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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィの家まで急いで帰ってきた俺達は、買ってきた食材を手分けして片付け、今は魔車の前にいた。



「さて、ウィルを探しに行くのよね?」



そう俺に念を押すように聞いてくるラミィ。



「あぁ。そう出来るならそうしてやりたい。盗賊団を探すのも1人より3人の方が早いだろうしな」


「わかったわ。じゃあやっぱりこの魔車を使うことになりそうね」



俺の言葉に返事を返しながら、ラミィは改めて魔車を見る。そして魔車の床の下に潜り込むと、なにやらカチャカチャやりだした。



「なにをしてるんだ?」



俺がよく見えるようにしゃがんで話しかけると、ラミィは作業をしながら答えた。



「ちょっとある部品を取り付けてるのよ。アンタが言ったようにこのままじゃ目立ちすぎるから」



カチャカチャと音を立てながら作業するラミィ。

きっとその部品もラミィのお手製なのだろう。転移石といい魔車といい、ラミィは不思議な道具を作るのが得意みたいだ。自分で天才というだけはある…のかもしれない。


しばらくその作業を続けていたラミィだが、「これでよし!」と、言い。魔車の下から這いずり出てきた。



「できたのか?」



と聞く俺に、いつも自慢をする時の小さい胸を張るポーズでラミィが言う。



「えぇ。これで魔車で走り回っても他の人には気付かれないはずよ。まぁこのくらいは、天才美人魔女のラミィちゃんにかかればちょちょいのちょいね!」



ほぉ。見た目は何も変わっていないが、どうやらできたらしい。…と言うか、なにがどう変わったか説明してほしい。


と言う俺の心の声が聞こえたわけではないだろうが、ラミィが俺の方を見ながら説明を始めた。



「今取り付けたのはね、魔車を取り囲むように薄い魔力で覆う装置なのよ。で、その魔力で魔車全体を周りの景色に同化させるの」



…ん?ラミィの説明を聞いた俺だが、いまいちどういうことかピンとこない。



「すまん。よく理解できなかった。つまりどういうことなんだ?」



情けなさそうにそう聞く俺を、かわいそうなモノを見るような目で見たラミィはひとつため息をつく。

そして、もう一度説明してくれた。



「はぁ。仕方ないわね。簡単に言うとこの装置を使うと透明になれるのよ。つまりこれに乗ってる限り私達も魔車ごと、周りから見えなくなるのよ」



へぇ~。それが本当ならすごいことだ。魔車に乗って堂々と走り回れる。ウィルだって見つけられるだろう。



「すごいな!お前本当はすごい魔女なのか?」



俺がそういうと、ラミィはすごく満足そうな笑みを浮かべていたが、



「こんなことしてる場合じゃなかったわ!さっさと探しに行かないと日が暮れちゃうわよ!」



と、太陽の位置を確認し、俺に言った。確かに今の季節は暗くなるのが早い。もたもたしていればウィルを見つける前に夜になってしまうだろう。



「そうだな!急いで探しに行こう……って、どうやって魔車をファイスまで持っていくんだ?手で持っていくにはさすがに大きすぎるぞ」



すぐにでも出発しようとした俺だったが、まだ問題があったことを思い出す。

そう聞く俺に、ラミィはいつのまにか手に持っていた袋を、掲げるように持ち上げて答える。



「これに入れていけばいいわ。この袋はこう見えても、ものすごい容量なのよ。魔車ぐらい何台でも入るわ」



そう言うと袋の口を開け、そのあと魔車に触れる。すると、目の前にあった魔車が消えるようになくなった!



「うん。やっぱりまだまだ余裕があるわね。あ!そう言えばテントとかはなんも準備してないわ。どこにしまってたかしら…」



…ラミィが魔車が消えたことを全く気にしていない所をみると、本当にあの袋の中に入っているのだろう。とても信じられないが、これが魔法の力なのか…。というか、重さとかはどうなってるんだ?

…全く、ラミィと出会ってから驚くことや、不思議なことばかりだ。


と、唖然としている俺を尻目に、ラミィは何を持っていくか考えているようだ。



「…えぇーっと。テントと、寝袋と。あっ、そうだ!あのテントにすれば寝袋はいらないわね。でもベッドの数が…。いや、逆にわざと足りないということにして一緒に…」



そんな中、ようやく衝撃から立ち直った俺は、準備を手伝おうとラミィに声をかける。



「ラミィ。準備するものがあるなら手伝うぞ」


「…そして非日常の中結ばれた2人は……。って、ん?な、何?なんか言った?」



よほど真剣に持っていく物を考えていてくれたのだろう。俺の声も耳に入らなかったようだ。ラミィも意外とウィルのことを心配してるのかな?



「いや、なんか手伝おうか?って言ったんだ」



再度話す俺に、



「そ、そうね。それじゃ一緒に物置小屋に行きましょう」



と、なぜか少し動揺しながら言い、物置小屋の方へ歩いて行った。





ラミィが見てのお楽しみと言う魔法のテントや、調理道具。今日買った食材などを例の袋に入れ、俺達は再びファイスの街の俺の家まで転移石で移動した。


ウィルがまだ帰ってきていないのを確認し、家から出るともう太陽は傾きかけていた。



「まずいな。急がないと本当に夜になりそうだ」


「えぇ、急いで街の外に出るわよ」



そう二人で頷き合い街の門に向かう。


閉門ギリギリで門を抜けた俺達は、適当に選んだ街道をしばらく進み、人通りの少なくなったあたりで道を外れた。



「このあたりでいいかしら?私は袋から魔車を出すから、アンタはまわりを見張ってなさいよ」



そう言いながらラミィが袋の口に手を突っ込み、しばらくごそごそしていたと思ったら、突然音もなくその場に魔車が現れた。


何度見ても驚いてしまう。本当どうなってるんだあの中は?今度時間があるときにラミィに聞いてみよう。…まぁ聞いてもおそらく理解できないとは思うが。



「それじゃ、ウィル捜索にしゅっぱーつ!」



そう言い魔車に乗り込むラミィ。なんか楽しそうだ。

ウィルには悪いが、実は俺もテントに泊まるのは久しぶりだから少しワクワクしている。



「よし、行こう!運転はラミィでいいのか?」


「当たり前でしょ!!もうアンタには絶対運転させないわ!」



魔車に乗り込みながら聞く俺は、ラミィにそう怒鳴られた。

……どうやら、この前の一件をまだ根に持ってるらしい。あれは、事故のようなものだと思うんだが…。

まぁ、しばらくは俺が魔車の運転をすることはなさそうだ。




ラミィの運転する魔車は、しばらく街道沿いを走りながらウィルの姿を探していたが、なかなか見つけることはできない。

途中、商人らしき馬車とすれ違ったが、こちらをチラリとも見ようとしなかった。やはり、ラミィの言う通り他の人からは見えないらしい。


その後も探す街道を変えたり、街道から少し離れた森を見に行ったりと。思い付く限りの場所は探したが、ウィルのいた痕跡すら発見することはできなかった。



「…まいったな。いったいウィルはどこにいるんだ?」



俺はラミィの隣で天を仰ぎながら呟く。

見上げた空にはもう気の早い月が出ている。夕日も山の稜線に沈もうとしており、世界は夕方から夜に移り変わろうとしていた。


ふと、隣のラミィを見ると、魔力を流す鉄の棒を握りながら少し震えている。俺もさっきから少し肌寒いと感じていたところだ。俺よりも薄着のラミィはもっと寒いだろう。


座っているだけの俺より運転しているラミィの方が大変だろうと思った俺は、自分の上着を一枚脱ぎラミィの肩に掛ける。


運転に集中していたラミィは一瞬ビクッと体を震わせたが、



「あ、ありがとう」



と言いながら、肩から掛けただけの俺の上着をしっかりと着なおした。そして顔を赤らめながら、



「て、手も、さ、寒いんだけど…」



と、言う。


それもそうだろう。片手とは言えずっと鉄の棒を握っているのだ。俺なんかポケットに両手ともつっこんでいるのに。


しかし、俺も手袋を持っているわけじゃない。どうしたものか。と、しばらく考え、


…あぁ、そういうことか。……少し恥ずかしいが仕方ない。


と、意を決してゆっくりと両手を伸ばし、鉄の棒を握るラミィの右手を包み込むように握った。



手を握られたラミィは、自分が言い出したにも関わらずすごく恥ずかしそうだ。顔も首も俺から見える範囲全てが真っ赤に染まっている。

 


初めて握ったラミィの手は、とても小さくて冷たかった。


俺は強く握るとすぐに壊れてしまいそうなラミィの手を、宝物のように大事に大事に包み込む。


そんな俺の頬はラミィと同じように赤く染まっていた。

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