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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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辺りが暗くなるぎりぎりまでウィルの捜索を続けたが、結局なんの手がかりも得られなかった。


ここまで暗くなってしまうと、何も見えず捜索どころではないということになり、とりあえずテントを建てて食事をとることにした。


今はちょうど、ラミィの持ってきたテントを建て終わったところだ。



「しかし、少し小さすぎないか?このテント。本当に2人用なのか?」



俺は建て終わったテントを前にして、ラミィに疑問をぶつける。


ラミィが2人用だと言って持ってきたテントは、どうみても大人1人が入るのがやっと。という大きさだ。

おかげで設営はとても簡単だったが。



「まぁまぁ、とりあえず中に入ってみなさい。きっとおどろくわよ」



ラミィはいたずらっ子のような顔で俺にそう言う。



「そうか?なら、先に失礼して。……っっ!!!」



中に入った俺は驚きのあまり言葉を失った。

テントの入り口から一歩入ると、奥行きが15メートル程はある。幅も同じくらいあり、広さはおそらく俺の家と同じくらいある。天井も俺の身長よりもずっと高い。テントの中には仕切りがあり、それぞれが部屋のようになっている。

…どう考えてもおかしい。外で見たテントとは大きさが合わない。



「どう?ビックリした?」



そう自慢気に声をかけながら、ラミィがテントの中に入ってきた。



「あ、あぁ。ビックリした!これも魔法の道具なのか?」



俺が振り向きながらそう聞くと、ラミィはいつものポーズになり、



「そうよ!この不世出の天才美人魔女ラミィちゃん考案の魔法テントよ!これは作るのに苦労したのよー。…ま、まぁ、使うのはこれが初めてだけど」



やはりラミィが作った魔法のテントらしい。こんなものまでラミィは作れるのか…。使うのが初めてってのは多分2人用だからだろう。1人で使うには広すぎる。


テントに入ったラミィは、奥の仕切られた部屋に向かい俺を呼ぶ。



「ちょっと!アンタこっちもあるのよ。見てみなさい。」



呼ばれた俺はその部屋に向かう。

そこは釜戸や流しのある簡易的な台所だった。テントの中に煙が充満しないように、小さい煙突が釜戸から伸びており、テントの外に繋がっているようだ。

外から見たときは煙突なんて見えなかったのだが、それも魔法なのだろう。



「こんな立派な台所があるから、あんなに調理道具を持ってきたのか」


「そうよ!これだけあれば家とほとんど変わりないものが作れるわ!」



ラミィの言う通りだな。なんなら俺の家の台所より立派かもしれない。…だが、これは野営と言えるのか?おそらく別の部屋にはベッドもあるはずだ。

快適すぎる…。


と、俺が贅沢すぎる悩みを抱えているとも知らないラミィは、次々と残り3つの部屋を紹介してくれた。


台所、寝室、風呂、トイレ、リビング、と、とてもテントとは思えない設備を備えた、魔法のテント観光ツアーを終えた俺達はリビングにいた。


途中寝室にベッドが1つしかないことについて、俺がラミィに尋ねると。


「…あ、あれー?ど、どこいっちゃったのかなー?あ、あれー?おかしいなぁ?…こ、これは、一緒に、ね、寝るしかないなー」


と、言っていた。…確信犯だな。




リビングでこれからどうするか話し合う。



「とりあえず今夜はここに泊まって、明るくなってからウィルの捜索を再開したほうがいいと思うわ」



ラミィが自分の意見を話す。


…うーん。確かにこんなに暗いと見つけるのは難しいだろう。しかし、俺達がこの快適なテントでぐっすりと寝てる間も、ウィルがどこかでこの寒い中野宿してると思うとなぁ…。


ウィルを心配する気持ちや、ウィルとはあまりにも違いすぎる自分達の環境からくる申し訳なさがあいまり、俺はどうするべきか決められずにいた。



「ほ、ほら。ゆっくり休めば頭もスッキリするでしょ?そしたらいい案が思い付くわよ!…そ、そうと決まれば、早く、ね、寝ましょうか!」



ラミィが早口で俺にまくしたてる。


……こいつ、さてはあんまりウィル探しに乗り気じゃないな?

まだ夜ごはんも食べてないのに、寝ようなんて怪しすぎる…。ベッドもなぜか1つしかなかったし。


と、ラミィは俺が不審者を見るような目付きで自分を見ていることに気がついたのだろう。



「あ!ご、ごはんがまだだったわね!わっすれてたわー!ちょっと準備してくるわね!」



と、言いながら台所の方に行ってしまった。


…まったく、仕方ないやつだ。でも、ラミィの言う通り今夜はもうお手上げだ。ウィルには申し訳ないが、探すのは明日の朝からにさせてもらおう。


とりあえずの結論を出した俺は、ラミィを手伝おうと台所に向かった。





ヒヒーン!ブルルッ!


俺が台所でラミィと料理をしていると、いきなり外から馬の嘶きが聞こえた。それも複数だ。



「キャッ!な、なに!?」



驚くラミィ。俺も驚き、音のした方を振り向く。



「入り口の方からだ!ちょっと様子を見てくる!」



俺がそう言い、急いでその場を離れようとすると、

ラミィが俺の腕を掴みそれを止めた。



「待って!私も行くわ」


「しかし…!」



戸惑う俺に、意外にも落ち着いている様子のラミィは言った。



「大丈夫よ。このテントは誰でも入れるわけじゃないわ。一定以上の魔力を持った人間じゃないと、入ることが出来ないようになってるの。つまり魔女と、アンタだけってこと。しかも無理矢理中に入ろうとしたり、テント自体を傷つけようとすれば魔力の膜に弾かれるはずよ。…そう言う風に私が作ったもの」



このテントは中が広いだけじゃなく、防衛機能もついていたのか…。それならひとまず、身の安全は保証されたと考えていい。…しかし、すごいものをラミィは作ったな。


非常事態にもかかわらず、思わず感心してしまった。

そういうことならラミィと一緒に様子を見に行っても大丈夫だろう。



「わかった。一緒に見に行こう」



そう言うとラミィと共にテントの入り口部分に向かう。

入り口の外からは、複数の男の声が聞こえる。どうやらさっきの馬の声はこいつらが乗ってきた馬らしい。


「なんだ!このテントは!?どうやっても中に入れねぇ」


「お頭!斧で叩き壊そうとしてもなぜか斧が弾かれちまいます!どうしましょう?」


「うるせぇ!そんくらいてめぇで考えろ!」



などと、物騒なことを話す男達の声がテントの中まで聞こえてくる。



「なんかへんなのに目をつけられたみたいね」



隣に立つラミィが冷静に俺に言う。



「あぁ、まったく、迷惑な話だ。ところでこのテント本当に大丈夫なんだよな?」



俺はテントが壊されないか不安でしょうがない。なにせ、斧で叩き壊そうとしているらしいのだ。

不安そうな俺が面白いのか、ちょっと笑ったラミィは俺に向かって言う。



「大丈夫、大丈夫。たとえ馬車が全速力でぶつかってきても、キズひとつ付かないわ」



ラミィの言葉に少し安心した俺だが、状況はあまりいいとは言えない。

中に人がいるとバレたくないので、小声でラミィと相談する。



「で、どうする?このまま息を潜めてあいつらがどっか行くのを待つか?」


「…うーん。素直に諦めてくれるかしら?」


「そうだよなぁ。声もかけずにいきなり襲ってくるようなやつらだしな。ん?……な、なぁ、ラミィ。ちょっと思い付いたことがあるんだが」


「ん?なに?」


「今外にいるやつらって。…ウィルが探してる例の盗賊団なんじゃないか?」



いきなり人のテントを襲うなんて、まともな生き方をしてきた人間じゃないだろう。そして、そんな人間が徒党を組むといえば…?さらには、さっきやつらの1人がお頭と呼んでいるのを聞いている。

ここまで条件が当てはまると、俺にはもう外にいるやつらは例の盗賊団だとしか思えなかった。



「た、確かに。その可能性は高いわね。ウィルより先に盗賊団の方をみつけちゃったってわけね」



そう予想した俺とラミィは顔を見合わせたあと、同時にこう言った。



「で、どうする?」「で、どうするのよ?」


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