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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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結局反乱軍との共闘?といっていいのか分からない作戦に参加することとなり、その日のうちにケイレブ伯爵に向けて手紙を出した。


届けるのはヒコウキーに乗れるラミィだ。今回はやりとりもスピードが大事だと判断したからで、もちろん護衛としてウィルも一緒に行ってもらっている。


本当は俺も行きたかったのだが、さすがに夜襲でもない真っ昼間に敵陣の中まで入り込むことは皆が許してくれなかった。


その代わりウィルには俺の意思を細かく伝えたので、ケイレブ伯爵と話し合って細部まで一度で決めることができるだろう。


何故か退却しないアルト王は不気味だが、俺に今できることは今日も今日とて魔法で敵を削ること位だ。




「なんか今日は飛んでくる矢が少なくないか?」



俺は砦の最上部で盾に隠れながらチマチマと魔法を放ちながら、感じた事を隣にいるロックに尋ねる。



「そうですか?ここ数日はこのくらいだと思います。やはり相手もただやられるだけという事を理解してきたのではないでしょうか?」



隣で盾を構えながらそう答えるロック。


先日の爆発玉での砦破壊騒ぎ以来、ウィル不在の時は進んで俺の護衛を買って出てくれるようになったロック。どうやらそれに使命のようなものを感じているようだ。


俺としては筋骨粒々のロックが目線も鋭く辺りを警戒してくれるので助かっている。ウィル程とは言わないがかなり安心感はある。



「……ジャッジ様。ひとつお聞きしてもよろしいですか?」



ロックが飛んでくる矢への警戒もそのままに、ふとそう声をかけてきた。


俺はロックの方を向き直りそれに答える。



「ん?なんだ?」


「………いえ。ジャッジ様は今後イーストエンド王国はどうなっていくとお考えなのですか?」


「ん?どうなるって?なにが?」



ロックは真剣な表情でそう尋ねている。だが、俺にはロックの質問の意図がいまいち分かっていない。どうなるって、……どういうこと?



そんな俺に対して、ロックは言葉足らずだったと気付いたのか更に続ける。



「この戦争に負ければアルト王の失脚は避けられないでしょう。……というか、まず生きて祖国の土を踏むことはできないと思われます」


「うん。そうだな。俺も生きて返すつもりはないよ」



ケイレブ伯爵と考えた作戦でもそれは一番重要な事柄になっている。まだ若いアルト王だけに不憫と言えば不憫だが、彼にはこの戦場で散ってもらうしかないだろう。


俺の返事に軽く頷くロック。



「そして、短期間で膨れ上がった国土も当初と同じか、それ以下にまで減少するでしょう」


「……あぁ。それも間違いないな」



俺はそう答えながらなんとなくロックの言いたいことが分かってきた。


ロックにとってイーストエンド王国は故郷だ。今でこそハートランド王国に欠かせない大事な国民だが、息子もまだ住んでいるイーストエンド王国のことが心配じゃないはずがない。


つまり、戦後のイーストエンド王国がどうなるかが不安なのだろう。そこに暮らす無数の人々のことが。



「大丈夫だ。ロック。安心していい。まだイーストエンド王国にはケイレブ伯爵もいるし、ホースだっている。俺には他の貴族のことは分からないけど、俺にできることがあればもちろん力は貸すさ」



俺はまだ話足りなさそうなロックの言葉を遮るようにそう話す。



「…………は、はい」



ロックは俺に言いたいことが伝わったと感じたのか、やや戸惑いながらもそう答えた。


そりゃそうだろう。こんなちっちゃい国の若い王に「大丈夫だ」なんて言われてもそうそう安心できるものじゃないだろう。


俺もなんとかロックの不安を取り除いてあげたいが、まだまだ俺では力不足だ。とにかく行動で示していくしかない。



「ロック。もうすぐラミィ達が帰ってくるはずだ。そしたら少しは今後の事も分かるようになるんじゃないかな」



俺はロックの肩に手を置きながら、出来るだけ明るくそう話しかける。



「……はい。そうですね!」



ロックも自分を誤魔化すかのように明るく答えた。


……すまんな、ロック。もっと頼れる王になれるように俺も頑張るよ。












「ほー……。伯爵はそこまで話をつけてたのか。早いな」



俺がちょうど昼食を食べ始めようとしたタイミングで、ひょっこりラミィとウィルが戻ってきた。


ケイレブ伯爵の所で昼食もご馳走になってきたという二人は、俺が食べるのを待ちきれないように話し合いの内容を早速報告してくれた。



「はい。ケイレブ伯爵達無所属派の貴族達も皆乗り気のようです」


「まぁ、それはそうだろうなぁ」



俺は主にウィルからの報告に最後のパンを飲み込んだ後、相づちをうった。



ケイレブ伯爵は、俺からの返事か()であると予想して、反乱軍だけでなく自らの所属する派閥の貴族とも既に話を進めていたらしい。


作戦の決行は今日からちょうど1週間後。俺たちダポン・ハートランド連合軍はその日に伯爵達とタイミングを合わせて総攻撃に出る。


目前の敵どころか、味方だと信じていた後方の部隊からも総攻撃を受けるのだ。アルト王からすればたまったもんじゃないだろう。


更にその日に多少前後するかもしれないが、反乱軍も占領された元母国の地でそれぞれが反旗を翻すことになっている。現在イーストエンド軍がまともに動かせる半分以上の兵はここにいるから、反乱鎮圧に当たるのは残りの寄せ集めと言っていい兵達だ。


元々は占領された国の兵も多いだろう。同じ元国民同士で争うことになるのか、それともいっそのこと反乱軍と行動を共にするのかは不明だ。俺達としてはこれを好機と見て自国を取り戻す為に立ち上がってほしい所だ。




俺がそこまで話をつけたのかと言ったのはその後の話だ。なんとケイレブ伯爵達、無所属派の貴族達は戦後の事まで考えていた。


この戦や反乱の鎮圧で有力な元王子派、つまり現在のアルト王を支持している大貴族は軒並み力を失うと読んでいて、戦後当初程度までに縮小すると予想されるイーストエンド王国の実権を自分達が握れると考えている様なのだ。


……まぁ、そうそう目論み通りに事が運ぶとも限らないのだが、冷静に状況を判断できるケイレブ伯爵がそう話していたのなら確率は高いのだろう。



「……しかし、伯爵は次の王は誰にするつもりなのかな?誰かちょうどいい王族でもいるのかな?それとも自分が王位に就くつもりとか?」



俺はひとしきり頭の中で色々と考えた後、誰に向けるとはなしにそう呟いた。


実際アルト王亡き後の王座が空位のままなのはあまりよろしくはないだろう。残った貴族や王族での後継者争いの火種にもなりかねない。


ここは戦後の一番の有力者であろうケイレブ伯爵がバシッと指名するのが一番波風が立たない方法のような気もする。



俺のその呟きが聞こえたであろうウィルは内心ビクッとなったが、さすがの達人の体捌きで周囲にその動揺は微塵も感じさせなかった。



「さ、さぁ。ケイレブ伯爵には何かお考えがあるご様子でしたが、私共には教えて下さらなかったです。ねぇ、ラミィ殿」


「…えっ!?な、なに?聞いてなかったわ。………さ、さーて。腹ごなしに敵でも丸焼きにしてこよーっと」


「……………」



ウィルから話を振られたラミィが、そう言いながら不自然な動きでさっさと部屋を後にする。


……怪しい。これはかなり怪しいぞ。あの感じのラミィは間違いなく隠し事をしている。しかも重要な事だ!



俺がそう感じ、ラミィの後を追って尋問して吐かせようと椅子から立ち上がろうとすると、



「ジャッジ様!是非ジャッジ様にとケイレブ伯爵からお預かりしてきた物がございます!」



と、ウィルが俺の体を椅子に押さえつけんばかりに迫ってきた。



「ん?預かり物か?それは今がいいのか?」


「はい!是非今ご覧下さい!」



やや胡乱な目付きで見る俺の事など気にしないと言わんばかりのウィルは、さっと鞄からいくつかの包みを取り出し、それぞれを手際よく開いて見せた。



「おぉっ!これはそばクレープか?なんか中に白い物が挟まってるぞ!」



ウィルが持ち帰ったお土産に思わず興奮してしまう俺。

それは以前ハートランド王国でオリビアやエマが考案したそばクレープに間違いないのだが、あのときの物と違うなんか美味しそうな具材が包んであるではないか!



俺の興奮を満足げに眺めたウィルは、やや自慢げに説明を始めた。



「ごほん!これはケイレブ伯爵が主導して開催したそば料理大会での優勝作品との事です。セカーニュの街でも有名な菓子店の一人娘の作品で、既存のそばクレープに生クリームとかいう甘味を包んだ物らしいです。是非ジャッジ様にとケイレブ伯爵が持たせて下さいました」



俺はウィルの説明を聞きながらも、視線はそばクレープに釘付けになっていた。


なんと美味しそうな見た目だろうか!エマ達がご馳走してくれたのには、たっぷりと山で採れたハチミツがかかっていたが、これには溢れんばかりに中身が詰まっている。


これが美味しくないはずがない!とにかくまずは一口食べなくては!



と、まんまとウィルの策略に乗せられた俺は、その後新型そばクレープを満足するまで次々とたいらげたのであった…。

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