16
次の日、いつもと同じ時間にラミィのところに行き、魔法の訓練を受けながら昨夜の話をした。
俺の話をラミィはふんふんと、あまり興味なさそうに聞いていたが、ウィルの「ジャッジ様のお側を~」の件のときには。
「アンタ達ってもしかして…」
と、変な勘繰りをされそうになったので。
「違う!ラミィが想像しているようなことはない!俺は女が好きだ!」
と、ハッキリ宣言しておいた。前から思っていたが、この自称天才美人魔女は、変な小説かなんかが愛読書なんじゃないだろうか?今度本棚をじっくり探してみようと思う。
訓練を終え、家に戻るとすでにウィルが帰っていた。今日は早いなぁと思いながら「ただいま」と声をかける。その声を聞いたウィルは、俺の方を申し訳なさそうな顔で振り向いた。
「ジャッジ様…。実はジャッジ様にお話しておかなければならないことがあります」
あまり見たことがないウィルのその姿に、俺はびっくりする。
「ど、どうした?なんかしてしまったのか?」
「いえ…。実は昨日の話に関係するんですが……」
ウィルの話を要約するとこうだ。
ロック兵長の頼みをハッキリ断った為、もうその話はなくなったと思っていた。しかし、今日になってウィルという凄腕の剣士がいるという話が、領主の耳にまで届いたそうだ。
領兵をあまり街の外に派遣したくないが、街の政財界で大きなちからを持つ商人達の頼みも無下にできない領主は、その話を聞くなりウィルを領主の館に呼び出したというのだ。
今日の午後呼び出されたウィルは、さすがに領主の招聘を断ることはできず、道場を昼から休みにして向かったそうだ。そこで、領主からほぼ強制のような形で討伐隊への参加を要請され、やむ無く受けてしまった。という話しだった。
話を終え、申し訳なさそうな顔でこちらを伺うウィル。
俺のことより、大変なのはウィルの方じゃないか!と思うが、ウィルはそうは考えないのだろう。
「まぁまぁ、こうなったもんは仕方ない。気にするなウィル。領主の機嫌を損なうと暮らしにくくなるかもしれないしな。それで、討伐隊ってのは具体的にどんなやつで、どのくらいの期間なんだ?」
気にしてないということをアピールするために、出来るだけ明るい声でウィルに話しかける。討伐隊といってもまさか盗賊団を討伐するまで帰ってこれない。なんてわけはないだろうし、期間が決まっているだろう。
だが、帰ってきたウィルの声はさっきより申し訳なさそうだった。
「それがですね…。討伐隊は私を含めた領兵10名。しかも盗賊団を捕らえるか、壊滅させるまで繰り返し派遣するようで…。つまり無期限です」
たった10名でしかも無期限!?そんな無茶苦茶な計画聞いたことないぞ!驚く俺にウィルはさらに続ける。
「一応報酬は出るようですが…。お金の問題ではないのです。一度討伐隊として街の外に出れば、おそらく2、3日は帰ってこれないでしょう。その間のジャッジ様が心配で…」
なるほど。ウィルがこんなに落ち込んで申し訳なさそうなのは俺の事があるからか。まったく、俺ももう子供じゃないんだが、この前まで寝てばかりいたから心配なのかもしれないな。
「ウィル。俺の事は心配しなくて大丈夫だ。2、3日くらい1人で平気さ。なんならラミィに頼んで泊めてもらってもいい。それよりウィルは大丈夫なのか?盗賊団は大人数なんだろ?たった10人でなんとかできるのか?」
そう言う俺が意外と平気そうだったことに安心したのか、いつもの調子でウィルが言葉を返す。
「そうですね…。この際ラミィ殿に頼む方が安全かもしれませんね…。しかし、泊まるとなるとまた変な薬物を使われて、寝込みを……」
「ラミィはそんな薬物持ってないし、使わないぞ」
ウィルの言葉を遮るように弁解する。まったくウィルは心配性すぎる。さすがのラミィでもそんな薬は……あれ?持ってないよな?
「そうですね。さすがにラミィ殿でもそこまではしないでしょう。それにジャッジ様に相応しいのはもっと大人の気品ある女性でしょうしね」
…もう2度もラミィに胸で泣かれ、この前なんかはそのまま抱き締めてしまった俺は、ウィルの言葉に妙にドギマギしてしまう。
「そ、そうだな。そ、それより大丈夫なのか?たった10人で」
ちょっと動揺してしまったが、大丈夫。バレてないだろう。
「えぇ、それは問題ありません。盗賊団さえ見つけてしまえば、あとは私1人でどうにでもなるでしょう。出来るだけ早くジャッジ様の元に戻るためです。この際、捕縛と言わず全員切り捨てようと思っています」
さらっと恐ろしいことを言うウィル。それを簡単に実現出来そうなところが更に恐ろしい。
「ウィルが怪我でもしたら大変だから、無理はしないようにな。俺はラミィのところにいるから安全だろうし」
ラミィの住む家は島に建っているから、盗賊団などとは無縁だろう。その名もラミィ島。前聞いたらラミィが勝手にそう呼んでいるだけだと言っていた。正確な名前があるかは分からない。
「明日行ったときに泊めてもらえるか聞いておくよ。ウィルもいつから討伐隊に参加しなくちゃいけないのか聞いておいてくれ」
「わかりました」
そう会話を締め括ったあとは、いつものように夕食を食べ、ここの領主の印象やウィルが聞いた盗賊団について。さらにはロック兵長がわざわざ謝りに来たことなどを話した後、それぞれベッドに入った。
「えっ!泊まるって…。あ、アンタがうちに泊まるってこと!?」
今、ラミィに昨日のウィルの話を伝え、その間泊めてもらえないか聞いたところだ。
「あぁ、泊めてもらえるとウィルも安心して討伐隊に参加できるし、俺も助かるんだが…。ダメか?」
俺がそう言うとラミィは笑顔を無理矢理しかめっ面に変え、それでも溢れでる笑みを隠しきれない顔で、偉そうに腕組みをしながら俺に言う。
「そういう事情なら仕方ないわね。まぁ、アンタはこの不世出の天才美人魔女ラミィちゃんの一番弟子なわけだし、しばらく泊めてあげてもいいわ」
よかった。俺の師匠である、不世出の天才美人魔女は弟子に優しいらしい。
「まだいつからかは分かんないんだが、そのときはよろしく頼む。なんか手伝うことがあれば、泊めてもらうお礼になんでもするから言ってくれ」
俺がそう言うと、
「…な、なんでも。…ゴクリ。」
と、明らかに唾を飲み込む音が聞こえる。
おいおい、なにさせる気だよ…。
ま、まぁいつも世話になってるから、泊めてもらうときくらいはラミィの機嫌でもとってあげよう。
ウィルが討伐隊として街の外にでる日は、7日後と決まった。その間俺は一応ラミィの家に泊めてもらいながら、夕方には一度転移石で家の様子を見に帰ることにした。盗賊がいつみつかるか分からないため、いつウィルが帰ってこれるかも分からないからだ。
期間は3日間とし、それで盗賊団を壊滅できなければさらに7日後に3日間という感じでいくらしい。ウィルは最初の3日間で壊滅させる気でいるから、おそらくそうなるだろう。剣聖を越える実力は伊達じゃない。
それから出発までの日はウィルは討伐隊の準備に終われていた。ウィル以外は正規の領兵なのだが、なぜかウィルがリーダーの役目を仰せつかったらしい。まぁ剣の腕や道場を経営している人柄なんか考えれば妥当かな?とも思う。
そんなこんなであっという間に討伐隊出発の朝が来た。