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マイノリティ  作者: 胸毛モジャ夫
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イーストエンド軍対ダポン・ハートランド連合軍の戦いは開戦して二週間を迎えていた。


新兵器をことごとく失ったイーストエンド軍は物量に任せた力押しの攻勢を繰り返し、その度に反撃に遭い少しずつ兵力を損耗させていった。


また、持参した食料はとっくに底をつき後続の補給部隊頼りとなっていたが、その補給線も目に見えない不思議な空からの攻撃によってほとんど封じられていた。



反対にダポン・ハートランド連合軍の方はというと、基本的には砦に立て籠りながら機を見て突撃を繰り返し、味方の被害は少なく、敵の被害は大きくという効率的な戦い方を徹底していた。


その結果、未だ死者は数えるほどしかおらず、推測ではあるがイーストエンド軍との兵力差も開戦当初の5倍からすると約2倍程の違いしかないと思われた。


食料や矢などの補給も問題なく行われており、負傷者は順次本国に送り返され治療されるなど、正にイーストエンド軍とは天と地ほどにその扱いには差が出ていた。




「ただいま帰ったわよー」


「おう。おかえり。どうだった?」



俺が作戦室でウィルとイーサンと作戦会議と言う名のおしゃべりをしていると、ヒコウキーでハートランド王国の様子を見に行っていたラミィが帰ってきた。


昨日出発して、一晩ゆっくり休んで帰ってきたラミィの手にはおみやげとみられる物まで握られている。



「平和なものね。イーストエンド軍もこっちにかかりっきりで向こうまでは手が回らないんじゃない?…これはおみやげね」


「ありがとう。お疲れさま」



俺はラミィから箱を受け取るとそう労いの言葉をかけた。


このおみやげは後で開けるとして、今はまだラミィに聞きたいことがあるのだ。



「ラミィ。あの武器についてフォージは何か言っていたか?」



そう。ウィルが謎の刺客から奪った武器をラミィに持たせて、フォージに意見を聞いてきてもらうように頼んでいたのだ。


鍛冶師として経験のあるフォージならもしかして見たことがあるかと思ったのだ。そうでなくても仕組みなどは俺たちよりずっと詳しいに違いないからだ。



ラミィはその言葉を聞いてハッとした表情になる。



「わっ……。わ、忘れてないわよ!」



そして、あたふたとポケットの中身を漁っていたが、一枚の紙を取り出すと俺に向かって差し出した。



「フォージと一緒に分解してみたらこんな造りになっていたわ。フォージも私もこんな仕組みは見たことないわね」


「これかぁ…」



俺はその紙を受け取ると、覗き込むウィルとイーサンと一緒にまじまじと眺める。


正直これを見たところで何も分からないのだか、鍛冶師のフォージや、無属性魔法で色々な道具を作り出すラミィには何か分かったのだろうか。



「それで?これで何が分かるんだ?」



俺が手元の分解図のようなものを見ながらそうラミィに尋ねると、ラミィは正にどっこいしょと言った感じで適当な椅子に腰かけると口を開いた。



「結論を先に言うと、それはそのままじゃ弾は飛ばないわ。推進力が圧倒的に足りてないのね」


「推進力?」


「そう、推進力よ。弾を飛ばす力のこと。私やアンタの魔法みたいに劇的な威力の何かが必要よ。………そう、例えば爆発玉の原料とかね」


「……………!?」



ラミィの言葉にハッとさせられるその場の一同。


まさかこの武器も爆発玉と同じ材料が使われているのか?確かに爆発玉の威力は想像より大分上だった。あの威力を生み出す基となった材料で弾を発射すれば……ウィルを傷つけたことも納得できる。



「……なるほど。それじゃ尚更爆発玉の秘密を手に入れないといけないな」


「えぇ。その方がよさそうね」



俺とラミィは視線を合わせて頷き合う。


こういう真剣な表情のラミィもまたかわいい。………というのは今は置いておこう。そんな場合じゃない。





俺は長旅で疲れたであろうラミィにゆっくり休むように言った後、ウィルとイーサンを引き連れてガイル将軍の元に向かうことにした。


主に指揮を執ってもらっているガイル将軍から戦況の報告を聞きに行くのだ。


ここ一週間程は毎日同じような戦況の繰り返しだとは報告を受けているが、そろそろ動きがあっただろうか。できればイーストエンド軍には早めに撤退してほしい。総力戦になってケイレブ伯爵やホースの部隊とぶつかることは避けたいからだ。



あぁ、そういえばここ2週間で2回程ケイレブ伯爵からの手紙が届いた。


中身はケイレブ伯爵属するイーストエンド軍の内情についてが主だったが、やはり食糧難らしい。このままだと伯爵の部隊が直接領地まで食料を調達に行くことになりそうだ。とも記してあった。


もしそうなったらその部隊へのヒコウキーでの空襲は止めにしないといけないと話し合ったところだ。


他にもアルト王への不満が兵の中で充満していることや、後方の占領国できな臭い動きがあることなども記されていたから、この戦いも近いうちに決着するかもしれない。


さっさとこんな無意味な戦は終わらせて、早く露天風呂でゆっくりしたいものだ。





ガイル将軍は砦の門の近くで突撃隊に何事か命じていたようだったが、俺たちが階段を降りてくると駆け寄ってきた。



「ジャッジ様。何かご用ですか?」


「いやいや。特に用事はないんです。戦況はどんな感じかと尋ねに来ただけです」



俺がそう答えると、ガイル将軍はやや胸を張るように自慢気に答えた。



「はっ!戦況はこちらの優位が続いております。連日一方的とも言える戦果を上げ続けておりますし、敵の損耗も日増しに多くなっていると思われます」


「そうですか。ならこの戦も近いうちに終わりそうですか?」


「はっ!このままの戦況が続けば早晩敵の兵力は底をつくでしょう。……というより、既に撤退してもおかしくはない現状なのですが」


「…ですよね」



……そうなのだ。ここまで一方的に兵力を減らされたら、普通はとっくに撤退している頃なのだ。一度撤退して兵力を補充した後に再び出兵すればいいのだから。


それをしないのはまだ隠し球を持っているのか、それとも何かそれができない理由があるのか…。


どちらにしても、いくら敵国とはいえ一時は暮らした国の兵が無意味にその命を散らせていくのを見ているのはあまり気持ちの良いものではない。



「やはり何か撤退できない理由があるのでしょうか?」



ウィルも同じことを感じていたようで、そう声に出して疑問を投げ掛けてくるが、俺にもその答えは分からない。


どうにかその辺りをケイレブ伯爵やホースが突き止めてくれればいいのだが、アルト王の胸中までは難しいのだろう。



「分かりました。ありがとうございます。引き続き指揮をお願いします」


「はっ!」



俺はそうガイル将軍に声をかけると、少しハートランド兵達と話をしてから砦の階段を登った。



もうしばらく様子を見る他無さそうだ。とりあえず今夜はラミィからのおみやげを開けよう。わざわざ戦地まで届けてくれたのだ、中身も期待できるぞ。


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