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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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「それでは行って参ります。ジャッジ様も十分お気をつけになってください。私もできる限り早く戻ってきますが、ちゃんと寝る前には歯磨きをして……」


討伐隊出発の早朝。しばらく家を空けるウィルが出発の挨拶がてら、色々な注意事項を俺に話している。


「ふぁぁ~。わかったわかった。大丈夫だから早くいってこい。まだ荷物のチェックとか残ってるんだろ?みんな待ってるぞ。ほら!ほら!」


「むう…。わかりました。行って参ります」


…まったく、ウィルは俺をいくつだと思ってるんだ?もう20才だぞ。

と、なかば追いたてるように心配性な剣聖を送り出した。


「さて、まだラミィの所に行くのは早いし。もう一眠りするか」


まだ早朝であり、あまり早く来るなとラミィも以前言っていた。そう思った俺は再びベッドの住人となるべく部屋に向かった。





「ちょっと!起きなさい!!おーい!」


体を揺すられながら甲高い声が聞こえ、俺は目を覚ました。


「んー。ん?なんだ、ラミィか」


なんとか目を覚ました俺の上には、ラミィが馬乗りになりこっちを見つめている。目が腫れぼったい気がするが気のせいだろうか。

俺が起きた事を確認したラミィは、急いで俺の上から降り、ベッドサイドに立つとなぜか怒った口調で怒鳴ってきた。


「なんでこないのよ!ずっと待ってたのよ!」


「なんでって…。まだ早いからもう一眠りって…ん?もうこんな明るくなってたのか。いやーすまんすまん。やっぱり二度寝は危険だな」


どうやら寝過ごしたみたいだ。あたりはすっかり明るくなっている。ラミィは俺が来るのを待っていたが、いつまでたっても現れない俺にしびれを切らし迎えにきたのだろう。


「今日からアンタが泊まるっていうから、こっちは昨日の夜から掃除したり、ベッドを用意したり、色々して待ってたのよ!」


「だからごめんって。急いで準備するからちょっとまっててくれ」


ラミィの言葉に急かされ、急いで身支度をする俺。こいつ、けっこう今日のことを楽しみにしてたのかも知れないな。…ん?昨日の夜って言ったか?こいつまさか寝てないとかないよな?


「おい、ラミィ。お前その準備ってやつはいつまでかかったんだ?ちゃんと寝たのか?」


そう尋ねる俺に、ラミィは少しドキッとした顔をしたあと言い返す。


「ね、眠くなくなったのよ!私くらいの天才魔女になると2、3日寝なくてもどうってことないのよ!」


どうやら眠れなかったらしい。遠足に行く前の子供みたいなもんだな。まったく…。見た目と同じで中身も子供なのかもしれない。

まぁそれだけ俺が泊まりに行くのを、楽しみにしててくれたのはうれしいが。


身支度をちゃちゃっとすませ、一応家の中の戸締まりをする。毎日様子を見に帰ってくる予定ではあるが、ウィル次第では最長3日間は留守にするからだ。

最後に入り口に鍵をかけラミィの待つリビングに向かう。


「終わったぞ。行こうか」


そう声をかけるもラミィの反応はない。みるとリビングの椅子に座ったまま、うつらうつらしているラミィがいる。やはり徹夜したんだろう。眠気に勝てなかったようだ。


「怒ったと思ったらすぐ寝る。ほんとに子供みたいなやつだな」


自分も寝坊したためあんまり偉そうなことは言えないな。と苦笑しながら向かいの椅子に座り、寝ているラミィを眺める。


こいつこんな見た目をしてるがいったい何歳なんだろう?

ラミィの過去については、今まで意識的に聞かないようにしてきた。魔女という特殊な素性ということもあり、なかなか聞けないでいた。という方が正しいかもしれない。

しばらくは一日中ラミィと過ごすことになるし、付き合いも長くなってきた。いい機会だから聞いてみようかな?なんて考えていたとき。


パッ!

という音が聞こえそうな勢いでその大きな目が開き、ラミィが目を覚ました。


「起きたか。眠ければまだ寝ててもいいぞ」


そう言う俺に対し、


「なによ。アンタも寝てたじゃない。私はちょっと目を瞑ってただけよ」


と、いつもの強がりを言う。


「あー、そうだな。寝てるお前を見てるのも楽しかったがな。ほら、行くぞ」


俺の言葉に恥ずかしそうな顔をしたラミィは、ポケットから転移石を取り出しながら、小さな声で俺に尋ねる。


「な、なんか寝言言ってた?」


「寝言?いやなんも言ってないと思うぞ。かわいい顔ですやすや寝てたな」


「か、かわいい…」


なんて呟きながら転移石を床に投げるラミィ。俺はラミィに続き床に空いた穴に飛び込んだ。




ラミィの家に着き荷物を置いたあと、ラミィ先生といつもの訓練を始める。魔法の訓練をし始めてから結構たつが、色々と分かってきたことがある。


俺は規格外の魔力量を持っているが、どうやら繊細な魔力のコントロールは苦手なようだ。ラミィから教わった初級的な、ほんの小さな種火を出す魔法でも。俺が使うと、火を着けようと思っていた薪の山が一瞬で燃え尽きる位の炎が出てしまう。


ラミィと一緒に色々と工夫してみたのだが、特にあまり魔力を消費しない魔法ほど相性が悪いみたいだ。ラミィが言うには、


「魔法っていうのはイメージとか感覚がなにより大事なのよ。例えば私が種火の魔法を使おうとしたときは、魔力の出る蛇口をちょこっとだけひねるイメージで魔力を使うわ。でもアンタはそのバカみたいに多い魔力のせいで、ちょこっと蛇口を開いてもドバーッと魔力が出てきちゃうのよ」


と、言うことらしい。

前から思っていたが、ラミィの説明は俺にはすごく分かりやすい。教わると比較的すぐなんでもできることが多い。感覚が近いのだろうか?ちょっとやだな…。


というわけで着実に使える魔法は増えてきている。しかも俺は魔力量が並外れて多いせいか、回復も早いらしくいくらでも続けて訓練ができる。…まぁしないが。




「これでこの魔法も完璧ね!アンタなかなか筋がいいわ。さすが私の一番弟子ね!」


そう言うラミィはうれしそうだし、偉そうだ。


「まぁ、例のごとくラミィが教えてくれたものとは威力が違うが…」


目の前の惨状を目にしながら俺は呟く。

今教わっていた風を操る魔法だが、ラミィは小さな竜巻を作り落ち葉を器用に巻き上げていた。

それを真似しながら俺が使うと、ラミィの作った10倍程の竜巻が起こり、大木は飛ばさないまでもその葉を根こそぎ巻き込み吹き飛ばしてしまった。

おかげで鬱蒼としていた森が、この辺だけ明るく見通しもよくなってしまっている。


「それで?なんて名前にするの?」


「また名前か?お前好きだなぁ…」


魔法について勉強するなかで知ったのだが、基本的にそれぞれの魔法に決まった名はないらしい。使う魔女が好きに呼んでいるらしく、なにも言わず無言で使うことだってできる。

ただ俺の師匠である不世出の天才美人魔女ラミィ先生は、それぞれの魔法に名前をつけることが好きなようだ。ただネーミングセンスはない。

例をあげるなら、台所の釜戸に火を着けるときに「ヘルファイヤ!」と言っているのを聞いたことがある。言葉だけ聞くと、家ごと焼き尽くしてしまいそうだ。


「竜巻を起こすから……。「つむじ風」にしようかな」


俺がそういうと、


「えぇ~!つまんない。アンタのはそんなかわいいもんじゃないわよ!「トルネード」とか「サイクロン」とかがいいんじゃない?ねぇ、どう!?」


と、ノリノリで返してくる。すごく楽しそうだ。


「まだこれは初級魔法だろ?もっと威力が出るやつのためにとっとくよ」


そう誤魔化しておいた。ラミィも「それもそうね…」と、うまく誤魔化されてくれたようだ。


そんなことよりそろそろ昼御飯にしようと俺が提案し、ラミィも賛成したため家の中で一緒に準備をする。

ご飯を食べた後は午後の訓練はお休みにして、俺の希望でラミィ島の見学ツアーを行う予定だ。

結構ここには来ているが、家のまわりしか知らない。そこそこ広いらしいし、できれば海というやつも見てみたい。

とても楽しみだ。

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