22
俺の後にラミィも風呂に入ったのだが、上がった途端寝室に引っ込んでしまい出てこなくなった。
俺は独りソファに腰かけて、どうしようかと頭を悩ませていた。
さっきのはお互い勘違いしていたわけだが…。恥をかかせてしまった俺が悪いだろう。こういう場合は、男が先に謝った方が角が立たないとどっかで聞いたような気がする。よし!謝りにいこう!
と、決心した俺はラミィの寝室の前まで行き、扉を2回ノックする。
「ら、ラミィ?起きてるか?」
勇気を出して声をかけた俺に対し、部屋の中から返事はない。
少し心が折れかけるが、ここで諦めたらせっかく出した勇気が無駄になる、と話しかけ続ける。
「ラミィ。さっきはすまなかった。俺が勘違いさせるような事を言ってしまった。本当にすまん!」
部屋の中からの反応はない。
「ラミィに恥をかかせてしまったことは反省してる。この通りだ!許してくれ!」
部屋の中にいるラミィには見えるはずもないが、扉に向かって深々と頭を下げる。
相変わらず、家の中はシーンと静まり返っている。
もしかして寝てるんじゃないか?と思うが、口が裂けても「寝てるのか?」などとは聞けない。
反応は無いが話し続けようと思った俺は、寝室の扉にもたれるように座る。
「なぁ、ラミィ。昼間ラミィが俺に昔のことを色々話してくれただろ?ラミィは孤独だったけど、今は俺と過ごせて楽しいって言ってくれた。実は俺もなんだ」
相変わらず反応はない。…これは寝てるな。
まぁ聞いてなくても別にいいか。俺が話したいだけだし。
「俺はラミィも知ってるように、国が無くなってからはずっとウィルと暮らしてきた。ウィルはすごくいいやつだけど、あくまでも従者だ。あいつはその姿勢をこれからも変えないだろう。しかも、俺はラミィに出会うまでほとんどベッドで寝て過ごしてきたんだ。まともな友達なんて1人も出来たことはない」
そこまで話したとき、部屋の中で衣擦れの音が聞こえた気がした。ラミィが寝返りをうった音だろうか?
「でも今はラミィがいる。こうやって怒らせたり、謝ったりできるのもラミィがいるからなんだ。ありがとな、ラミィ」
衣擦れの音はもう聞こえない。…やっぱり寝返りか。
「今は魔法の訓練をラミィとする毎日がすごく楽しい。…楽しいけど、いつかはそれも終わらせないといけない。俺にはハートランド王国を再興するっていう使命があるから」
俺は壁に向かって話しながら、風呂で考えていたことを話してみようと決意する。
「そうなったら今までみたいにラミィと一緒にいることは難しくなるだろう。転移石があるから離れ離れってわけじゃないけど…。たまにしか会えなくはなるかもな。………俺はそれはイヤなんだ」
決意したことを話そうと、俺は1つ大きく深呼吸する。
「…なぁ、ラミィ。もしよければ…。俺と一緒に来てくれないか?」
言った後心臓がドキドキするのを感じる。鼓動が激しくなり、心臓が口から飛び出てきそうだ。
しばらく待っても寝室からはなんの反応もない。
俺の心臓の鼓動だけが家中に響いているんじゃないか、と錯覚するほど静まり返っている。
「…寝てるか。おやすみ、ラミィ。また明日」
立ち上がってそう扉に向かって話しかける。そして、ソファで寝ようとリビングに向かって歩きだした時、
「………行く」
と、聞こえた気がした。
俺はすぐに振り向き寝室の方を見つめる。
ゆっくりと寝室の扉が開き、中から怒ったような泣いてるような、なんともいえない表情をしたラミィが顔を出した。
「……行くわ」
なんとか聞こえてはいるのだが、囁くような声で話すラミィに、俺はどう返事していいかわからずその場に立ち尽くす。
「い、一緒に行ってあげるって言ってるのよ!」
なかなか返事しない俺に、痺れを切らしたのかラミィが叫ぶ。
俺はそれを聞いてもなお反応しない。…というか心臓がドキドキし過ぎて、動いたり喋ったりしたら倒れそうで動けない!
「ちょっとアンタ!なに黙ってんのよ!この不世出の天才美人魔女のラミィちゃんが、一緒に行ってアンタの国の再興を手伝ってあげるって言ってるのよ!……って、ちょっと、アンタ大丈夫?」
まったく動かなくなった俺が心配になったのだろう。
ラミィが俺の側にやってくる。
その途端、糸が切れたように体に力が入らなくなりその場に膝を着く俺。
「きゃぁ!」
ラミィが驚きつつも素早く俺の体を支えてくれたため、なんとか倒れこむのだけは避けることができた。
「すまん、ラミィ。もう大丈夫だ」
ようやく心臓が元の働きを思い出してくれたようだ。さっきまでの激しい鼓動も治まり、体も動くようになってきた。
「いったいどうしたのよ!?」
ラミィが目の前で俺にそう聞いてくる。心配そうだ。
「ちょっとドキドキしすぎたみたいだな」
そう答えながら、自分の力で立ち上がる。
「ドキドキ?そ、そうね!私のセクシーな寝巻き姿を見たら、そうならない男はいないでしょうね」
ラミィは本気か冗談かよくわからない言葉を口にして、なんだか満足気だ。
やっぱりラミィといるとおもしろい。一緒に来てくれるつもりらしいし本当によかった。
「あぁ、そうだな。ラミィはすごくセクシーだよ」
なんだかラミィに優しくしたくなり、肯定するような言葉を返す。
それを聞いたラミィはまたも顔を真っ赤にして、
「あ、当たり前よ!それよりもう寝るわよ!アンタのベッドもちゃんと用意してあるんだから、ちょっと待ってなさい!」
と、足早に寝室に向かっていった。
俺はラミィの準備してくれたベッドに入り、今日の出来事を思い出していた。
今日1日で大分ラミィとの距離が近くなったような気がする。ラミィも自分の過去を話せるくらいには、俺のことを信用しているみたいだ。
ラミィがまさか同い年だとは思わなかったが、まぁそんなことはどうでもいい。何歳でもラミィはラミィだし。
一緒に来てくれるとは言ったが、旅立つことが正式に決まったらもう一度聞いてみた方がよさそうだ。ウィルにも話しておかないといけないしな。…そういえば、今日は夕方家を見に行くのを忘れていた。さすがにまだウィルは帰ってきてないと思うが…。念のため、明日の朝見に行ってみよう。
そうつらつらと色々なことを考えていたら、いつのまにか眠ってしまったようだ。気がつくと次の日の朝だった。
……というわけはなく、うつらうつらしている時にラミィが現れ、
「あ、アンタが寂しかったら、い、一緒に寝てやってもいいわよ」
と、言ってきたが。寝たふりをしていると、
「あ、あれ?もう寝ちゃったの?」
と残念そうに言いながら寝室に帰っていった。
正直かわいいと思ってしまった。
……寝たふりしなきゃよかったかな?