27
ウィルと合流した俺達は、死体だらけの場所にいるのも気味が悪いので、少し離れた場所に移動し、ここに至るまでの経緯をお互い話していた。
「ほう、ということはその魔車という乗り物でここまで来られたわけですか」
「あぁ。なかなか便利な乗り物だぞ。帰りはウィルも乗って帰ろう。いいよなラミィ」
俺達が乗ってきた魔車に、帰りはウィルも乗せてやろうと思いラミィの方を見る。
「えぇ。いいわよ。ウィルの走る何倍も速いわよ!私の勝ちね!」
と、なぜか勝ち誇っている。速いのは魔車であってラミィではないんだが…。いや、作ったのがラミィだからってことか?
「お、おぉ、そうだな。それじゃ帰るのは明日の朝にして今日はもう休むか」
俺はそう言って移動させたテントの中に入ろうとして、あることに気付き足を止めた。
「…ラミィ。このテントにウィルって入れるのか?」
そう聞く俺に、なんでもないことのようにラミィは答える。
「入れるわけないじゃない。ウィルは魔力がないもの。それに、仮に入れたとしても私みたいな美女が、結婚もしてないのに男と一緒のテントで寝るわけにはいかないわ!」
…やはりそうか。かわいそうだが、ウィルには外で寝てもらうしか手はないか…。いや、俺も付き合って外で寝よう。
しかし、コイツ俺とは平気で同じテントで寝ようとしてたのに…。
ラミィの言葉を聞いた俺はウィルに向き直る。
「すまん、ウィル。このテントは魔力がないと中に入れないんだ。俺も付き合うから今夜まで外で我慢してくれないか?」
その言葉を聞いたラミィがビクッと体を震わせ、俺に何か言おうと口を開こうとした瞬間、先にウィルが喋りだした。
「いえ、ジャッジ様はラミィ殿とテントでお休みください。私は外でさっきのようなやつらが来ないよう、見張りをしながら休みますので」
「しかしだな…。」
「いえ。その方が私も安心できるのです。ささっ、外は寒いので早く中にお入りください」
と、取り付く島もない。それを聞いたラミィも、
「ウィルがそう言うんじゃ仕方ないわねぇ!さぁ!中に入るわよ!」
と、上機嫌だ。…ふぅ。仕方ないか。
「わかった。だか、なんかあったら声をかけてくれ。あと、温かいものもあるから後で持っていくよ」
「ありがとうございます。それではジャッジ様、ラミィ殿、おやすみなさい」
俺はそうウィルに声をかけて、ラミィとテントの中に入る。
テントに戻った俺達は途中だった食事を取るために、台所に向かった。
「しかし、まさかウィルと盗賊団同時に見つかるとは思わなかったな」
「そうね。でもこれで盗賊団もいなくなったから、ウィルもやっとお役御免ね」
ラミィの言葉にそうだな、と同意する。
しかし、これでウィルの強さを街の人達が知ってしまうことになった。こういう話は広がるのも早いだろう。なんかあったときに、ウィルが頼りにされてしまう事も増えそうだ。
そんなことを考えながら、出来た食事をラミィと食べた。テントで作ったものとは思えない程立派な料理は、お腹がペコペコだったこともあり、とても美味しかった。
食事を終え、どうしても今日はお風呂に入りたいというラミィはさっとお風呂に入ってきた。続いて俺も風呂に入る。外で見張りをしてくれているウィルには申し訳ないが、魔車での移動で冷えきった体には風呂は堪えられなかった。
ちなみに、風呂は薪で沸かすものではなく、水を張った浴槽に向かって、ラミィがヘルファイアを長時間使い続けるという方法で沸かされた。
魔法の威力を調節できるラミィだからこそできる芸当だ。俺がすると浴槽どころかテントごと燃やしてしまうかもしれない。
「これはまだまだ改良の余地ありね」
とラミィは言っていたが、俺にはこのテントは十分過ぎる程豪華だと思える。
風呂からあがり、ラミィがお茶を淹れてくれていたので、外にいるウィルにも温かいお茶と毛布を持っていった。
俺もウィルの横に座り、一緒にお茶を飲む。
空を見上げると満天の星が見える。テントから光は漏れないため辺りは真っ暗だ。唯一、焚き火の炎だけが燃えており、その前に座るウィルの顔を赤く照らしていた。
「しかし、ジャッジ様はラミィ殿と大分仲良くなられたようですね。…いや!別に嫌みで言っているわけではありません。国を追われてから、旅をしたり体調を崩されたりと、同年代の友を作ることができずにいましたから」
「…あぁ、そうだな」
確かに俺には友達と呼べる存在はラミィと出会うまでいなかった。ただ、ベッドにいる時間の長かった俺にはそのことを実感する暇もなかった。
…それが、ラミィと出会って変わった。今ではほとんど毎日一緒にいる大事な友達だ。……友達?
黙ってなにかを考える俺を、ウィルは微笑みながら見ていた。
「それじゃ、おやすみウィル」
「おやすみなさい、ジャッジ様」
ウィルと就寝前の挨拶を交わし、俺はテントの中に戻った。どうやら結構時間が経っていたみたいだ。ラミィの姿はリビングにはなかった。
「先に寝たのかな?」
俺はリビングのソファーで寝るつもりだったが、一応声を掛けておこうと思い寝室に向かった。
寝室として使っている部屋に入ると、ラミィが緊張したような表情で、1つしかないベッドの上で正座をして待っていた。俺が入ってきたのに気付いたラミィは、そのままの姿勢で声を掛けてくる。
「お、遅かったわね」
「あ、あぁ。ちょっとウィルと話し込んじゃってな。ところでお前……なんで正座?」
俺がそう聞くと、ラミィは顔を赤くしながら小さな声でつぶやくように話す。
「……ど、どっち?」
よく聞こえなかった俺は聞き返す。
「ん?なんて?」
「…ど、どっちがいい?」
……どっち?なんのことだ?
ラミィの言っていることの意味がわかんない俺が黙ったままでいると、
「……だ、だから!アンタがどっちに寝たいかって聞いてるのよ!右なの!?左なの!?はっきりしなさいよ!」
と、真っ赤な顔をしたラミィが怒鳴ってきた。
どうやら俺と一緒のベッドで寝るつもりで、右と左どっちに寝たら良いか決められず、待っていたみたいだ。
…いやいや。さすがに少女と同じベッドで寝るのはさすがにまずいだろ。
……いや、待てよ。ラミィは一見14、15位の少女だが実年齢は20歳だ。しかもその言動と体型が幼く見せているだけで、近くで見ると整った顔もしている。意外にちゃんと大人の女性だ。
…まずい。なんだかドキドキしてきた。こんな状態のままラミィと一緒のベッドに入っても眠れる気がしない。それに、俺だって今では健康的な20歳の男だ。間違いがあってからでは遅い。
「な、何言ってるんだ、ラミィ。俺なんかと寝たら襲われちまうぞ。ハッ、ハハハッ…」
と、動揺を隠しきれず冗談めかして話す俺。
それを聞いたラミィは、真っ赤な顔をしたまま寝巻きの裾をぎゅっと握って、自分の膝のあたりをしばらく見つめたままでいたが、
「……わ、私は。………………い、いいわよ」
と、絞り出すように言った後、掛け布団を頭から被り隠れてしまった。
…そ、そうか。ラミィは初めからそのつもりだったのか。俺も経験はないし、こんなことは初めてだからどうしたらいいか分からない…が。ほ、本当にいいんだな?ラミィ…。
俺は覚悟を決め、ラミィの待つベッドに一歩ずつゆっくりと近付く。そして、ベッドサイドまで辿り着いた俺が、早鐘のように鳴る心臓はそのままに、ラミィが頭から被っている掛け布団に手を掛けようとした、…その時。
ドガーーン!!
という大きな音がテントに響いた!
「うひっ!?」
緊張の極致にいた俺はいつも以上に驚き、変な声をあげてしまった。
その声に驚いたのか、大きな音に驚いたのか分からないがラミィも布団から飛び出してきた。
「な、なに!?今の音!?」
「わ、わからん!まさか、また敵襲か!?」
そう言って俺達は顔を見合わせた後、どちらからともなくテントの入り口まで走った。