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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ウィルは単独盗賊団討伐隊としての2日目を終え、野営の準備をして焚き火の前に座っていた。

場所は街道からかなり離れた小高い丘の上に立つ、大きな木の側だ。一般の人と比べると夜目のきくウィルは、暗くなってからも周りを見渡すことのできる場所を選んでいた。



「結局今日もみつけることは出来なかったか。やはりあまりにも範囲が広すぎる…。せめて最近の目撃情報でもあればいいのだが…」



焚き火で昼間のうちに狩った兎の肉を焼きながら、ウィルは一人考えていた。


昨日今日と2日間盗賊団を探し続けたが、手掛かりは掴めなかった。捜索範囲の広さに加え、直近の目撃情報が全く得られなかったことも影響した。

街道を通る人に話を聞いたのだが、ここしばらくは盗賊団の姿はみかけられていないらしい。そもそも盗賊団出没が噂されてから、街道を使う人の姿自体がかなり減っているようだ。



「商人もファイスの街まで商売をしにくるのを控えているらしいし、これじゃ街の中の商人が領主をせっつくのも仕方ないな」



今の状態が続けば街の経営にも大きく影響するだろう。だからこその、討伐隊派遣なのだが…。さすがのウィルでも、盗賊団を発見することは未だ出来ずにいた。


焼けた肉と持ってきたパンで食事を済ませたウィルは悩んでいた。



「このまま夜間も捜索を続けるべきか…。しかし人の姿のない夜はやつらも活動しないだろう。かといって明日は最終日だ。もし、みつけられなかったらまたジャッジ様に寂しい思いをさせてしまうことになるし…」



やはりウィルが第一に考えるのはジャッジの事らしい。




ウィルが孤独に思い悩みつつ、小高い丘から辺りを眺めていたときだった。



「ん?あの光りは…?」



ウィルのちょうど正面500メートルほど向こうに、複数の灯りがちらちらと動くのが見えた。どうやら松明かなにかを持った人が動いているようだ。

驚異的な視力と、夜目のきくウィルだからこそ見つけられたのであり、向こうからこちらは見えていないだろう。


ちらちらと動く明かりは、その数を増やしたり減らしたりしながらウィルからみて左の方向に動いていく。

確認できるだけでも10はあるだろう。人通りの少ない夜間にしては多すぎる数だ。



「あの速さは徒歩ではないな…。馬か?まさか!盗賊団か!?」



そう思ったウィルは急いで焚き火の火を消し、荷物の少なくなったカバンを担ぐ。そして全速力で複数の明かりに向かって走り出した。


いくらウィルが驚異的な身体能力をもっているとしても、相手は馬だ。じりじりとしか距離は詰まらない。

ウィルと盗賊団だと思われる明かりの距離が、当初の半分位に縮まった時だった。突然明かりの先頭が止まり、それに続く明かりも集まりだした。



「なんだ?アジトにでもついたのか?」



そう思ったウィルは明かりから50メートル程離れた所で足を止め、姿勢を低くして少し様子を見ることにした。


どうやらアジトに着いたわけではなさそうだ。ポツンと小さなテントがあり、その前にやつらが集まっている。



「なんだ!このテントは!?どうやっても中に入れねぇ」


「お頭!斧で叩き壊そうとしてもなぜか斧が弾かれちまいます!どうしましょう?」


「うるせぇ!そんくらいてめぇで考えろ!」



離れたウィルにそんな話し声が聞こえてきた。

やはり、やつらが例の盗賊団で間違いなさそうだ。人数は……15人程か。問題ない、すぐに殲滅できるだろう。

しかし、あんな小さなテントひとつ襲っても大した稼ぎにはならないはずだが…?たまたま見つけたから、ついでに、ってところだろうか。


そんなことをウィルが考えている中、盗賊団は小さなテントをよってたかって叩き壊そうとしている。

しかし、不思議なことになぜか壊せないようだ。しまいには松明をテントに近付け、火を放とうとしている。



「むっ!これはいかん!」



火を放たれると、もし中に人がいた場合焼け死んでしまうかもしれない。

そう考えたウィルは咄嗟にその場を飛び出し、盗賊団に襲いかかった。



突然現れた襲撃者に盗賊団は慌てふためいていた。



「な、なんだ!?コイツはどこから出てきた!?」


「お頭!敵です!」


「そんなの見りゃわかるんだよ!バカ!早くやっちまえ!」


「ぐ、ぐえぇ…!」


「お、おい!くそっ!どうなってんだ!」



ウィルは襲いかかると同時に5人程の盗賊をまとめて斬り倒し、続けて隣、そのまた隣、と剣で斬っていった。

元々手加減などするつもりのなかった相手だ、しかも今は周りは全て敵という状況である。ウィルにとってはこの上なく戦いやすい戦場であり、盗賊団はその数を1人、また1人と減らしていった。






「ちょ、ちょっと、アンタ!外が騒がしいわよ!」



俺とラミィは相変わらずテントの入り口付近に潜み、どうしようかと悩んでいた。すると…。外でなにか争うような声と音が聞こえてきた。



「やつらが誰かと戦ってるみたいだな。仲間割れじゃないようだし。…味方か?」


「た、助けがきたのよ!きっとそうよ!」



そうラミィは言うが、おそらくそうではないだろう。こんな夜中に、盗賊団に襲われている人を助けようとする人はいないだろう。

そんなことより、きっと今はチャンスだ。誰かは分からないが盗賊団の気をひいてくれているうちに、逃げ出すなり共に戦うなりしたほうがいいだろう。



「おい、ラミィ!このテントは俺達以外には中に入れないんだよな?」


「え、えぇ。そうよ。私とアンタだけよ」



突然質問する俺に、なにを当たり前の事を聞くのかという顔をして返事するラミィ。



「よし!なら隙を付いてテントから出て逃げ出すぞ。今がチャンスだ!このテントを置いたままにするのは心配だが…、使い物にならないテントなどやつらにとっても不要だろう。きっと大丈夫だ」



それを聞いて、少し何かを考えていたラミィだったが、俺の顔見ると大きく頷いた。



「よし!絶対に俺から離れるなよ!」



そう言いながらラミィの手を取り、入り口ギリギリでタイミングを見計らう。いきなり手を握られたラミィがモジモジしているが、今は構っている余裕がないので放っておく。

おそらく飛び出せば、少なくとも1回は戦闘になるだろう。その時にはラミィを守るため、遠慮なく魔法をぶっ放してやろうと体内の魔力を練り上げる。




ラミィと魔法の訓練を続けるなかで、俺は体内の魔力を必要のないときは抑える方法を身に付けた。それを身に付けてからは光り輝き眩しいくらいだった俺の魔力も、普段は穏やかに全身を巡っている状態だ。




外の喧騒が少しテントから離れた気がする。行くとしたら今しかない!



「ラミィ!行くぞ!」



そう声をかけ、俺達はテントの外に飛び出した。


すると、盗賊団と思われる男達がそこら中に倒れている。血を流してうめき声をあげている者はまだましだろう。体が半分になっている者もいれば、首から上がない体もある。



「うわぁ…。これは…、うわぁ……。」



ラミィには少し刺激が強かったようだ。俺はラミィの手をさらに強く握りしめる。


そんな死屍累々とした場の少し向こうでは、男が数人まだ争っていた。……ん?あれは…ウィル?


男達が手に持っていたであろう松明がそこら中に散らばり、ぼんやりとではあるが辺りは明るい。その明かりに照らされて、今もまた1人盗賊団を頭から唐竹割りにしている男の顔が見えた。



「ラミィ。あれ、ウィルに見えないか?」



そう聞くと、足元の死体を気持ち悪そうに見ていたラミィが、俺と同じ方向をじっと見た後答える。



「…ウィルにみえるわね」


「…だよな」



「おぉーい!ウィル!俺だ!ジャッジだ!」



俺がそう大声でウィルと仮定した男に声をかけると、その男はまた1人盗賊団を斬り倒しながら、こちらを振り向き、



「ジャッジ様!どうしてこんなとこにいらっしゃるのですか!?」



と、驚いている様子だ。

やはり、ウィルで間違いなかったらしい。



「少しお待ちください!すぐ終わりますので!」



と、トイレの順番待ちでもさせているかのような事を行った後、残り2人となっていた盗賊団をまとめて真っ二つにしたウィル。

こちらに向かって歩いてくる途中で、まだ息のあった盗賊を、右手に下げた長剣で留めを差していた。その顔は返り血で染まっており、服も真っ赤だ。

我が従者ながら恐ろしい…。あんまりウィルは怒らせないようにしようと俺は心に誓った。

 

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