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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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次の朝、何食わぬ顔で起きてきたラミィと朝食をとり、昨晩考えていたことを話す。


「というわけで、訓練の前に一度家の様子を見に行ってきてもいいか?」


俺がそう聞くと、ラミィは皿を洗いながら返事をした。


「いいわよ。あ!私も行こうかしら?今夜の食材を買いに行こうと思ってたのよ」


ラミィがそう言うので、一緒にファイスの街に向かうことになった。




転移石で家の中に到着すると、出掛けたときとなにも変わった様子はない。まだウィルは帰ってきてないみたいだ。やはり3日くらいかかるのかもしれない。


「ラミィ。俺の用事はもう終わったから、買い物に行くなら付き合うぞ」


そうラミィに話しかける。


「いいの?よかった!いつも独りだから、重くてあんまり沢山買えなかったのよ。誰かと買い物なんて久しぶりだわ。……はっ!こ、これは、まさか…デート?」


返事をするラミィは、喜んだり恥ずかしがったり忙しそうだ。

そんなラミィにいちいち反応せず、俺はさっさと家を出る。


「ほら!行くぞ、ラミィ。」


「ま、待ちなさいよ!」


俺の後を追うように家を出るラミィ。慌てていたのか扉に足をひっかけて転んでいた。

…おいおい、そんなんで大丈夫か?天才魔女よ。



ファイスの街にはそこそこ大きな市場がある。野菜、果物、肉類等々かなりの種類があり、いつも賑わっている。前にウィルが魚を買ってきた店もその中にあるはずだ。


俺とラミィはその市場で買い物をしようと、市場へ続く道を歩いていた。その途中ウィルの剣術道場や、俺とラミィが出会った噴水広場等を通る為、話題には事欠かなかった。



市場に着き、ラミィと肉屋の前で今夜食べる肉を吟味しているときだった。俺達の前方から歩いてきた軽装の兵士が俺達に気付いて立ち止まり、話しかけてくる。


「おや?ジャッジ殿ではないですか?」


「ん?あぁ、ロック兵長!この前はどうも。見回りですか?」


話しかけてきたのはロック兵長だった。


「えぇ。このあたりは混雑しているからか、スリの被害が度々あるのです。その為、我々も重点的に警戒しているのです」


軽く敬礼をしながらロック兵長はそう説明してくれた。

俺の隣でそれを聞いていたラミィは、ハッとしたように今まで腰あたりに下げていた肩掛けバッグを、両手で胸にしっかりと抱き締める。


スリが多いってだけで、別にロック兵長がスリってわけじゃないんだけどなぁ。と、俺が苦笑していると、


「ところで、その女性は?」


と、俺の隣で大事そうにバッグを抱き締めるラミィが気になったのか、ロック兵長が聞いてきた。


「ラミィって言うんです。俺のパートナーなんです、ま……」


危ない!うっかり()()()()()()と続けようとして、まずいことに気付いた俺は黙る。いかん、いかん!いつもラミィやウィルとは当たり前に話しているけど、それ以外の人には普通じゃないんだった。


「ま…?」


突然黙ってしまった俺にロック兵長は不思議そうだ。


「そ、そう!ま、…まじで大事なパートナーなんです!」


慌ててなんとか誤魔化す。


それを聞いたロック兵長は、


「ジャッジ殿もすみにおけませんな」


と、その厳つい顔でニヤニヤしている。


…ふぅ。危なかった。なんとか誤魔化せただろう。ラミィやウィル以外と話すときにはもう少し注意するようにしよう。と、俺は心に刻む。


ラミィにもロック兵長を紹介しようと、ラミィの方を振り向くと、


……そこには顔を真っ赤にして、呆然とした表情で何事かをぶつぶつと呟く、不世出の天才美人魔女がいた。



「…ぱ、ぱーとなー。…ぱ、ぱ、ぱーとなー…。じ、人生の…。ぱ、…ぱーとなー…」


どうしたんだこいつ?と、思いながらもロック兵長のことを紹介しようと思い、声をかける。



「おい!ラミィ。聞こえてるか?…ラミィ?」



俺の声を聞き、我にかえったのだろう。ビクッと体を震わせた後ラミィが返事する。



「はっ!な、なに?………あ、あなた」



ん?なんかいつもと呼び方が少し違う気もするが…。まぁいいだろう。



「ラミィ。この人はロック兵長。領軍の兵長でこのあたりの治安を守ってくれている人だ。ウィルの知り合いでもある」



俺の言葉を聞いたロック兵長は、なにかを思い出したのか。ハッとした表情をしたあと、元々厳つい顔を更に険しくさせて俺に話しかけてきた。



「そうでした!ジャッジ殿!ウィル殿のことでお話しておかなければならない事があります」


「ウィルのことで?ウィルはまだ家には帰ってませんよ。討伐隊としての期間は確か3日間でしたよね?」



俺がそう返事をすると、ロック兵長は「…やっぱりご存じではないですか」と、申し訳なさそうに言った後、事の経緯を説明してくれた。





「ということは…。ウィルは一人で盗賊団を探しに行ったってことですか!?」



ロック兵長の説明で状況を把握した俺が、責めるようにそう言うと、



「そ、そうなんです…。私の力不足で、本当に申し訳ありません!」



深々と頭を下げて謝るロック兵長。

…まぁ今の説明を聞く限り、ロック兵長に非はないだろう。むしろロック兵長も責任だけ押し付けられた被害者ともいえる。


しかし、まさかウィルがたった一人で盗賊団を探しに行ったとは思わなかった。剣の強さという意味では問題は無いだろうが、3日間も孤独に街の外で野宿をするのは辛かろう。



「頭を上げてください。ロック兵長が悪いわけじゃないですよ。それに、ウィルならきっと平気です。もしかしたら今日にでも帰ってくるかもしれなせんよ」



ロック兵長を気遣い、明るい声でそう話す俺。



「…そう言って頂けると私としても助かります。もし、ウィル殿が先にご自宅に戻られた際にはご一報ください。なにか連絡があった際でもかまいません。すぐに駆けつけますので!」



そう言った後、ロック兵長は見回りに戻った行った。





買い物を済ませ、噴水広場のベンチで適当に買ってきた昼食をラミィと食べていると、



「それで、ウィルのことはどうするの?心配?」



ラミィがそう聞いてきた。

心配じゃないと言えばうそになるだろう。だが、ウィルのことだ。一人でも大丈夫だろうとも思う。



「そうだなぁ。盗賊団くらいならウィル一人でも問題なく相手できるだろうな。…ただ、たった一人で野宿しながら盗賊団を探してるってのは、さすがにかわいそうかな。ラミィはどう思う?」



自分の気持ちを話した後、ラミィの意見も聞いてみようと質問する。



「そうね。私はアンタたちよりは一人でいることに慣れてるから、3日間くらいは平気ね。でもちゃんと家があるから、野宿って意味では経験ないわね。きっと心細いでしょうね」



…そうか。ラミィは俺に会うまで5年間も孤独に過ごしていたんだったな。一人でいることの辛さはよく知ってるはずだ。

かといってウィルがどこにいるか分からないから、手助けしに行くこともできないしな…。


なんて俺が悩んでいると、そんな俺の気持ちを察したかのように、



「私達もその盗賊団の討伐ってのを手伝いに行きましょうか」



ラミィがそう言った。



「…お前簡単に言うなぁ。俺だってそうしたいけど、どうやってウィルのことを見つけるんだよ。街の外って言ったら相当広いぞ」



そうなのだ。盗賊団が主に出没するのは街道沿いらしいのだが、このファイスの街からは計4本も街道が伸びており、ウィルがいったい今どこの街道をマークしているのかも分からないのだ。

捜索範囲は広大で、下手したらウィルとすれ違いになるリスクもある。


そう言う俺を見て、ラミィはなんでもないことのように言う。



「魔車があるじゃない。アレで探せばすぐ見つかるわよ」



確かに!魔車のスピードなら人が歩く何倍、いや何十倍もの早さで捜索できるはずだ!…しかし、



「…でもアレはちょっと目立ちすぎないか?あんなスピードで動く物なんて、この世の中に魔車しかないと思うぞ。それにラミィの家からどうやって持ってくるんだ?」



俺は疑問に思ったことをラミィに投げ掛ける。魔車はちょっと目立ちすぎる。他の人にみつかれば一悶着ありそうだ。


そんな俺にラミィはニヤッと笑い、いつものように腕を組み、小さな胸を張って偉そうにこう言う。



「そんなことなんの問題にもならないわ!この不世出の天才美人魔女のラミィちゃんに任せなさい!さぁ!そうと決まればさっさと私の家に帰るわよ!ほら!急いで!」



言い終わると、買い物した荷物を全部ベンチの上に残したまま、転移石を使うため俺の家に向かって一目散に駆け出す、天才美人魔女。


残された俺はなんとか荷物を全部担ぎ、ベンチから立ち上がる。重い足取りで一歩ずつ歩を進めていると、噴水広場の出口のあたりから声が聞こえる。



「おぉーい!早くしなさい!先に行ってるわよ!」



そう叫ぶとあっという間に姿はみえなくなった。





…はぁ。俺実は王子なんだけどなぁ…。

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