファーで寝るから、ラミィがベッドを使ってくれ」


「!!??」



俺が色々と考えた結果の言葉を口にすると、ラミィは最初こそ驚いた表情をしていたが、徐々にその顔が俯いていき、最後には完全に下を向いてしまった。そして、そのまま小さく声を発した。



「…………わかったわ。おやすみ」



そして俯くような姿勢のまま寝室に歩いていった。



……これでいいんだ。ラミィの気持ちはさすがに鈍感な俺でも分かっている。そして俺も……。

でも、ラミィの気持ちは一過性のものかもしれない。今まで孤独に過ごしてきた中で、突然俺という同年代の異性に出会い、共に過ごす様になった。

嬉しかっただろう。楽しかっただろう。そしてそれを………()だと勘違いした。

その可能性は高い。むしろ、そうであって欲しいとすら思う。


ラミィは魔女だ。仮に俺と結ばれたとしても俺はラミィを残して、先に逝くことになる。それどころか、子供なんて出来たら……。

ラミィにそんな思いはさせたくない!将来そんな思いをさせるくらいなら……。





部屋のランプを消し、俺はソファーにごろんと横になり目を瞑る。しかし、いくら経っても眠気は訪れてくれなかった。何度も寝返りをうち、どうしても眠れない事を悟った俺は、水でも飲もうと起き上がる。



「ん?」



台所の水差しからコップに水を注ぎ、一口飲んだ後なにげなく寝室の方を見ると明かりが漏れている。



「まだ起きてるのか?……俺と同じで眠れないのか?」



そう独り言を言いながら、ラミィに対して申し訳ないことをしたという気持ちが足をそちらに運ばせる。


ぼんやりと明るい寝室のベッドでラミィは眠っていた。どうやらランプを消し忘れたらしい。



「…消し忘れか」



ランプを消す為に、ラミィを起こさないようそっとベッドに近付く。枕元のランプに手を伸ばそうとしたとき、ラミィの顔が見える。

……ラミィの頬にはまだ乾きたての涙の跡があった。


それを見た俺は自分の気持ちが揺らぐのが分かった。ちゃんと考えて出した答えのはずだった。ラミィの事を考えて、ラミィの為に。

…………本当か?本当にラミィの事を考えていたのか?こんなに悲しませることがラミィの為?ラミィの気持ちから逃げていたのは俺なんじゃないか?



自問自答を繰り返すが答えは出ない。だが……、自分の気持ちには気付けた。いつのまにか俺の中でラミィはとても大きな存在になっていたみたいだ。

大切な、とても大切な宝物みたいに。


もしかしたらこの関係が終わることが怖くて、踏み込めないのかもしれない。ラミィは不器用なりに必死に自分の気持ちを伝えてくれているのに…。俺は臆病者だ。



「………ごめんな、ラミィ。俺にはまだお前みたいに勇気は出ないよ。……もう少し考えさせてくれないか?今は、……今はこれで勘弁してくれ」



そう言いながらラミィの顔に近付き、その涙の跡が残る頬に口づけをした。そして、枕元のランプをそっと消し足音を忍ばせて寝室を去った。


寝室を出るときに後ろから「……待ってる」と、聞こえた気がした。急いで後ろを振り向いたが、ラミィの姿勢は変わっていない。

……きっと、俺のそうあってほしいとの願望が聞かせた幻聴だろう。





次の朝は先に目覚めたラミィに起こされた。



「ほら!起きなさい!さっさと街に帰るわよ!」



いつものラミィだ。ほっとしながら俺はソファーから起き上がる。しかし、やはり昨夜のことは謝っておかないといけないだろう。



「あ、あぁ。もう起きたよ。……その、ラミィ。昨日の事なんだが……」



そこまで話すと、その先を遮るようにラミィが話し始めた。



「昨日の事なんてもう忘れたわ!そんなことより早く帰るわよ!アンタはウィルに食事でも持っていってきなさい!」



ラミィはお茶と簡単な朝食の載ったお盆を俺に渡すと、自分は荷物の片付けを始めた。


俺が思ってたよりも気にしてないのか?それならそれでいいが…。と、考えながら俺は渡されたお盆を持ちテントを出る。


ウィルはすっかり準備を終え、昨夜と同じ場所に座っていた。テントの中だと気付かなかったが、もうしっかりと太陽は昇っている。どうやら、寝過ごしたみたいだ。



「おはよう、ウィル。朝食を持ってきたぞ。作ったのはラミィだ、後で礼でも言ってやれよ」


「おはようごさいます。おぉ!ラミィ殿とは言え、女性の手料理を食べるのは久しぶりですね。しかも、自宅で作ったのかと思うほどのこの出来映え!これは、いつお嫁に行っても大丈夫ですね!よかったですねジャッジ様!ハッハッハッ」



と、上機嫌なウィル。最近薄々感じてはいたが、どうやらウィルはもうラミィを認めているようだ。そのうち「ジャッジ様のお妃として~」とか言い出しそうな気がする。

そう言えば、昨夜もテントで俺とラミィが一緒に寝ることについて何も言わなかった。きっと俺達はもうそういう関係だと思っているのだろう。なんなら昨日もそういうことをしたと思っているのかも知れない。



「と、とにかく。食事をとったら出発しよう。俺も食べてくるよ」



と、言い残しさっさとテントに戻ってきた。



……まだ、なんにもしてないんだけどなぁ。

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