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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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ラミィからのおみやげのソバを久しぶりに堪能した俺は、翌日いつもより元気になった気分だった。


実際よく寝坊する俺が、朝早く目覚めて一番に作戦室に到着した位だった。



「じ、ジャッジ様!おはようございます!」



作戦室の前で見張りをしていた兵も、そんな俺を見た途端びっくりしたように挨拶してきた。……俺が早起きするのってそんな珍しいかな?



「あぁ。おはよう。皆はまだかな?」


「はっ!まだどなたもお見えになっておりません」


「そっか。ありがと」



一番乗りなのを兵からの返事で確認した俺は、早速扉を開けて作戦室に入る。


朝食までにはもう少し時間があるから時間潰しでここまで来たようなものだ。特に何があるというわけじゃない。戦いの音も聞こえないから、イーストエンド軍の攻撃もまだなのだろう。



俺は部屋に入るといつもの指定席にドカッと腰かける。目の前の大きな机には常にこの辺りの地図が開かれている。これを見ながら作戦をたてたりするのだが、最近はそれをすることも少なくなった。それ位圧倒的な戦況なのだ。



「ん?」



俺が腰かけた途端、何かおしりに違和感を感じた。どうやら何か踏んづけてしまったようだ。


俺は一度椅子から立ち上がり、椅子の座面に視線を落とす。すると、俺が踏んづけてしまったせいで少しくしゃくしゃになっているが封筒がそこにはあった。



「……手紙か?こんなとこに?」



不思議に思いながらも、それを手に取り裏を確認する。そこには見慣れたケイレブ伯爵の紋章がしっかり入っていた。


どうやら昨夜のうちに使者がここを訪れていたらしい。見張りもいる中、それを掻い潜って誰にも知られずにこの部屋まで到達するとはなかなかの技量だ。ケイレブ伯爵も大貴族だけあって様々な配下がいるようだ。



「どれどれ?」



俺は再び椅子に座り直すと、封筒を慎重に開けてその中身の便箋に目を通す。朝一番に読むには相応しい綺麗で丁寧なケイレブ伯爵の書いた文字が俺の目に飛び込んでくる。


手紙の内容は、ケイレブ伯爵とホースが掴んだ内部情報や現在の部隊の配置等から始まっていた。そして、最後まで読み終わった俺は手紙を封筒にしまうと、しばらくそのまま腕組みをして考えを巡らせていた。



「…………これは皆に相談しないといけないな」



そう呟くと、とりあえずは朝食を摂ることにして作戦室を後にした。











「ジャッジ様。いかがなさいました?急に皆をお集めになって…」



朝食後に俺が主要なメンバーに作戦室に集まるように指示すると、一人も欠けることなくすぐに皆集合してくれていた。


………ラミィだけはまだ明らかにパジャマで寝ぼけているが、まぁいいだろう。



俺は皆が揃っているのをもう一度確認すると、懐から先ほどのケイレブ伯爵からの手紙を取り出し机の中央に置いた。



「今朝届いたケイレブ伯爵からの手紙だ。皆も交代で読んでみてくれ」



そう言うと、俺は椅子に深く座り直して皆が手紙を読み終わるのを待つ姿勢になる。それを見た皆も、俺の意を察したのかまずはウィルが手紙を手に取った。




順番に皆が手紙を読み終わり、手紙が封筒にしまわれ俺の手元に帰ってきた。俺はゆっくりと封筒を懐に仕舞うと皆に向けて口を開く。



「……ということらしい。皆はどうするべきだと思う?」



ケイレブ伯爵からの手紙には、いつもの内部情報の他に今回は重要な事が記されていた。


結論から先に言うと、それは反乱の兆しだ。それも兆しというにはやけに具体的な物だった。



イーストエンド王国内で無所属派の筆頭であるケイレブ伯爵の元には様々な情報が集まってくる。その中にはもちろんここ最近占領した国々の情報も含まれているのだが、そのうちの数ヵ国が結託して反乱する気配があるらしいのだ。


しかも根回しとして無所属派の貴族を頼ってきたらしい。そんなことからケイレブ伯爵の所に話が回ってきたららしいのだ。



「それはどの程度信用できる情報なのですか?」



ガイル将軍がもっともな質問を投げ掛けてくる。それもそうだろう。ガイル将軍からすれば、ケイレブ伯爵はこの戦場にも敵方として参戦している敵将だ。面識があるとはいえさほど親好が深いとは言えないのだ。


俺はやや苦笑しながらそれに答える。



「あぁ。ケイレブ伯爵なら信頼できる人物です。それは俺が保証しましょう。それに伯爵の申し出も成功する確率が高いからこその提案だと思っていいでしょう」


「い、いえ!ジャッジ様を疑ったわけではありません!も、申し訳ありません!」


「ははは。ガイル将軍も国や民を思ってのことです。お気になさらずに」



慌てて謝罪するガイル将軍に俺は笑いながらそう声をかけた。



ケイレブ伯爵の手紙には続きがある。


反乱の日時まで相談してきたやけに真面目な反乱軍と、タイミングを合わせて総攻撃をかければどうか?という提案だ。


これは確かに成功すれば効果は大きい。アルト王をこの戦場で亡き者、もしくは行方不明にでもすることができればアルト王の派閥は大きくその力を削がれるだろう。


そんなタイミングで起きた反乱を鎮圧するのは大変だろう。というか無理かもしれない。



「むぅ…。おそらくですが、この戦場次第では貴族軍にも出動命令が下るでしょうね」



ウィルが俺の考えを読んだかのように呟く。さすがウィルだ。いつも一緒にいるだけあって考えることも一緒みたいだ。



「俺もそう思う。そこでケイレブ伯爵達無所属派の貴族がそれに応じないとなると…?」


「反乱は成功する……ですか?」


「うん。そうなるだろうな。それを見越しての相談と思っていいだろう」



俺がそう答えると、ラミィ以外の皆は一様に唸りながら頷く。ラミィだけはまだ半分眠っているようで、聞いているのかいないのか分からない様子だ。



確かにそうなればもうこんな無駄な侵攻などしている余裕はないだろう。あくまでも新しい王次第だが…。



「となると、ジャッジ様はケイレブ伯爵の提案するこの作戦にご賛成なのですか?」



ロックが皆を代表するようにそう尋ねてくる。

皆が一番気になるのはそこだろう。


ケイレブ伯爵は俺の返事次第では反乱軍の提案に乗るつもりでいる。反乱とタイミングを合わせて自らもアルト王に反旗を翻し、後方から攻撃を仕掛けると言っているのだ。もちろんその中にはホースやその部隊も含まれている。


俺はロックのその質問に対して明確な答えを持っていなかった。だからこそ皆に相談したのだ。



「うーん…。正直悩んでる。この作戦は成功しても失敗してもある程度の犠牲は覚悟しなければならないだろ?俺はそれはいやなんだよ」



そんな風に俺が正直に自分の気持ちを吐露すると、何故か皆は呆気にとられたような表情をしていた。


……はぁ。やっぱりこんな優柔不断な奴が国王だと呆れられたかな。俺だってもっとバシッと物事を決めて、皆を引っ張っていきたいけど…。その為に大事な国民が犠牲になるのはいやなんだよなぁ。はぁ…。



俺がそう心のなかで自らの指導者としての至らなさに嘆いていると、



「…………ぷっ」


「………くっくっくっ」



と遠慮がちながら確実に笑い声が俺の耳に入ってきた。



「………アンタもバカねぇ」


「なんだよ!バカとは」



ラミィが皆を代表するようにそう声をかけてくる。ラミィにだけはバカだと言われるのは心外だ。俺だって自分の至らなさは理解しているのだ。でもラミィよりはマシだと思う。



「ジャッジ様」



俺がラミィに言い返していると、ウィルが間を取り持つように声をかけてきた。


これはかなり珍しい事だ。ラミィとの揉め事には無関心……どころかいつも風のようにその場を去るウィルが仲裁に当たろうとしているのだ。


ウィルはラミィは元より、他の皆の反応にも納得できていない俺に向かって優しく続ける。



「ジャッジ様のお優しい気持ちは十分皆も理解できました。皆もまさか自分達や部下達の身を案じて作戦への参加を躊躇っておられるとは思ってなかったでしょう。……しかし、皆はこの戦いが始まった時に既に覚悟は済んでおります。どうかジャッジ様のお心のままにお決めください」



そう言うと皆を振り返るウィル。残りの皆もその言葉に笑顔で頷いている。


ラミィすらあきれ顔で「うんうん」と頷いている程だ。



……あれ?もしかして俺って余計な心配してた?

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